『世界を作ろう』
かなーり短いです。
その世界は危機に瀕していた。
突然世界が理由もなく狂い始め、脆弱な人間では世界を安定できなくなったのだ。
世界が歪みを生じても、本来であれば多少の犠牲をもってして世界は安定する。
古よりの教え通り、ある国は海に、ある国は地に、ある国は空に生贄を捧げ世界に許しを乞うた。
それで世界は安定を取り戻すはずであった。
期待は裏切られる。
いや、それどころか世界の歪みは加速した。
天空に陽が昇ることはなく厚く鈍い雲で覆われ、海は荒れ狂いまたは凍り付き、地は何一つ生あるものを生み出さず。
野にあるものは生き抜くために同族をも喰らい、魔物へと変貌する。
空にあるものは最後の一羽すら撃ち落され、静寂を手に入れた。
強欲なる人は神より授かった知恵をもって生を繋ぐ。
世界は狂気に満ち満ちる。
滅亡の道を加速しながら歩んでいく。
――――――あれは、一つの啓示。
世界の経済の一番末席に位置する国の、首都とは名ばかりの小さな都市にすら住んでいない、誰も知らない辺境に住む一人の小さな男にそれは示された。
名もない男は立ち上がる、己の世界を救うために。
神から指し示された勇者の証をもって。
そして更なる力を得るため、男は神と世界を繋ぐ場所へと旅立った。
勇者の存在は人々の希望となった。
勇者の行幸が少しでも安寧になるようにと、人々は競って少ない糧を勇者に差し出した。
人々の無垢なる支えの元、勇者は遥かに長く険しい神殿への道を終えた。
世界の中心にそびえ立つ神殿では、いまかいまかと勇者の訪れを待ち。
祝福を受けた男は、神殿の奥の奥に隠された、男の知識ではありえない奇妙な部屋へと招かれる。
勇者の力となるべき、この世界では決して得ることのできない聖なる乙女を、異なる世界から呼び寄せるために。
勇者の証は、その乙女を呼び寄せる鍵であり文様であった。
右手に浮き出た不思議な文様を、部屋の真ん中のつるりとした表面の石に静かにかざす。
そして目の前に現れたのは、
煌めく光。
耀く大気。
―――――見よ、これこそが、勇者のさらなる力となる、異なる世界から呼び寄せた聖なる乙女。
彼の者こそ、勇者とともに世界を救う、聖なる乙女。
乙女のあるところ、香しくあれ。
乙女のあるところ、清浄にしてあれ。
その髪は漆黒に濡れ、その瞳は――――――――
「……ってえなあ。なんだよここ。わけわかんねえ……」
その乙女、美しきかな心を体に表し―――――
「うわー、ないわー。プレスしたばっかのスカートのひだがべろべろじゃん」
その乙女、奥ゆかしき――――――
「あっ、伝線いってるよ! なんだよこれ、下ろしたてだってのにさー」
その乙女――――――
「……ああ? 何、人のことじろじろ見てんの? っつかその服なに? 何かの仮装行列的な? ちんどん屋的な? コスにしちゃじーさんまでいるし」
「「「なんじゃこれーーーーーーっ!!!」」」
チェンジ!と叫んだのは勇者か、はたまた神官か。
目の前に唐突に表れた乙女(?)は、現れたと同じくらい唐突に消えて静寂が戻った。
勇者と神官はお互いを見つめあっての苦笑い。
そして懲りずに聖なる乙女を求め、勇者は文様を石にかざす。
「ばぶー」
「「「チェンジ!」」」
「ほえほえ、ここが涅槃というところかのう」
「「「チェンジ!!」」」
「キャンワンッ!!!!」
「「「チェンジッ!!!!」」」
おかしくない? なんかおかしくないか??
回数を重ねるごとにだんだんと乙女じゃないどころか人間でもなくなっていく召喚に、勇者も神官もだんだんと気力を奪われる。
そうして何回、何十回、何百回の召喚を行ったのかわからなくなった頃
――――――世界は滅亡した。
【『世界を作ろう』 補足事項】
異世界召喚はそれがどんなに相応しくないように見えたとしても一回こっきりでお願いします。神力がもちません@せっかく育てた世界が滅んだので新しい世界を作っている最中の神より
コメディ……を目指していたんですが……(泣)
そしてもともとは聖なる乙女さんたちのお話だったんですけれど……どうしてこうなった。