コネクション・イン・ザ・トワイライト
消え行く暮雨に濡れながら、僕と彼女はよく知った道を歩いていた。大きな並木通りだけど、桜の季節はとうに終えていて殺風景だ。彼女は僕の横顔を思案げに眺めていて、僕はそれに気づいていながら、薮睨みのような視線をあちこちに配せる。もの言いたそうにしているのを知ったうえ、それを撥ねつけようと決め込んでいるからだ。
もう数分と待たずに、彼女の家へと着こうとしている。ずっと通い続けた道のりだから、時計を見なくたって分かってしまう。用水に沿った路地を歩いている。
「ねえ」
それが果たして、彼女のものなのか、一瞬判断できないほど小さな声だった。気づいた途端、僕ははっとして、思わず足を止めてしまう。彼女が口を開くことなど、思いもしなかったからだ。
「明日の天気、知ってる?」
「……いや、わからないけど」
確認しようか、ほんの一瞬だけ考えて止めた。
「たぶん、晴れるよ。春だしな」
「もう夏だよ」
「なら余計晴れる」
彼女はうつむいて、僕よりも2、3歩先を往きはじめた。彼女の言うとおり、雨はずいぶんと温かい。春はもう帰って来ない。その代わりに、死に満ち溢れた季節がすぐそこまで来ている。
「なあ」
「……なに」
「また、誘うよ」
「うん、待ってる」
横顔が後ろ手を振るのを見送って、僕は向かいの道へ足を進めた。
約束までしたのに、僕にはもう、彼女と繋がることなどできやしない。手段や、資格があっても、離れていく心をとどめておくことはできない。ちょうど、過ぎていく季節が完全な移ろぎを見せるように。
電線と烏たちの合間から覗く暗がりの空には、鋭く光る月の姿があった。夕立は緩やかに止んでいった。
「KOLOKOL」が過去についてだったので、今回はできるだけ最近のことを書いてみました。失恋をしたわけではないんですが