5日目『仲直り大作戦』
――教室。
ぶすぅー
司が目を丸くする。
「何だ?朝からいきなり・・・」
ぶすぅー
「喧嘩でもしたのか?」
ぶすぅー
「・・・・・・」
ごすっ
司の肘が俺の脳天を直撃し、遅れて鈍痛が走る。
「いっ、いってぇーな!チクショウ!」
頭を押さえ、立ち上がる。
「ガキみたいにいつまでもふて腐れてるお前が悪い」
司は腕を組み、俺を睨め付ける。
だってだって!仕方ないだろ、俺のせいじゃないんだから。
司の言うとおり、俺は朝から超がつくほど不機嫌だった。そりゃもう、教室の雰囲気が沈むほどに。金曜日に寝ぼけて風呂を覗いてしまったばっかりに、俺は邪神の怒りに触れてしまったのだ。これでもかといわんばかりの怒りの鉄槌をくらった挙句の果てに足蹴にされ、それでも俺は必死に弁解した。
誤解だと。
しかし戯言だ、などと軽くあしらわれ蔑む眼差しを向けられた。そんな捨て犬のように可哀相な俺だが、飼ってほしいとこびる眼差しを眼鏡の中年男性に向けるチワワの如く、めげずに心から謝罪した。
だがっ!あいつは一度たりとも俺の善意を受け取ろうとはしなかった。そればかりか、この二日間完全に無視され続け、今に至るというわけだ。
その旨を司に力説すると、
「それは全面的にお前が悪い」
妙に納得された。ムカつくぞコノヤロー。
「どうして?俺は無罪だ。それでも善意で謝り続けたんだぞ?」
司は「わかってないな」とでも言いたげに首を振った。
「事故でも故意的にしても、それはこの際どうでもいい。事実霧宮秋人は風呂場に侵入した。違うか?」
――違わないけど・・・・・・。
「お前は裸見られても平気だろうが、女性はお前とは違う。ほら、よく言うだろ、女心は複雑だって」
「なんだよ、悟り開いたみたいに。じゃあ自分は女心が分かるのかよ」
「分かるかバカ」
即答しやがった。しかも堂々と。
「男には一生かかっても分かり得ない事なんじゃねーのか?」
俺は唇を突き出す。
「へーへーそうですか。わかりたくもないね」
「まったく・・・じゃあこれからどうすんだよ?」
「なにが?」
「仲直り」
「もういい。別に仲が悪かったって死なねーし」
ぷいっと顔を背ける。
「そうか・・・ま、いいけどな。お前が綾崎家に行きづらくなって自炊するだけだし」
「うっ・・・」
そういえばそうだ。今までのように夕食にのこのこと顔を出せなくなる。そしたら司の言うとおり自炊する羽目に・・・。週二日瑞穂と自炊するだけでも面倒なのに、それを毎日か。考えるだけでも眩暈がする。それ以前に、行きづらくなる理由が不毛すぎる。「瑞穂の風呂覗きました」なんて明日香さんに言って、もし蔑むような視線を向けられたら・・・。
「ダメだっ!それはマズイ!」
机を思いっきり叩いて立ち上がる。
「じゃ、決定だな」
――何が?
司にしてはテンション高めで告げる。
「仲直り大作戦、開始だ」
司が不敵な笑みを浮かべた。
――気付いたんですけど、俺、ハメられてません?
少々気付くのが遅かった秋人であった。
――放課後。
司に言われたとおり、校門で瑞穂が来るのを待ち伏せする。
俺に与えられし任務。それは・・・
『一緒に下校』
・・・ちょっと待て。何で一緒に下校なんだ?つか、詳細聞かないでただ頷いてしまった俺はバカか?そもそも、一緒に帰ってくれるのか?あーいやこれには語弊があるな。この後に及んで、俺がなぜ一緒に帰らねばならないのだ!それに司、一緒に帰ったところで結果が出ないのは目に見えてるだろうっ!司めー、嵌めやがったな。
仲直りせざるを得ない理由はあるんだ。あるが、いま一つ腑に落ちない。すべて俺の責任か?違うだろ。たった一度のミスで俺がこんなにも悩まされるのは瑞穂のせいだ。そう、瑞穂のせい瑞穂のせい・・・。
腕を組みながら悶々と悩んで、せわしなく行ったり来たりを繰り返していると、瑞穂が校門に近づいてくる。
「あ」
これは俺の声。瑞穂と目が合った。しかし、瑞穂はすぐに目を逸らし、何事もなかったかのように校門から出て行く。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
思わず呼び止めて後悔する。次になんて話せばいいんだ。「一緒に帰ろう?」・・・・・・なんて言えるかボケェ!
「何?」
瑞穂が立ち止まり、振り向きざまに言う。
「あ、いや、その、えと・・・」
しどろもどろになりながら、言葉を模索する。その間も瑞穂は冷ややかな眼差しで睨んでくる。
俺は、意を決して言った。
「一緒に帰っても・・・いい、か?」
瑞穂は口元に手を当て、暫く逡巡しているような表情を見せる。
そして何故か頬をほんのり赤く染めて、
「いい――」
「「「まてぇぇぇぇぇい!!!」」」
瑞穂が口を開きかけたとき、遠くから爆走してくる人たちの叫び声が重なった。
数秒後、俺はムサい取り巻きに囲まれる。
「な、なんなんだお前ら!?」
俺を取り巻いている男ども三名がにやりと口元を引き上げる。
「なんなんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け」
右の前髪の長い男がポーズを取りながらおっしゃる。どっかで聞いたフレーズだな、おい。
「瑞穂ちゃんの安全を守るため、瑞穂ちゃんの貞操を守るため、愛と真実で悪を貫く」
左のオールバックにした男がポーズを取りながらおっしゃる。
「ラブリーチャーミーな敵役、ムサ――(以下略)」
「銀河を掛けるロ○ット・・・・・・ごほっ、ごほっごほ、ファンクラブには、白い明日が待ってるぜ」
ラストに真ん中のちょいデブ男が決めポーズ。
口を開けて唖然とする俺。対して瑞穂は頭に手を当てて、げんなりとした表情をしている。
――うわぁ〜、ここから離れてぇ〜。
いや、瑞穂ファンクラブの方々だってことは十分すぎるほどわかった。だがイタい。イタいぞこのロ○ット団。「ピカ○ュウ!10まんボルトだ!」なんてノリで言ったら明日から学校来れねぇよ。つか、こう思った時点で俺もマニア?
「とにかく!抜け駆けは許さん!!」
「へ?」
俺は四肢を抱えられ、そのまま校舎へ連行されてゆく。
「おいまてよっ、おまっ、どこさわっ・・・・」
必死に抗いながら辺りを見渡すと、部活をしている生徒や、帰宅する先生方の好奇の視線がビシビシと伝わってきた。
「や、やめっ、マジで・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲痛な叫びが辺りに響くが当然助けるなどという馬鹿げた行動をとるものはいる訳もない。
一人取り残された瑞穂は、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
――ああ、マジで死にたい。
今回はもうグダグダです・・・・・・。
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