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18日目『余計な気遣い』

「どう?驚いた?」


「別に」


 頬杖を付いたまま、司はまるで興味がないとでも言うかのようにそう応える。友人の素っ気無い返事がなんだかおもしろくなく、俺はふんっ、とそっぽを向いた。


 出会い、動揺、非常事態、そして驚愕と、色々ありすぎて凄まじく疲れた一日から二日経過した今日。騒がしい教室の一角にある司の席の脇で、俺は司に大まかにその日の出来事を話していた。


 俺は司の驚きおののく様が拝めることを期待していたが・・・。なんだよ司め、少しは反応しろよ。あまりにも淡白な司の態度に少々苛立つ。


 鼻を鳴らし、司を見下ろした。司の表情は相変わらず読めない。


「で?お前の怪我は?」


「んー・・・アハッ、アハハハハ」


「誤魔化すな。キモい」


――テンメェ・・・


 握った拳を下ろし、溜息を一つつく。


「レントゲン撮ったけど、ヒビは入ってなかった。しかしな、結構“酷い”捻挫だって言ってたぞ?」


 それを聞いて司は押し黙った。ん?ちょっとは心配になったのか?


 俺がニヤニヤしていると、


「・・・“ただの”捻挫かよ」


「う、うるせぇ!!」


 司は「大仰だ」とでも言いたげに露骨な表情をする。腹立つなマジで。もしかして、さっきの間はわざとか!?


「医者は一週間もあれば治るだろうって」


「ふーん・・・」


「けっ、お前はほんとに人をムカつかせることに長けてるよな」


 俺は司をひと睨みした後、自分の右手に恨めしい視線を送り、肩を落とした。


 副木によって固定された人差し指には包帯が何十にも巻かれており、それは異様な太さになっている。それにしても、人差し指は勘弁してほしい。右手の人差し指が使えない状況は生活にかなり支障をきたすだろう。もうこれには溜息しか出ない。


 俺がこれからどうやって日常を過ごすか思案していると、司が急に手を差し出してきた。


「何この手。飴玉ならないぞ?ゴメンねぇ坊や」


「いらん。チッ・・・人がせっかくノートお前の分も取ってやろうかと・・・・・・」


 司はブツブツ呟いて、手を引っ込める。俺はすかさずその手にしがみ付き、


「スイマセンしたお釈迦様!!不肖霧宮秋人、ありがたく恩恵を授かる次第であります」


「離せっ!テメェでとれ!」


「いーやーだー」


 俺はそう言いながら司によよよ泣きつく真似をする。


 司は俺の押しに観念したのか、それとも餓鬼っぽい俺がウザくなったのか知らないが、


「わかったから早くノート持って来い」


 そう言って俺を手で追い払った。


――ふふん。なんだかんだ言ってあいつ友達思いなんだよな。


 かわゆい司の優しさに機嫌を良くした俺は、嬉々としてノートを取りに戻った。







――昼休み。


 パンとコーヒー牛乳の入ったコンビニ袋を片手に、今日も今日とて校舎裏へと向かうべく教室を出る。


「あ、霧宮君っ」


 呼ばれて振り返ると、廊下の先に見知れる人物を発見。その少女はショートの黒髪を揺らしながらこちらに小走りで向かって来た。


「や、片瀬さん。1日ぶり」


 こっちが微笑むと、片瀬もあどけない笑顔を返してくる。


――うん、元気そうでなにより。


 片瀬の笑顔を見てほっとする。実は、あの事件がきっかけで不登校になっていやいないかと朝から心配だったりした。まぁでも、今の笑顔を見ている限りそれもどうやら杞憂に過ぎないようだ。


「こんにちは。えっと、先日はすみませんでした」


「片瀬さんが謝ることじゃないって言ったよね?」


「そうですけど、でもやっぱり・・・・・・」


 片瀬としてはどうしても納得がいかないようだ。だけど、それは筋違いも甚だしいだろう。これでは俺のほうが納得いかない。


「謝るより、ありがとうって言ってくれたほうが、俺は嬉しいんだけど?」


「すみませ・・・じゃなくて、えっと、そうですね。ありがとうございました」


「ま、二日前にお礼言われたから、わざわざ言ってもらうこともなかったんだけどね」


 ふふんと嘲笑うかのように振舞うと、片瀬は少し唇を尖らせた。


「そうやってからかう人、嫌いです」


「悪い悪い」


 右手を上げて謝ると、片瀬の視線が包帯の巻かれた指に注がれた。


「・・・あの、お怪我のほうは?」


 そう言って上目遣いで覗き込んでくる。


「ん、かる〜い捻挫だって。やっぱりそんな大した怪我じゃなかったよ。全然痛くないし、医者も今日明日中には治るって言ってたから、片瀬さんは気にすることないぞ?」


 俺が言い終わらないうちに、片瀬は俺との距離を縮めて来る。


 そしておもむろに俺の手をとり、小さい二つの手で包み込んだ。


――え、ちょ、なに?


 いきなりの大胆な行動に心拍数が上昇する。包まれた右手は熱を帯び、しっとりと汗ばんできた。


 俺は訳が分からず、片瀬の顔と包まれた右手とを視線が行ったり来たり。片瀬は何も言わずに、じっと俺の指に視線を送っている。


「あの〜、片瀬さ―――ん゛っっ!!」


ぎゅうぅぅ


「いだだだだだだだ」


 人差し指を握られた。俺は咄嗟とっさに右手を引っ込め、涙目で片瀬を睨む。


「何すんだよっ」


「そうやってウソつく人、嫌いです」


 片瀬はふんっとそっぽを向いた。


「・・・は?」


「やっぱり痛いんですね?綾崎先輩のお母さんに電話したので、治るには一週間くらいかかることも知っています。腫れが治まらないことも。そもそも添え木がしてある時点で酷い捻挫だってわかります。私が原因のようなものなのに・・・。それなのにどうして、霧宮君は本当のことを言ってくれないんですか!」


 片瀬は一気にまくし立てたあとも、俺の答えを待つようにじっと睨んだまま。


 俺は一瞬にして嘘がばれたのと片瀬が怪我の詳細を知っていることに驚き、暫し呆然と立ち尽くす。


 焦点の合わない瞳を片瀬の瞳から放せないまま考える。


 片瀬はなんでこんなに詳しく知ってるんだ?


 あー、明日香さんに聞いたんだっけ。


 片瀬はなんでこんなに怒ってるんだ?


 知らん。


 そもそもなんでいきなりこんなことに・・・。


 解る奴がいたら俺に教えてくれ・・・。


 しっかり間を取って、押し悩んだ末に出た答えは、


「あ、あー、えーと・・・・・・・・・ここ廊下。とりあえず、落ち着こう」


 片瀬に注意を促すものだった。実に情けない。


「あぅ・・・」


 片瀬は自分たちが注目を浴びていることに気付くと、案の定、顔を真っ赤にして俯いた。


「つ、ついてきてください。ここだと、人が・・・」


 片瀬はぼそぼそと呟くと廊下を歩き出た。


「片瀬さん、今の話・・・」


「な、なんでもないですっ!」


 俺は背後で安堵の溜息を漏らした。







 薄暗い階段を上ると、小さな踊り場に出た。目の前にある鉄の扉の小窓から差し込む光が眩しい。


「なぁ、ここって屋上に通じる扉だろ?」


「はい、そうですけど?」


「ここ、鍵閉まってるよ」


 瑞穂に邪魔されずに安息できる憩いの場所を求めて、俺も試しにここへ来た。しかしあの時は鍵がかかっていて開かなかったはずだ。たぶん今も鍵がかかったままだ。じゃあ片瀬は何でこんな所に・・・?


「ふふっ」


 片瀬はいたずらっ子のような笑みを浮かべて、なにやらガチャガチャと・・・



 ガチャ・・・・・・キィー



「行きましょうか」


 片瀬に促され、屋上に出る。


 開け放たれたドアの先にはコンクリートのタイルと、それと対照的で突き抜けるような青天。鬱陶しい夏の日差しさえもが清々しく感じる。


 テニスコート5面分は優に取れるであろうこの場所は、四方を3メートル位のフェンスで囲まれているので、安全でもあるようだ。


「うっわぁ、すげぇ・・・」


 思わず感嘆の声を漏らす。


 やはり「屋上」にはなんとも言い難い魅力を感じる。初めてこの場所に立ったのなら感慨も一入ひとしおだ。


 片瀬が数歩前に躍り出て、くるっと振り返った。



「さぁ、ネタばらしの始まりです」


更新遅くなって申し訳ありません。

テストも終わっていざ書き始めるぞって意気込んだら、逆に書けなくなってましたorz

といいますか、片瀬緋那のキャラ設定が曖昧なままで・・・。はい、完璧自爆です。

なかなか甘い展開に持ち込めません・・・。

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