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「あ」

「え」


王女と、庭の男の人との再会は、翌朝謁見の間ででした。

王女は、王や女王、王子達と共に、昨日遅く着いた国の方々の挨拶に応えていたのです。


男の人は、海の向こうのエイル大陸のランドル帝国皇太子ヴォルフラムでした。

ヴォルフラムは、昨夜の女性が王女だったことにおどろいて、ほうけていましたが、お付の者に小突かれて、あわてて、お祝いの口上を述べました。

王、女王と王子達は、アイラ王女とヴォルフラム皇太子のちょっとぎこちない様子を観察しています。

謁見は何事も無かったかのように、終わりました。ランドル帝国の次の国が入ってきます。王女は、こっそり扇の後ろで安堵のため息をはきました。


その夜、王と女王、王子達が、打ち合わせをしていました。なにしろ、即位20周年というめったに無いお祝いです。準備はいくらしても、足りません。

一通り打ち合わせが済むと、兄のシンラート王子が話を切り出しました。

「あのさ、今日のランダル帝国のヴォルフラム皇太子のとき、アイラ様子がおかしかったよね?」

「兄上もそう思った?」

「うん」

「気のせいだ」

ヴァナート王が不機嫌に言い捨てます。

「あらあら、ヴァン、すねてるの? アイラだって、もう17歳。私があなたに会った歳と同じよ?」

エルトゥーリア女王がなだめますが、王の機嫌は良くなりません。


「すねてる父上は置いといて、アイラのことだよ。誰にも興味を示さなかったアイラが、反応したんだ。ちょっと、気にかけたほうがいいんじゃないかな?」

シンラートの言葉に女王も弟のユーリアート王子もうなずきました。

こうして、王女の家族は、王女と皇太子をひそかに見守ることにしたのでした。


その頃、王女は女官に皇太子のことを聞いていました。

「ねぇ、今日謁見にいらしたランドル帝国の皇太子の書類は見たことない気がするわ。どうしてかしら?」

王女が、初めて自分から情報を求めてきたので、女官はうれしかったのですが、相手を聞いてがっかりしてしまいました。

「ランドル帝国の皇太子には、婚約者がいらっしゃいます。ですから、書類がないのですわ」

「まあ、そうだったのね。わかったわ」

王女は、何事も無かったかのように、休む支度を始めました。


いつも通りの時間に、いつも通りお休みなさいと挨拶をして、王女の部屋を辞した女官は、不思議に思いました。

ランドル帝国皇太子の何が王女の気をひきつけたのだろうかと。

ヴォルフラム皇太子は、髪も瞳もよくある色で、顔も普通なら背格好も普通、皇子としての出来も普通と、何も特徴のない人でした。

他の候補の方々は、美形だったり、武道派だったり、知性派だったりと何か一芸に秀でていらっしゃるのに、なんでまた?

国としても、エイル大陸では大きいほうですが、世界の盟主たるこの国に比べたら…。普通でした。

女官は、王女がひきつけられたものを探して、それをお相手探しに利用しようと、決意したのでした。


一方、ヴォルフラムは、側近の支度した寝酒を無意識に口にして、考え込んでます。

「なあ、それにしても、王女は噂どおり、きれいだったなあ。さすが、日と月両王家の血を引くだけのことはある」

側近に話しかけられても、上の空です。

「そうだよねぁ。同じ人のはずなんだけど…。う~ん」

側近は、皇太子の様子に、ため息をつきました。

この側近は、皇太子の従兄弟に当たり、いわゆる幼馴染でした。ついでにいうと、側近の妹が、皇太子の婚約者だったりします。


「もうちょっと、しっかりしてくれるとなぁ…」

謁見のときに、日輪王と二人の王子の威厳ある姿を見てしまった側近は、自国の皇太子と比べてしまったのです。…後悔するだけでした。

周りの自分達が、しっかりとこの皇太子を盛り立てねばと、決意を新たにした側近なのでした。


側近に退室の挨拶をされて、皇太子は、現実に戻ってきました。

さっきから、彼は、昨夜の女性と、王女が同じ人なのかで悩んでいたのでした。

見かけは、同じ人だと思うのですが、あまりにも雰囲気がちがうので、いまひとつ、自信が持てません。謁見の間で、おたがい「あ」と反応したのですから、同じ人のはずですが…。


ヴォルフラムは、思い切って行動することにしました。本人に確かめるのです。

そうと決まれば、即行動です。思い立ったが吉日です。彼の頭の中には、夜に女性に会いに行くことがどういう意味なのかなんて、ぜんぜん浮かびません。


うろ覚えの道を逆にたどり、ちょっと迷いながらも、昨日と同じ庭にでました。

見れば、昨夜の女性が今日も同じ動きをしているではありませんか。

ヴォルフラムは、女性を見つけたうれしさでいっぱいです。


今夜は、先に声を掛けることにしました。また、攻撃されてはたまりません。

「あの…」

「うひゃあ!」

女性は、とびあがると、すかさず防御の体制で、こちらをうかがっています。

「あの、昨夜はどうもすみませんでした。アイラ王女…ですよね?」

「…はい。ランドル帝国のヴォルフラム皇太子でいらっしゃいますわよね」

アイラは、皇太子だとわかって、ほっとしました。今夜も寝付けないので、庭で運動していたのです。



「そうです。ああ、やっぱり同じ人だったんだ」

ヴォルフラムが、うれしそうに笑いました。あら、かわいいとアイラは思ってしまいました。小さい頃飼っていた犬のようです。兄弟達にはバカ犬と言われていましたが、そこがかわいかったのです。

「謁見の時に、お分かりじゃなかったんですか?」

「いえ、そうだと思ったんですが、あまりにも印象がちがうので、確認にきました」

アイラの問いに、ヴォルフラムは子供のように、にこにこと答えます。


「面白い方」

「そうですか?」

首をひねるヴォルフラムがおかしくて、アイラはくすくす笑ってしまいました。

「あなたとお話しすると、楽しいわ。今度は、お茶の席でゆっくりお話しましょう」

「はい、楽しみにしています。あ、もう遅いですよね。失礼しなきゃ」

ようやっと、夜だということを思い出したヴォルフラムは、あわてて帰ってゆきました。


アイラは、まだくすくす笑いながら、部屋へと戻りました。

布団にもぐりこんで、さっきのやり取りを思い出します。


どこといった特徴の無い人だけれど、楽しい人。一緒にいて、疲れない人。あの人だったら、結婚しても楽しいのかしら?


そう思ったときに、女官の言葉が頭をよぎりました。

―皇太子には、婚約者がいらっしゃいます―


王女は、ほうと長いため息を吐き、目を閉じたのでした。


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