表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳世界ディストピア  作者: OTAM
5章 相変わらずキャラの多いこの状況、もはや収拾がつく気がしない!
95/172

90話 なんか作品にかこつけた愚痴が混じってるって? き、気のせいだよ……

「ふう、ようやく入店させてもらえたお……って、なんかもう捕まえてるし」

「よお、千里。 思ったより早かったな」

「お手、おかわり、お座り、伏せ……服従のポーズ。 よっしゃ、ええ子やシューイチ」

「しかもなんかもう良い感じに手懐けてるし、ニックネームがシューイチて」


 愉快なエクステを外すことでようやく妥協を得たらしい千里が俺達と合流する頃には会長もうめ先輩も、それからいつの間にか小学生男子と打ち解けているなつめちゃん16さいもそれぞれ1匹ずつフトモンを捕まえた。

 その報告を聞いた千里は、アーリーの画面越しにセンター内を見回して適当なフトモンを1匹捕まえる。 慣れているだけあって捕獲は1分とかからずに終了した。


「で、秋一は?」

「ヨウに土産を買ってから捕まえる」

「ヨウ……ああ、あの一つ屋根の下っ子?」

「メガネっ子みたいな調子でジャンル分けするにはニッチ過ぎるだろ、それ」

「まあ、何にせよ、探すなら何か買ってからの方が賢明だわな」


 先輩及び大きな子どもの面倒を千里に代わってもらい、その感に何となくヨウが喜びそうな……気がするぬいぐるみコーナーへ。

 アーリーはゲームを起動した状態でも使用できるアプリとそうでないアプリが存在し、使用できる方のアプリの最たる例が電子マネーの使用だ。

 もちろん、同時に商品の購入記録なんかもきっちり更新されており、フトモンセンターでグッズを購入した場合、当然ながらその記録もしっかりと残される。 そして、センターでの購入履歴がアーリーの所有者にとって最新の買い物であった場合、ゲームがそれを認識して、購入額に応じて出現するモンスターや拾えるアイテムのレア度に上方修正をかけるようになっているらしい。

 らしい、と言うのは表向きにはそんな事実は存在しないという事になっているからなのだが、千里が(法的にアウトぎみな方法で)調べて確定だと言っていたのでまあ、間違いはないだろう。 何と言うか、一昔前のモバイルゲームの課金並に……まあ良いか。

 それにしても、コイツは自分の過去についてきちんと反省しているのだろうか?


「先輩、アーリーの映像共有をオンにしといて。 後はフレンドコードを突っ込んで、通信すれば……」

「おお、こいつは千里ちゃんの捕まえた子なん?」

「うんむ。 こうやって共有機能を利用すれば他の人のフトモンも見られるのだよ! あ、ちなみにセンターでその日捕まえたフトモンだけはプレイヤーの後を追いかける機能があって、フレンドのフトモンと戯れたりもする」

「ほー。 で、何でセンター限定なん? フレンド以外の人のモンスターは見れへんの?」

「ええっと……色々理由はあるけど大きく分けるとアーリーの技術的な限界、販促、ハラスメント対策の3つかなー」


 トラップフトモンなるヴィヌシュ地方6大イラつく顔のフトモンのぬいぐるみとにらめっこしながら、横目で千里と会長のやり取りを伺う。 うめ先輩も千里の話を聞いてはいるが、あまり積極的に会話に参加している風ではない。 もっとも、時折アイコンタクトやリアクションで意思疎通を図っているようなので、無視されているという感じでも無さそうだが。

 夏芽に関してはとやかく言うのも面倒くさい。 最悪、センターから出て行かないようにだけ注意を払っておけば大丈夫だろう。


「……どっちも実体がある訳じゃないから、フトモン同士がじゃれあうには双方が双方の動きを認識してすり抜けたりしないようにお互いの動きなんかを制御する必要が出てくる。 でもリアルタイムに情報を交換しながら映像に反映するだけのスペックが無い」

「なるほど、せやから強力な演算アシスト機能のあるここみたいな場所やないとあかん訳か」

「そゆこと。 しかも、そのアシストがあっても、店側が予め決めたその日の数十種類のフトモンに限定してギリギリ何とかなるレベル。 まー、アーリー単独で出力するときよりARのグラが綺麗だとか、そう言うのもあるから単純比較は出来ないけど」


 思った以上に真面目な課外活動になっている事にビックリだ。

 千里と会長が話している通り、確かにアーリー2台ではスペック上の限界から2匹以上のフトモン同士のコミュニケーション・プレイヤーとの交流はおろか、今や800種類ほどいるフトモンを網羅し、それらのARの仕草を含めた多種多様なデータをゲームソフトに突っ込む事も出来ない。

 が、何事にも例外はつきもの……と言うか、禁止や不可能なんてのは体よく例外をセッティングする為にあるものであり、その例外の一つがここフトモンセンターそのもの、そして更にはセンターで売られている幾つかの商品でもある。

 たとえば会長が捕まえた赤いキツネ。 コイツのぬいぐるみの中で一番高価なグッズには差し込みプラグの付いた、マウス程度の大きさの機械が同梱されている。 コイツを購入するとこで、アーリー単独では不可能な他のフトモンとのコミュニケーションやゲームの持ち主の声に反応する機能が解禁される。 もちろん、フトモン同士の交流はその仔ギツネと他のフトモンの組み合わせに限定されるし、声への反応も最初はそんなにバリエーション豊富ではない。 ついでに、お手などのプレイヤーとの接触を要する行動はぬいぐるみに付いて来るセンサー内蔵の指輪が必須で、無くすと別売りのものを買わなければならない。

 アーリー片手に遊びに来た幼女が可愛いモンスターを捕まえる。 捕まえたモンスターを連れてセンター内を回る。 愛着が湧いて連れて帰りたいと思った所にこのグッズ。 更に小さな指輪は子どもは頻繁に無くすので買い替え需要が生まれる……という実にえげつない仕組みがある訳だ。 他にも無料・有料問わず多彩な追加モーション、フトモンを可愛らしくドレスアップするARアクセサリなどの販売も行っており、親御さんはセンターから帰っても戦々恐々とせねばならない。 恐るべし、新天寺社。


「ふーん、でハラスメント対策っちゅーんは?」

「文字通り! 私ぐらいになるとモンスターの動きを自作出来たりするんだけど、それでこう他のフトモンを押さえつけて後ろから【自主規制】しちゃうようなプログラムを組んだとする。 で、この状態で無差別に色んな人のフトモンと接触できる環境に野放しにすると……」

「なるほど、確かに宜しくないなぁ」


 もっとも、公共のスペースに自由に情報を付加できるというARの性質上、あらゆるソフト・アプリに付いて回る問題であって、フトモン特有のものという訳ではないのだが。

 その対策として一般的なのはARで表示される情報をユーザーが選択できるようにする、事前に表示する情報を検閲する、ARで表示出来るものに制限をかけておくなど色々と工夫している。

 使用できるワードを選択式にしようが、結構な人数で検閲を仕掛けようが悪戯をする側も工夫を凝らしてあの手この手で気勢を掻い潜ってくるため、いたちごっこに陥りがちというのが現状である。


「んじゃ、次は対戦行ってみよー!」

「ええけど、ウチはまだまだ弱いよ?」

「レベルは揃えてくれる仕様だから問題なっしんぐ」


 と、機嫌良く対戦を始める千里と会長。 一人余ったうめ先輩はお土産選びの合間に休憩を取っていた俺の傍にやって来て、小首をかしげつつアーリーを差し出す。 要するに、対戦してくれって事だろう。

 お互いのコードを交換し、せっかくなのでAR表示オンで対戦。 うめ先輩のモンスターは基本的に可愛らしい容姿のものを中心に構成されており、これぞ女の子のパーティと言った感じである。

 その割には特攻お化けや水饅頭、ピンクのぽっちゃりなどかなり実戦向きの連中も混じっているのが恐ろしいところだ。

 お互いに6匹のパーティを見せ合い、そこから3匹ずつ選出。 お互いの先発がドスンとセンターの床に着地した。 対戦のARは両者の設定次第だが観戦可能。 ただし、これもハラスメント防止のために観戦者はモンスターのニックネームやアクセサリなどの余計な情報は閲覧できないようになっている。

 また、普通は視野の狭いカメラ越しに見るのが前提となるため、モンスターは手のひらサイズから大型のモンスターでも中型犬サイズのARで出力されるように設定されており、やや迫力に欠けるのがネックだったりする。

 頑張れば大きく出力出来ない事はないのだろうけれど、大きくした分だけ粗くなる、対戦相手との距離、ARによる現実の情報の遮蔽、カメラに全体が収まってくれないといった問題が生じるため、今後の改善が待たれている。

 うめ先輩の先発は進化前が雑巾みたいな体臭を放つ事で有名な怪力水属性。 きっと丸っこいフォルムや逞しいところが先輩にぴったりとか言ったらハラスメントになるだろうが、愛くるしい瞳が先輩にぴったりくらいならきっと許されるはずだ。

 なんてアホみたいな事を考えていると、センターの隅っこできゃっきゃと騒がしく対戦している千里と会長の声が聞こえてくる。


「くらえ、センリちゃんのメロメロ!」

「おおう、シューイチが! しかし、コイツの持ち物は赤い糸、つまり……」

「相思相愛……だと?」


 真面目な対戦は終えた後なのか、それとものっけからこんなテンションなのか。 何はともあれ、2人は、対戦と言うよりも俺の名前を付けられた赤いキツネで遊んでいた。 ちなみに、センリちゃんと名付けられたモンスターは腕が4本の筋肉質な格闘家 (ただしメス)のようだ。

 こういうのもなんだが……AR云々以前のレベルで立派なハラスメント行為である。

 そのやり取りからおよそ10秒後、鈍い音とうつけ者2人のうめき声がセンター内に響き渡った。

 こういう悪ふざけは時と場所をわきまえた上で、ほどほどに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ