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3日目『男はつらいよ』

 朝、やっとの思いで教室に辿り着くと、いま一つ風采が上がらない男子生徒3人に囲まれた。


「なぁ、秋人ってさぁ、なぁ〜んか綾崎先輩と仲いいよなぁ」


「昨日だって一緒に帰ってたの見た奴いるし」


「ぶっちゃけどういうカンケーかなぁって」


 笑いながら徐々に距離を詰めてくる。見事なチームワーク。


「・・・・・・何?」


 俺が顔を上げると、3人は明らかに顔を引き攣らせた。それもそのはず、俺は朝方までゲームに勤しみ、目の下に盛大な隈を作り、いかにも不機嫌そうなおんちゃんの如き眼光を放っていたのだから。まぁ、俺は明日香さんの言葉が気になって一睡もできなかったのが本音だが・・・・・・。


 それにしても、おい、何だその引き様は?軽く傷ついたぞ。


 バケモノでも見たような面下げて固まっている3人にむかって繰り返す。


「で、何?」


「「「なんでもございません」」」


 見事なコンビネーションを発揮し1ミリのぶれもなく同時に一礼すると、そそくさとクラスに溶け込んでいった。本当になんなんだあいつらは。


 俺は窓際の自分の席に着くと、大きな欠伸を一つした。


 眠い。激しく眠い。


 震度6強の地震が教室を襲ったって、校庭に未確認飛行物体が降り立って地球侵略の手始めにこの教室を占拠したって、目の前でスカートがはためいたって、それはどこ吹く風。顔を上げようとも思わない。


 ・・・・・・いや、さすがにスカートには反応するけど。だってねぇ?男のさがだもん。


 ふむ、それにしても、だ。瑞穂の人気はやはり凄い。この学校の男子で瑞穂の名前を知らない奴はいないんじゃないかと思えるほど、男子同士で恋バナになったり猥談をしたりすると必ず一度は瑞穂の名前が挙がる。さっきの3人組も目を輝かせていた。揃いも揃って篭絡されているのを目の当たりにすると、同じ雄であることが悲しくもなってくる。


 俺はそんな哀れな奴等に教えてやりたい。女はお前らほど純粋で単純じゃないんだって。つか、すでに何度も教えてやったが、俺の話に耳を傾けてくれる奴などいなかった。それどころか「俺たちの瑞穂姉さまを穢すなぁー!」とか言って蹴りいれられた。


 重症だな、こりゃ。


「よ」


「・・・・・・」


 司が声をかけてきたが顔を上げる気はない。


「寝てんのか?」


「・・・・・・・・・」


 寝ようとしたところをお前に邪魔されました。


「お前宛にラブレター届いてるぞ」


「・・・・・・・・・・・・マジ?」


「まさか」


――司めー・・・。


 司は俺の机に腰掛ける。


「乗んじゃねーよ」


 司は不機嫌オーラ丸出しの俺の顔を3秒ほどじっと見つめると、


「情けねえ顔」


「うるせぇっ!」


 そんなのこっちはとうに気付いてんだよ。それにお前に言われると数倍ムカつくわ。


「隈凄いけど」


「知ってる」


「悩み事があって眠れなかったのか?」


「・・・・・・」


「図星か」


「っ!うるさいうるさいうるさい」


 喚きながら両耳を塞ぐ。


 そんな俺を見て司は溜息を吐くと、


「今日ゲーセンでも行くか?」


「何で?」


 司は視線を逸らし、何か躊躇う表情をする。


「・・・別に」


――?


 やっぱりわからない。こいつの考えてることを察せるようになるには、三ヶ月という月日じゃ短すぎるのか?


「行きたいのは山々だけど、生憎とどっかの我侭野郎のせいでマジで金欠なのよ」


 悪いなという意味を込めて苦笑いをする。


「そうか、ならいい」


 司は少し残念そうな表情を残し、自分の席に戻っていった。




――昼休み。


 授業中同じ体勢で寝通していたため、体の節々が痛む。軽く伸びをして骨を鳴らしていると、ズボンのポケットがメールの受信を示すように震えた。


 携帯を取り出しメールの受信ボックスを開く。


「・・・・・・よし、寝るか」


 何事もなかったように携帯をしまうと、机に突っ伏した。



ヴ――、ヴ――、ヴ――



 机に突っ伏したままポケットを探る。


 待ち受け画面には「メール受信1件」の文字。


「・・・・・・」


 何も言わずにポケットにしまう。


 しばらく逡巡し妙な不安を感じたので、安らかに眠れる場所を探そうと立ち上がったとき、



ごふっ



 右ストレートが俺の鳩尾みぞおちえぐった。暫く悶え、声にならない声を発する。


「・・・よ、吉田っ!いきなり何しやがるっ!」


「うるさいっ!世の男子の怒りだと思えっ!!」


 そう涙声で叫んで教室の入り口を指し示すと、辺りに神風を巻き起こしながら脱兎の如く去っていった。


 殴られたことも忘れ、暫し呆然としながら吉田の出て行った入り口を見るともなしに見ていると、



 瑞穂が満面の笑みを浮かべてこちらに手を振っていた。



――そういうことですか・・・。


 俺は廊下に出る。


「何だよ、4棟まで来て」


 瑞穂は俺の言葉に少しむっとした表情を作った。


「放課後買出しに行くから」


「何で?」


 訳がわからず聞き返すと、瑞穂は「そんなことも分からないの」と言うようにため息をつく。それだ、その態度がムカつくんだよ。


「今日金曜日よ」


「あ、そうか、明日香さんいないのか」


 毎週金・土・日は、明日香さんが夫の篤史さんの単身赴任先に向かうので料理を作ってくれる人がいなくなる。日曜日の夕方頃には明日香さんも帰ってくるので、その日の夕飯の心配はせずともよい。しかし金・土は自炊するか食べに行くかして乗り切らないといけないのだ。まぁ、ほとんど自炊しているのが現状だけど。


「わかった、それじゃ放課後、校門で」


「うん」


 瑞穂は「待たせたら承知しないからね」と一言付け足すと、踵を返して足早に去っていった。


どもども黒野晋です。

クロノススムって変な名前ですよね?

・・・・・・自分で付けて後悔しました。


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