君ノ声
・・・見つかってしまいましたか、香月雪音の小説が。
かなりベタ甘な展開です。
悲しくなるほど、ベタ甘です。
現実とはかなり違う感じです。
モデルとなっていただいた皆様、ごめんなさい。
ここでお詫びします(_ _)
それでは、『君ノ声』お楽しみください。
,゜.:。+゜SpecialThanks,゜.:。+゜
S・Tさま
K・Yさま
(K・Hさま)
楽しく書かせていただきました。
ありがとうございます(*´∀`)ノ
せっかくの夏休みなのに、部活の県大会が入るだなんて、ほんと、俺ってヤツは、ついてない。
高校2年生の夏、彼女持ちの幸せなヤツらは、プールや海や映画館で、青春を謳歌してるって言うのに。
でも、俺だって、期待がゼロなワケじゃない。
タオルで汗をぬぐいながら、試合の興奮にざわついている周りを見回す。
・・・確かめたくて。
あいつが来てるか。
あいつっていうのは・・・
同じクラスで放送部員の、立花涼花。
・・・どうして、俺が彼女を待っているのかというと。
時は、羽ノ崎高校に入学した去年の春までさかのぼる。
入学直後恒例、学級内での自己紹介タイム。
『××中学校から来ました、立花涼花です。よろしくお願いします』
愛らしい声と、その美貌に、俺は言葉を失った。
そして、俺、郷田健一は、彼女に、一目惚れしてしまったのだ。
それ以来、もうずいぶん長いこと、ベタ惚れだ。
中学生時代もテニス部所属で、スポーツ推薦も狙おうと思えば狙えたけれど、面接に行くのが恥ずかしくて、諦めた。
勉強で高校に行くしか道が無くなって、猛勉強して、やっと受かった羽ノ崎高校。
超ダメダメな志望動機で、入学までは、迷いもあった。
こんな俺でいいのかな、って。
こんなんで、高校生活やっていけるのかなって。
でも、立花に出会って、心の底からこの学校に来てよかったと思った。
立花の存在が、俺の高校生活の代名詞になった。
立花の存在が、俺の生きる意味になった。
こんなに強い想いだけど、恥ずかしながら、・・・初恋。
聞くところによると、初恋は叶わないらしいから、成就する期待はしてないんだけどさ。
放送部員の立花は、朝、昼、帰りのホームルーム前に、放送をする。
そのときの声が好きだった。
甘ったるすぎなくて、でも優しくて、心安らぐ声。
立花のどこが好きかと聞かれたら、真っ先に声だと答えてしまうかもしれない。
2年生に進級して、また同じクラスになれたときは、本当に心拍数が急上昇。
『健一と同じクラスだぁ、ラッキー』
そんな立花のセリフには、本気でくらっときた。
その声で、そんなセリフ、フェアプレイじゃない。
反則だ。
絶対、言わないけどな。ってか、言えねぇ。
健一はシャイすぎるって、よく言われる。
家族も、学年のみんなも、クラスのみんなも、所属する男子テニス部のみんなも認める照れ性。
・・・別に認められても嬉しくないけど。
1年の時からダブルスでペアを組んでる灰原にも、よく言われてる。
『サーブ決めたくらいで照れるなよ』
『勝ったからって照れるなよ』
『いいボール来たからって照れるなよ』
人生に絶望したみたいな暗い顔して、けっこうあいつ、俺に対して言いたい放題だ。
俺と大して変わらない内気さの灰原。
そのくせ、ちゃっかり彼女持ち。
ちぇ、ヤなヤツだ。
灰原の交際しているお相手は、立花の部活仲間、香月雪音。
灰原は、ときどき深いため息をつきながらも、香月とそこそこカレカノらしくやっているらしい。
一緒に帰っているところに遭遇したこともある。
めちゃくちゃ焦ってたっけな、灰原。
対して、香月は涼しい顔で笑ってたっけ。
「あ、郷田じゃーん。・・・あ、彼女いない感じ?いない感じ??ドンマーイ!」って、超バカにされた。
ヤなヤツだな、香月。
灰原と香月は、完全に立場の上下が確定している。
大変だな、灰原。
でも、まぁ、青春って感じではある。
標準的な高校生らしいといえば、らしいと言えなくもない。
別にうらやましくないけどな。
・・・うらやましくないんだけどな!
ったく。
ちょっとぐらい先に彼女が出来たからって、調子に乗りやがって。
アホ灰原め。
だけど、余計なお世話。
俺は、この生き方が気に入ってる。
別に、照れ屋だからって、人生を損することが多いわけじゃない。
せいぜい、授業中に、先生から無理矢理当てられた発表でかみまくって、みんなから爆笑されるくらいだ。
あとは、好きな子にアプローチするのが苦手になるくらい、か。
今日のテニスの試合だって、シャイでも何でも、灰原と一緒にちゃんと勝ち進んでる。
次がいよいよ決勝戦だ。
どこから聞いたのか、俺たちが県大会に勝ち進んだことを知っていた立花。
試合の日も知っていた立花。
終業式の日、『絶対行くからね!』と微笑んでくれた。
あのとびきり魅力的な笑顔で。
・・・立花は、絶対に約束を守る。
だから、きっと来てるはず。
夏休みだろうが、暑かろうが、きっと。
「けんいちーぃ!」
・・・ほら。
いたじゃないか。
もう、振り向かなくたって分かる。
やわらかく響いてきたのは、あいつの声。
優しくて、たおやかな、立花の声。
「ん、あぁ、立花・・・」
立花は、ものすごい美少女だ。
去年から、男テニの中でもずっと大人気。
『立花ってかわいいよな』
『めちゃくちゃ美人!』
『放送部で一番じゃね?』
『いやいや、学年内でもトップクラスだろー』
『足長いしさぁ!』
『あれで顔もいいって言うのが最高だよな』
『ちょっとおとなしすぎやしないか?』
『そこがまた清楚でいいんだよなー』
『ほんといいよな、立花』
『今度メアドゲットしてえ』
とかなんとか・・・。
軽薄な部活仲間たちのアホな会話に危険を感じたことも、一度や二度じゃない。
ぱっちりとした大きな目。
細い輪郭線。
すらっとしなやかな体つき。
長い足。
ちょっと癖のかかった長い髪。
性格も穏和で、ほのぼのとしており、女子からも好かれてる。
友達も多いみたいだ。
まぁ、確かにおとなしすぎる感じではあるが、そこもかわいい。
足は速くて、スポーツ万能。
勉強にもこつこつ取り組む努力家だ。
いわゆる完璧美少女。
・・・こんな天使みたいな子がこの世にいていいのか、って思うくらい。
・・・って、俺!
しっかりしろ、郷田健一!
どーかしてんじゃねーか!
そんなキャラじゃねーのに!
「もうそろそろ試合?」
俺の気持ちを知らない立花は、本当に天使みたいな屈託のない笑顔で俺に声をかける。
「あぁ、あとちょっとしたら・・・」
それに対して、どう応じていいか分からず、俺はただ不器用に彼女の目に引き込まれる。
あぁ、神様。
俺、なんでこんなに引っ込み思案なんだ?
もうちょっとだけ、俺に饒舌さがあったなら、こんなに苦労しなかっただろうに。
「そっかー。がんばってね」
「ん・・・」
ってか、誰か!
助けてくれよ!
俺、しゃべるの超下手なんだけど!
もういい!
誰でもいい!
もはや、この際、灰原でもいい!
・・・と言いつつ、灰原も奥手だからなぁ。
ちょっと天然入ってる感じだし。
時々アホだし。
ぼーっとしてるし。
口下手だし。
あのめんどくさい香月とは、よく続いてるよ、ほんと。
よく耐えられるよな、灰原。
立花は、どちらかというとおとなしめ。
話していても、なんとなーく安心できる。
リラックスできるって言えばいいのかな。
会話のテンポが速い女子たちより、安らげる感じ。
立花と話してると分かる。
俺は、騒々しい女子は苦手なんだって。
だから、一瞬だって沈黙のない香月みたいな女子は、苦手だったりする。
ほんっとーに、灰原の忍耐強さは最強だな。
尊敬するよ。
いや、マジで。
「灰原は?」
「あ、灰原クン?今、そこで・・・」
立花が指さした方向には、羽ノ崎高校の制服の女子。
それと、我らが男子ソフトテニス部の真っ赤なユニフォームの男子。
「あぁ、香月が来てるのか」
少し離れたところで談笑しているのは、何だか仲よさげな男女。
香月と灰原だ。
底抜けに明るい香月と、限りなく陰気な灰原。
上手くいくとは、男テニの誰も予想してなかったが。
・・・たぶん、灰原自身も予想していなかったんだろうが。
くっそ、青春しちゃってるねー、お二人さん。
「雪音たち、何かいい感じだよねー」
「ん・・・」
俺もああなれたらな。・・・立花と。
なーんて思ってしまうのは、この夏の暑さのせいなんだろうか?
「でも、いいよね、健一たち」
「ん?」
「夏に部活頑張れるって」
唐突に言われ、首をかしげる。
「立花たち、部活無いんだっけ?」
「んー、ウチはそんなに強くないからねー」
苦笑しながら、立花はつぶやく。
あぁ、そうだった。
立花の苦い横顔が、記憶のどこかに触れる。
立花の所属する放送部は、お世辞にも強いとは言えない。
地区予選に勝ち進んだことさえないような、そんな部活。
面と向かって言うようなアホなヤツはほとんどいないけど、周知の事実。
つまり、夏休みだろうが、冬休みだろうが、気が狂いそうなハードスケジュールで試合続きの俺たちとは違う。
俺の所属してる男子テニス部も、超強豪というわけではない。
だけど、そこそこに名が売れている。
でも、別の意味で、放送部は有名だ。
“我らが羽ノ崎高校で唯一勝てない部活”
そんな二つ名付きで。
「あたしの声とか、ほんと、放送部っぽくないよね・・・」
立花がふいにつぶやいた。
「え・・・」
言葉に詰まる。
そんな、悲しそうな顔・・・
「放送向きの声じゃないって、先輩たちによく言われてたんだよね」
ふっと、誰かのコトバを思い出した。
『放送部ってほんと怖えよなー』
『軽くいじめじゃね?』
『男テニは平和でよかったわー』
放送部の黒い噂。
耳にしたことはあった。
先輩後輩関係の陰湿さ。
先輩が後輩にかける言葉は、どれもこれも悪意に満ちていると。
毎日毎日、可憐な声を響かせる放送部。
清楚で可愛らしい女子の部活を代表する放送部。
そんな少女たちの美しい笑顔の裏には、魔物が潜むと。
「聞いたことはあったけど・・・マジでそういうのあったのか」
どう言葉をかけていいのか分からなくなるほど切ないその横顔に、俺は胸が押しつぶされそうだった。
「ま、確かにあたし、放送そんなにうまくないからね」
悲しそうに笑う立花を見ていられなくなった。
強がるなよ、立花。
・・・せめて、俺の前では、素直になれよ。
「・・・・・・そんなことは無いと思うぜ」
「え・・・?」
驚いたように、立花が顔を上げる。
丸みがちで大きな瞳。
その中に・・・俺が映る。
急激に上がった心拍数と戦いながら、勇気を振り絞る。
さぁ、ここが頑張りどころだろ、俺。
「俺、立花の声、好きだよ」
「・・・健一」
その声、好きなんだよ。
俺の名前、呼ぶ声が。
やわらかくて、優しくて、聞いているだけで笑顔になるような。
・・・その声が、好きだ。
「特に朝の放送さ」
届いているだろうか。俺の声は、君に届いているだろうか。
「他のヤツみたいに、早すぎなくて、優しくて、落ち着いたいい声だと思ってる」
その先を続けてしまったのは、やっぱり上がりすぎた心拍数と気温のせいだろうか。
「た、立花の声、か、かわいいし・・・」
止まらなかった。
口下手なはずの俺が、こんなになるなんて。
立花はほんとに・・・すげぇ。
「ほ、ほんとにそう思う?」
あぁ、くそ。
そんな目するなよ、バカ。
ちくしょう・・・立花があんまりかわいいから。
ほら。
もう俺ダメだ。
理性の歯止めがきかなくなる。
「・・・思うよ」
「健一・・・」
「立花の声、好きだし、いい声だと思うよ」
ちゃんと伝わっているだろうか。
ちゃんと届いているだろうか。
「こ、声が放送部っぽくなくても、先輩がどう言っても、そんなこと、全然関係ないんだ。お、俺は、お前の声が好きだから」
ちょっと違うか?
・・・訂正してやる。
俺は、お前が好きだって。
届け。
伝われ。
「そっか・・・」
立花が、少し笑った。優しくて、ふんわりとした笑顔。
くそ、反則レベルにかわいい。
照れ隠しのように、俺はうつむく。
そして、逃げの選択に走る。
「じゃ、そろそろ行かねぇと。試合始まるから」
こういうときだ、自分の内気さがイヤになるのは。
何か気の利いたことが言えたらいいのに。
「うん」
俺の心配をよそに、立花はそっと微笑む。
やべぇ。
かわいすぎる。
そして、また理性は振り切れる。
アクセルが踏み込まれ、俺はまた壊れてしまう。
「あ、そうだ」
思わず、口に出していた。
今までずっと、考えてたこと。
今思いついたみたいな口調になるのは、せめてもの俺なりのプライドだ。
「この試合勝てたら、校内放送で取り上げてくれよ」
「え・・・」
戸惑った顔の立花。
ダメ・・・か・・・?俺の名前を呼んでほしいって願うのは。
お前の声で、俺の名を呼んでほしいと願ってた。
ずっとずっと前から。
そして、俺の大好きなテニスのおかげでそれが叶うなら、こんなに嬉しいことはない。
この決勝に勝って、昼休みの校内放送で俺の名を君が呼んでくれたら。
『すばらしいプレーに、思わず息をのみました』なんて、言ってくれたら。
『羽ノ崎高校の名に恥じないテニスに感嘆しました』なんて、称えてくれたら。
こんなに幸せなことはないのに。
「あ、あたしが・・・?」
「いいだろ?」
笑ってみせる。
笑顔の裏に、隠された気持ちがあることを、君は知らないだろうけど。
照れか。
羞恥心か。
恋愛に経験値のない俺には、どうしたって分からない気持ちが揺れていることを。
君は知らないのだろうけれど。
立花は、急に挙動不審になって。
そのあたふたした様子もかわいくて。
あぁ、ほら。
作っていたはずの笑みは、嘘じゃなくなる。
「じゃ、じゃあさ」
「うん?」
「新学期になったら放送するよ、雪音と」
「香月と?」
「灰原クン、喜ぶと思うし」
必死に絞り出したらしいアイデアに、俺はうなずいた。
思わず笑みがこぼれる。
「あー、それ、いいな」
「でしょ?」
「俺たち、ちょうどペアだし」
マジ、忍耐強く香月と付き合ってられる灰原に感謝だ。
あぁ、それと勇気を出して灰原に告白してくれた香月にも。
彼氏彼女でいてくれるあいつらに、全力で感謝だ。
・・・彼氏彼女、か。
テニス部と放送部、か。
励まし合い、支え合い、時に喧嘩なんてしちゃったり。
手を繋いだり、一緒に帰ったり、デートなんかしちゃったり。
メール、電話、胸のときめき、そんな甘い青春を重ねちゃったり。
そういう関係に・・・俺たちもなれるだろうか・・・?
「それじゃ、まあ、頑張ってきますか」
不安定に揺れる思いを吹っ切るように、テニスラケットを一振りする。
試合は、少し向こうのテニスコート。
走らないと間に合わねぇかもな。
遅刻して、不戦敗の準優勝なんてごめんだ。
あぁ、灰原が待ってる。
おいおい、ちょっと苦笑いなのは、俺の気持ちを知ってるからか?
お前の横に立ってる、おせっかいな香月のにやけ顔も、どうにかしてくれたら嬉しいんだけどな?
この暑さの中、励ましに来てくれた大切な人の前での戦いだ・・・さぁ、負けられねえぜ、灰原?
「うん。雪音と一緒に応援してる」
にこっと、立花が笑う。
すげぇ、かわいい。
立花ってば、ひでぇな。
こんなに気持ち乱されたら、勝てなくなるかも知んねえぞ?
「さんきゅ」
小さくつぶやいたコトバは、ちゃんと声になっていただろうか。
さぁ。
戦ってきてやろうじゃないか。
テニスは俺たちの戦い。勝ちどきの声を君に聞かせるための、俺たちの戦い。
テニスコートは俺たちの戦場。勝利を君に捧げるための、俺たちの戦場。
せいぜい、無様な負け方はしないように。
全身全霊を込めて、ボールを追う。
打つ。
そして、勝つ。
君の声が俺のもとに届くのと同じように。
君の心にも、届くように。
,゜.:。+゜End,゜.:。+゜
ここまで読んでくださり、ありがとうございました(*´∀`)ノ
今回の作品は、書くのがとても楽しかったです(*^^)
続編を希望する声もいただきましたので、ちょっと考えようかなーと。
・・・ほんとにシャイな人はこんなにしゃべらないと思うんだけどw
まぁ、そこはスルースキルを高めてください( ´▽`)ノ
書いていて楽しかったので、私としては心底満足です☆
感想を書き込むことも出来ますので、ぜひ、お願いします^^
ではでは皆様、またいつか、違う作品でお会いしましょう(*・ω・)
さようなら(*^ー゜)