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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
5章 相変わらずキャラの多いこの状況、もはや収拾がつく気がしない!
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95話 妹と書いてMyレゾンデートルと読む

「まったく……こっちの気も知らずに呑気なもんだな。 危機感が無いんじゃないか?」


 お互いの立場を知ってなお、相変わらず気軽に慣れ合っている羽原 秋一達の様子を遠巻きから眺めつつ、静かにため息を吐いた。

 アイツからはプー太郎呼ばわりされている僕、大須 冬彦だが実はきちんとした職についていたりする。 3月の一件の後、夏芽の兄という立場とアーリーに関する知識が買われて、スカウトされたのだ。

 もっとも、妹にはあまり危ない真似はしないで欲しいと言われている手前、教えるつもりは微塵もないが。

 愚痴をこぼす僕の隣で、組織にスカウトした当人、本橋 春日が苦笑する。 監視と護衛なんて大仰な使命を帯びているわりには水色のオープンショルダーカットソーにチェック柄のプリーツミニスカート、膝のすぐ下まであろうかというロングブーツと随分動きにくそうな格好をしている。 自前のスタイルの良さで押し切っているが、お世辞にもセンスの良いファッションではない。

 小脇に抱えたミニバッグには“仕事道具”が色々と収められているらしい、具体的に何が入っているのかは詮索しない。


「まあ、良いじゃないですか。 変にびくびくして心穏やかに過ごせなくなるよりはずっと本人のためだと思いますよ?」

「いや、そうじゃないんだ。 あんないかがわしい男と平気で遊び回っていることが許せないんだよ」

「……あー、そっちですか」


 本橋 春日はこめかみを人差し指で押えつつ、白眼をこちらに向ける。

 しかしだ、一児ならぬ一妹の兄としては世界征服を目論む悪の秘密結社の活動や、謎の諜報部隊の暗躍よりも100倍重要な問題だろう。

 別にディストピアが完成しようが、文明が自然状態に帰ろうが兄としては妹さえ健やかに育ってくれれば何でも良いのだ。


「それにしても、夏芽がフトモンを始めたとなると僕もやるべきだろうか…?」

「どんだけシスコンなんですか……」

「最近、どうも僕を見る目が冷たいんだよ。 だから、こう共通の話題を見つけて話す機会を増やすなり、兄として汚名返上する方法を考えるなりした方が良いかな、と」

「いやー、無理でしょう。 そろそろ兄さん加齢臭がするから近寄らないでとか言われるんじゃないですか? さっさと仕事見つけろごくつぶしとか、そんな感じの罵詈雑言を浴びせられるだけだと思います」

「君は僕に何か恨みでもあるのか?」


 口にする台詞がいちいち辛辣極まりない気がするのだけれど。

 相手が上司でもない限りは誰に対してもわりと砕けた口調で話す彼女が、僕に対してはずっと丁寧語なのも気になるところだ。


「いえ、恨みとかそういうのは特にないんですけど、ただ純粋に過干渉過ぎて気持ち悪いなぁ、と思っただけです」

「……あっそ」


 ここまで酷い扱いを受ける云われは無いのだが、何を言っても無駄そうだ。

 彼女にとやかく言うのを諦めた僕は、アーリーを取り出してカフェで騒いでいる妹達に向ける。

 起動中のアプリが全員の顔を認識して、アレコレと個人情報が表示される。

 顔をARマーカー代わりにして個人情報を表示する技術。 AR黎明期からあった人間の記憶力の拡張手段で、これさえ使えば一度会った人の顔を忘れてしまうような失礼を回避できる便利な代物だ。 各々の持つアーリーの情報とも照らし合わせた上で個人特定を行うため、確度はかなり高い。

 同時に新天寺社関係者がロック・セキュリティ無効モードで起動することで、本人や公的機関のアーリーにアクセスして、収集した膨大な情報を表示することが可能になる。

 現在の僕のアーリーに新天寺社関係者のみが使える機能を使用する権限なんてある筈もないのだけれど、公的機関つまり学校や病院などに収められているデータに、新天寺社のようにセキュリティを無効化する訳ではなく、堂々と許可を受けての閲覧が可能になっているらしい。 恐るべし国家権力。


「しかし、こんなものを準備しているなんて君達の組織も随分と胡散臭いな」

「君達じゃなくて僕達、です。 あなたも立派にその胡散臭い組織の一員なんですから」

「……それもそうか」


 あるいは、組織なんてものは往々にして胡散臭いものなのかも知れない。

 たとえそれが国家であろうと、企業であろうと、機関であろうと、委員会であろうと。

 少なくとも、組織の理念に同意出来ないものにとってはそんなものだろう。 この組織や新天寺社の裏の部分に至ってはそもそも表向きには存在すらしていないことになっているんだから、きな臭いなんて可愛らしいものじゃ済まないだろう。


「しかもアイツ、夏芽を差し置いて他の女と戯れるとか、目が腐っているとしか思えん」

「構ったら構ったで文句言うくせに、無視しても不満なんですか?」

「当たり前だ」

「……シスコンって面倒くさいわね」


 最後の一言は僕に向けてという訳でもなく、思わずこぼれた独り言と言ったところだろうか。 本橋 春日は天井を仰ぎ見ながら、ふぅと吐息をこぼす。

 それから、もうしばらく夏芽達に気取られないようにフトモン好きのカップルを装いながら監視を続けた。

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