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11日目『Let It Be』

 朝。流れゆく景色を車窓からぼんやりと眺めながら、つり革につかまる。


 空は生憎の曇天。腫れぼったいグレーの雲からは、今にも雨が漏れ出してきそうだ。見慣れた町並みも、どことなく寂しいような、そんな錯覚に

陥る。今日の降水確率は午前中50%午後40%と、ブラウン管の向こう側でお天気お姉さんが無駄に輝く笑顔で言っていた。なんとも言いがたい微妙な数値である。おかげで傘持参だ。傘一つでも荷物が増えるのは鬱陶しい。


 それはともかく。電車の程よい揺れがなんとも心地よく、寝起きでスッキリしない頭をさっきから再び夢の世界へといざなおうとしてくる。やめれぇ〜・・・・・・。


 必死に睡魔に抗いながら、同じくつり革につかまって眠そうにしている瑞穂を横目で見やると、いつもより幾分腑抜けた表情で欠伸を必死に噛み殺していた。その無防備な顔がおもしろくて、ついつい頬が緩む。


 昨日、瑞穂はどことなく変だった。登校時はニタニタ顔で気持ち悪いくらいにハイだったが、下校時には泣き顔に変わっていた。本人は映画がどうとか言っていたが、それにしては不自然すぎるだろう。もうちょいマシな言い訳はできなかったのだろうか。真意を追求する気はないが、なんとなく引っ掛かりを感じずにはいられない。俺の知らないところで何かあったのかな?


 そんなことをろくに回りもしない頭で考えていると、電車がガタンと大きく揺れた。


「うおっ!」


「キャッ!」


 短い悲鳴と共に、背中に人が当たる衝撃を感じた。俺はつり革につかまっていたため平気だったが、後ろの人は揺れに耐え切れなかったらしい。ぶつかった拍子に落ちたものが俺の足元に滑り込む。


 俺は落ちている文庫本を拾い上げ、後ろに向き直った。


「どうぞ」


 文庫本を差し出し、相手が同じ高校の制服を着ていることに少し目を丸くする。


「すみません」


 その子は、申し訳なさそうに小声で謝る。身長が小さく俯いていることもあって、相手の顔は確認できない。俺が一声かけて回れ右をしようとしたとき、


「・・・それと、」


 ショートにした黒髪をさらっと揺らしながら顔を上げ、その子はにっこりと微笑んだ。


「ありがとうございます」


 思わずドキリとする。小柄で小首を傾げる姿が小動物を連想させる、なで肩で華奢な感じのする子で、小顔に大きな瞳がなんとも愛らしい。綺麗というより可愛いといった形容詞がしっくりくる。



 そう。瑞穂とは違うタイプの美少女が、目の前に立っていた。



 数秒呆けて我に返る。


「あ、ああ、いや・・・どういたしまして」


「東雲高の方なんですね」


 俺の服装からそう推察したらしい。


「そうだけど。君もでしょ?」


「はい。正直、怒鳴られなくてホッとしました」


「いや、ぶつかったぐらいでそんなことしないって。っていうか、そんな風に見える?」


 彼女は焦りながら両手と首を振る。


「そ、そんな風に見えません。私そういうつもりで言ったわけじゃなくて・・・」


 蛇に睨まれた蛙みたいに必死に弁解する姿が愛らしい。


「大丈夫だから。別に怒ってないし」


 そう答えたところで電車が止まる。「浦浜〜、浦浜〜、お降りの際は足元に――」車掌の終着を知らせるアナウンスが車内に流れ、ドアが開いた。


「あの・・・」


 アナウンスに耳を傾けていた彼女が口を開く。


「ん?」


「えっと、名前――」



ぐいっ



 左腕を誰かにつかまれ、ドアへと引きずられる。伸びている腕を辿ると瑞穂だった。


「わわっ、おい瑞穂っ!ひっぱんなっ」


 そんな抗議の声など無視して彼女は俺をホームへと連れ出す。その間、出会ったばかりの美少女は呆気に取られて固まっていた。


 俺はそのまま人の波に揉まれながら早歩きで改札口まで連れてこられ、有無を言わさず通過。一息ついていると、瑞穂は無言でとっとと歩き出してしまっていた。


「瑞穂、いきなりなんだよ」


 先に公道に出た瑞穂を追いかけ、歩調を合わせて隣に並びながら尋ねる。


「私今日日直だったの。すっかり忘れてた」


 結構ギリギリで学校に着く電車に乗っているため、今から急ぎ足で学校に向かっても始業まで15分程度だ。


「おいおい、日直がこんな時間に登校するなよ。そもそもお前はマイペース過ぎだ」


 何事かと思ったらただの凡ミスかよと肩を落とし、瑞穂に付き合わされる俺の身を哀れむ。


 そんな俺を瑞穂は般若の形相で睨み、


「うるさい!私だってミスすることぐらいあるわよ」


 逆ギレした。


 なんだってこんなにトゲトゲしいんだ。ついさっきまであんなに眠そうにしてたのに。どこかにスイッチでも付いてるんじゃないか?感情&表情切り替えボタンとかさ。


 わざと相手に聞こえるように溜息をつく。


「へいへい・・・。わかったから怒鳴るな」


 うんざりしながらもついていく俺って、従順だなぁ・・・。


 つくづくそんなことを思ってしまう。


「・・・・・・・・・」


 いやいや、従順なだけで “下僕”じゃないぞ?下僕ではない。決してない。下僕・・・・・・。



 将来瑞穂の専属奴隷にされないことを切に祈りながらも、長い一日は始まるのだった。



 そう、長い長い一日が、ね。


いやぁ〜、あっはっはっはっ、はぁ・・・・・・。俺って勉強しないなぁ。

ども、黒野です。

「更新楽しみにしてました」的なコメントもらうと、ついつい調子乗って執筆に勤しむ俺は単純ですね。このままだとPC没収されちゃいます。そろそろ親の機嫌とらなくては・・・。何かいい方法教えてください。

さて、今回はちょっと短めでした。すみません。

また、新キャラ登場しました。前々からこのキャラ出す予定だったので、気に入っていただけると光栄です。


投票とか、評価とか、感想とかいただけると“モノ凄く”嬉しいです。テストなのに続き書きたくなります。

注:無理強いはしてません。はい。

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