表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

月の国のアイラ王女は、三人兄妹弟の真ん中です。

2つ上の兄が日輪王、3つ下の弟が月王を継ぐことが決まっているので、いずれお嫁に行くことになります。

王女も幼い頃から、それがわかっていました。兄弟のように王家の力を受け継いではいなかったからです。


万年新婚の両親のように旦那様と仲良くできるといいなぁ、と思っていましたが、父のいとこの結婚を見ていて、がぜん恋愛結婚にあこがれたのです。

アイラ王女、12歳のことでした。


恋愛結婚に興味を持ったアイラ王女は、既婚者になれそめを聞きまくりました。

すると、意外にも身近な人間に恋愛結婚が多かったのです。


アイラ王女は、思いました。

『これだけ恋愛結婚が多いんだから、私もできるかも知れないわ。ううん、できるはずよ。そうよ、私は、愛ある結婚をするのだわ!』

アイラ王女は、思い込みの激しい性格だったのです。


愛ある結婚をすると決めた王女は、更に考えました。

『いくら私が愛しても、相手に愛してもらえなかったら、愛ある結婚とは言えないわ。愛してもらうには、どうすればいいのかしら?』

王女は、困ってしまいました。



困っている王女に心配した年かさの女官が声をかけました。

「王女様、どうなされたのですか?何か心配事でも…?」

王女は、ハッと気付きました。わからない時は、人の知恵を借りればいいのです。


「知恵を貸してくれないかしら?私、未来の旦那様に愛されたいの。どうすればいいかしら?」

真剣な顔で聞いてくる12歳のアイラの様子は、とてもほほえましいものでした。

「まあ、王女様。お相手がお決まりでないのですから、どなたにでも愛される王女様におなりになればよろしいかと」

「誰にでも愛される王女…?」

王女は母親譲りの黒髪を揺らしながら、小首をかしげます。


「ええ。淑女としても妻としても完璧になるのです!王女様でしたら、どこかの王妃様になるかも知れませんから、そのお勉強もなさいませんと」

女官は、にっこりほほえみました。


王女は、女官の言葉を考えます。

確かに、自分のレベルを上げれば、皆から愛されそうです。しかも相手は選び放題。


「確かにそうね。わかったわ、先生を手配してちょうだい」

王女は、問題が解決したので、すっきりした笑顔です。


「かしこまりました」

女官は、王女に礼をして退出していきました。扉を閉めてから、にんまりと笑ったことに気付いた者はいません。

お勉強に身の入らなかった王女は、いつの間にか女官にやる気にさせられていました。さすがはベテランの女官です。


こうして、自分磨きに精を出すこと5年。17歳のアイラは才色兼備の誉れ高い王女となりました。

国内外から降るように縁談が舞い込みます。ですが、王女は一つとしてうなずきません。


「だって、ときめきがないんですもの!」

今日も届けられた写真釣り書きその他を一通り見たあとに、返却を指示します。


どうやら、恋愛結婚に対する憧れは、12歳の時のままのようです。

これには、女官も渋い顔です。うまいこと誘導して立派な王女になりましたが、このままだと、婚期を逃してしまうかもしれません。

幸い、半月後にある、王と女王の即位20周年の式典に各国の王族・貴族がやって来ます。そこで王女には候補の方々に、会いまくっていただこうと、女官は心に決めたのでした。


そして、式典前夜。

王女は、すでにほとんどの夫候補達と顔を合わせました。が、人数が多いのとスケジュールが詰まっているため、本当に顔を合わせただけです。まるで、流れ作業のようだと王女は思いました。


「いかがですか?どなたかお心に留まった方は?」

期待に満ちた女官に、王女は疲れた顔を向けました。

「いないわね~。段々みんな同じに見えてきたわ」

女官は、ガックリと肩を落とします。


「そうですか…。でもまだ皆さま10日ほど滞在されますし、これからお知り合いになられれば変わってきますわよ!」

「あ~、はいはい。じゃ、お休み」

「…お休みなさいませ」

女官はしぶしぶと退出していきました。


疲れているはずなのに、王女はなかなか寝付けません。あきらめて、起き出すと、庭へと降ります。

身体を動かせば、眠れるかもと、ストレッチを始めました。王族のたしなみとして、護身術を習った時に教わったのです。

段々調子が出てきて、動きが大きくなってきました。勢いよく腕を振り回したその時です。

「うぎゃ!」

何か生き物に腕が当たりました。


「きゃあ!」

とっさに防御の姿勢をとってから、確認すると、足下にお腹をかかえて苦しむ男の人がいます。

「あの…、大丈夫ですか…?」

王女がおそるおそる声をかけると、男の人はよろよろと起きあがりました。


王女より少し年上位の、おっとりとした感じの人です。上質な服を身に着けているところをみると、招待客のようです。


「あはは。大丈夫です~。すみません、近づいて」

「い、いえ。申し訳ありませんでした。故意ではなかったとはいえ、お怪我を…」

「気になさらないでください。それより、あの不思議な動きは、一体…?」

「み、見てらしたの?お恥ずかしいですわ。眠れなかったので、ちょっと運動を…」

「そうでしたか」


少し落ち着いたくと、王女は、なぜこの人物がここにいるのかが気になりました。

「あの、貴方はどうしてこちらへ?ここは、王族の庭ですけど…」

「あ、そうだった!あの、酔いを覚まそうと思ったら迷ってしまって…」

「お祝いにいらした方でしょう?では、こちらですわ。このまままっすぐいらしてください」

「はい、ありがとうございます。あの…このことはできれば内緒にしていただけると…」

「では、私の運動も内緒に…」

「お互い様ですね」

ふたりは、にこっと笑いあいました。


「ええ、お休みなさいませ」

「おやすみなさい」

男の人は、王女の言った道を去っていきました。


なんだか、おかしな人だったわ~と王女はほほえみながら、部屋へ戻りました。

運動をしたからでしょうか、あたたかくなって、眠くなってきました。布団をかぶってすぐに眠りに落ちます。

今日の疲れは、もう感じていませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ