28日目『星空の下で』
「やっと起きてきたわね。この寝ぼすけ」
私が1階の大広間に顔を出したときには、すでに皆食卓についていた。
「ごめん、私寝ちゃったみたいで……」
目を覚ましたときには、すでに部屋は赤く染まっていた。窓が開けっ放しになっていて、身体に掛けてある薄手のブランケット1枚では、潮風は少し肌寒く感じたのを覚えている。
「そんなことはいいから早く席に着きなさい。もうお腹が減って死にそうなんだから」
「さっきつまみ食いしてたくせに……」
「なんか言った?」
「別に」
仲がいい?姉弟を傍目に空いた席に腰を下ろす。
大きなテーブルを女性陣と男性陣が挟むようにして皆が席についていた。こちら側は私、有紗、緋那ちゃんの順に、あちら側は狩谷さん、司君、秋人の順に並んでいる。
「さあ、せっかくの料理が冷めてしまいます。腕によりを掛けて作ったわたくし特製の海鮮フルコースです。どうぞお召し上がりください」
狩谷さんが少し得意げに言った。なるほど目の前にある料理はどれもこれもおいしそうなものばかりだ。彼は料理には少なからず自信があるのだろう。
「いっただっきまーす」
フォークとナイフを握り締め、真っ先に食べ始めたのは有紗。
「う〜ん、おいしーい」
本当においしそうに食べる有紗を見ていると、こっちまで幸せな気分になるのは、たぶん彼女が無邪気だからだろう。
「いっぱい泳いだみたいね」
だからそんなことを言ってみたら、予期せぬ返事が返ってきた。
「今日は海には行かなかったわよ。代わりにこの家の中を探検したりして遊んでた。あ、そうそう、お風呂すごかった!夕食が終わったらさっそく入りに行こ!」
「そっか……ありがと」
有紗はにこっと笑って私に食べ物を勧めてきた。
皆気をつかって海には行かないでくれたのは、ちょっと心苦しいけどとても嬉しい。
私はシーフードパスタを口に運んで「あ、おいしい」と呟いた。
「そういえば私の部屋に来たのって有紗?」
女の子3人で大理石の広いお風呂に入りながら、ふと尋ねた。
「違うよ、秋人っち。なんで?」
「え?別にただ誰か気になっただけ」
じゃあ毛布を掛けてくれたのは秋人なのか……。
その嬉しい事実に頬を緩める。でもなんだか少し照れくさい。
――寝顔、変じゃなかったかな……。
今更だが、気になるものは気になる。後でそれとなく秋人に探り入れとこう。
「綾崎先輩のぼせました?大丈夫ですか?」
緋那ちゃんに言われてはっとする。慌てて大丈夫よと言い繕うと、彼女は笑顔を見せた。
「あの、先輩は今日どんな夢を見てたんですか?」
「え?」
「霧宮君が幸せそうな顔で寝てたって言っていたので」
すると横から「バカ面って言ってた」と有紗が小さく訂正した。
「そ、そう。ええっとね……」
言えない。どんな夢だったかなんて。だって……。
「忘れちゃった」
「そうですか、残念です」
緋那ちゃんは少しいたずらな笑みを覗かせる。私は空笑いをしてごまかした。
「私もう上がるね」
夢の内容を思い出したら本当にのぼせてきた。
先にお風呂を出てきた私はウッドデッキに佇む人影を見つけ、外に出た。
「あーきと」
後ろから声をかけると、手すりに体重をかけて夜空を見上げていた秋人が振り向いた。
「ん?どうした?」
「何してるのかなって思って」
「いや、星が綺麗だったからつい外に出てきただけ」
そう言って秋人はまた夜空を見上げる。私も釣られて見上げると、そこには幾憶もの星たちが瞬いていた。
「すご……」
「俺たちの住んでるとこじゃ、こんなに星見えないもんな」
「うん。でも秋人って夜空見上げて感動するようなロマンチックな人だったっけ?」
にたっとおどけて笑って見せると、秋人は眉をひそめて嫌そうな顔をする。
「はいはい似合わなくて悪かったな。でも、この星空見たら誰でも感動するんじゃないのか?」
「そうかも」
素直にそこは賛成しておく。
遠くから漣の音が繰り返し聞こえてくる以外は、何の音もしなくて、辺りは息苦しいくらいに静かだ。
風がまだ乾ききっていない私の髪を揺らす。
後ろに組んだ手を何度かもじもじさせた後、思い切って口を開いた。
「私が寝ている間に部屋に入ったでしょ」
思ったよりもぶっきらぼうな言葉が出てしまった。
「ああ。にやけ面で寝てたな」
「え゛っ……ほんとに?」
「夢でも見てたのか?」
秋人は卑屈な笑みを浮かべる。
「し、知らないっ」
訊かれたくないところをつかれて、思わずどもる。秋人は「ふぅーん」と意地悪そうに相槌を打った。
「もしかして誰かとキスする夢だったりして」
「な!?ち、違う!」
「違うってことは夢みてたんだな」
「っ!!」
動揺した。なんで夢の内容を秋人が知っているのか。
その夢の中では、私と秋人が恋人同士になっていた。それだけじゃなくてキスシーンも含まれているという、自分の願望をそのままにした夢だった。
――寝言でまずいこと言ったのかな?
どうしようもなく不安になり、震える唇を開く。
「わ、私、寝言でなんか…言った?」
秋人が私に向って歩いてくる。さっきまでの静けさは嘘のようだ。心臓の音で何も聞こえない。もしかしたら私が秋人のことを好きなのが図らずともばれてしまったかもしれないのだ。しかも寝言で。それだけは絶対に嫌だ。
そして、
「何も言ってなかったけど?俺そろそろ風呂入ってくるわ。皆もう上がった頃だろ」
そう言って秋人はそのまますれ違った。
「そうね」
力が抜ける。とりあえずばれてはないのかな?
秋人がいなくなってからも、私はここを動けずにいたのだった。
やっつけ感が否めない今回の話。
27日目とただ一緒に投稿したかっただけだということも付記。
更新遅いのろまなカメですが、いつも読んでくださってありがとうございます。
更新頑張ります!(注:更新スピードに変化を期待しないでください)