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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
4章 新キャラ続々の新章、果たして作者はこの数のキャラを捌けるのか!?
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78話 パイプ椅子を振り回すような奴は悪役と見て間違いない

 唐突にも程があるタイミングで始まった物騒なことこの上ない戦い。


『ねえ、どういう状況なの?』


 唯一の相棒と言っても過言ではない夏芽はAR潜航中。 俺の姿や視線、声を例外として、外部の情報を得る為にはアーリーを介さなくてはならない。 それ故、彼女の判断というものにはあまり期待出来ない。

 好ましい表現ではないが、相手の情報を収集したり、連携を妨害したりするのに役立つ道具くらいの意識で扱った方が良さそうだ。


「多少憶測交じりだけど、校内にいる人全員が突然意識を失って、それから校内に武装したのが6人ほど侵入してきた」

『……それ、どうにかなるの?』

「勝ち筋が無いわけではないが、正直きつい」


 まず、相手はいつでもこっちの動向を確認出来るのが厳しい。

 もしも連中のアーリーに俺のアーリーの認識番号が登録されていた場合、アーリーを携行しての移動は筒抜けになる。 それに、他人のアーリーを携行したところで一定時間内に移動したアーリーを追いかけるような機能が備わっていればアウトだ。

 かと言って、アーリーを手離すという選択肢は夏芽の援護を受けられなくなるので除外。 あんな物騒な連中に独力で対応出来るなんて考えるほど夢見がちではない。

 加えて、カメラを介して俺の姿を捉える事だって可能かも知れない。

 カメラの死角を通れば済む話ではあるが、同時にカメラの死角になる場所を通らざる得ないという事でもある。

 この学校の間取りのデータくらいあって当然であり、事前の打ち合わせの段階でカメラの死角くらいは確認済み……下手をすればそこに誘い込む手筈になっていてもおかしくはない。


『それで、勝ち筋っていうのは?』

「悪い、説明している時間はなさそうだ」


 自分の通学カバンの中身一式をザバーッとテーブルにぶちまける。 数Ⅰの教科書がテーブルから転げ落ちたが、そんなものを気にしている場合じゃない。

 空っぽになったところに生徒会室にいた全員のアーリー計6つを突っ込み、手近なパイプ椅子を一つ掴んで廊下へと飛び出した。

 飛び出すや否や、視界の隅に一つの影を捉える。 あまりにも早過ぎることに違和感はあるが、銃口を向けられてからでは遅い。 影の正体を確認するよりも先に、廊下の床を踏みしめ、パイプ椅子を盾代わりに構えて力強く踏み込んで体当たり。

 突然の事態であったのは影にとっても同様だったらしく、両手で身を守るようにして直撃こそ防いだものの、相手は意外に軽かったらしく、体重差に抗えずにしたたかに尻餅をついた。


「――ッ……!」

「……って、ミリ子さん?」


 構え直し、思いっきり振り上げたパイプ椅子がピタリと止まる。

 椅子の背もたれでよく見えなかったが、俺が付き飛ばした影の正体は何度か話した事もある上級生の女子だった。

 いきなり突き飛ばされた彼女の隻眼に怒りの色は無く、代わりにあるのは困惑と恐怖。

 落ち着いて見えても、大人びていても女の子……と言う以前に普通の人間なんだ。 いきなり男子にこんな剣呑極まりない事をされたら戸惑いもするし、怖いに決まっている。

 なるべく驚かせないようにゆっくりとパイプ椅子を下ろし、片膝を床について目の高さを合わせる。

 何故、彼女がここにいるのか?

 俺を除いて彼女だけがこうして普通に行動していられるのか?

 彼女は敵なのか味方なのか?

 実は会長には知らされていない新天寺社の関係者という可能性はないか?

 一瞬で様々な状況が脳裏をよぎるが、目の端にかすかに涙をためているのを見るととても警戒すべき相手には見えない。

 少々失礼ではあるが、子どもをあやすような心持ちで笑みを浮かべ、手を差し伸べる。


「大丈夫か?」

「あ、ああ……何とか」


 素直に手を掴んでくれたミリ子さんの手を引いて立ち上がらせる。

 声にこそ出さなかったもののよっこいしょといった感じで起立した彼女はスカートについた汚れを払うと、不安げに俺の様子を伺う。

 いきなりパイプ椅子で殴られかけたんだから、こういう反応になるのは当然と言えば当然か。

 それこそ「やめて! 私に乱暴する気でしょ! エロ同人みたいに!」とか言われても仕方ないだけの事はしでかした訳だからなぁ……。

 害意はないと示すべく手にしたパイプ椅子を壁にかけ、両の掌を彼女に向けた。


「どうかしました?」

「どうもこうも、KASSの皆が一斉に倒れてしまってな……」

「やっぱりか」

「やっぱり? という事は、生徒会も?」


 首を傾げた彼女の質問に、黙って頷く。

 その返答を見た彼女の表情は更に困惑の色を深め、俯く。


「そうか、実はここに来る途中にも何人か倒れている生徒を見かけたんだが……」

「知ってる、校庭でもばったばった倒れてたから。 それに原因の目星も付いてる」

「……流石だな」


 言葉のわりに感心よりも呆れの方が先立った苦笑を浮かべてみせる。

 こんな異常事態を前にして、平静を装ってあんな台詞を口走った相手に向けるものとしてはこの上なく妥当だろうが、若干傷つく。

 が、そんな事よりも今は差し迫った問題がある。 こうしている間にもあの物騒な連中がここを目指して階段を駆け上がってきていることだろう。


「……ミリ子さん、何も言わずこれを持って屋上まで駆け上がってくれないか?」


 気は進まないが動ける人がいるなら、ととっさに思いついた策を実行するべく、自分のアーリーをミリ子さんに押しつける。 押しつけられた彼女は訳が分からないといった様子ではあったが、俺の表情を見て何かしら意味があるであろうことを察してくれたらしく、恐る恐る受け取ってくれた。

 改めてパイプ椅子を手に取り、屋上を指差して急げと促す。 彼女は時折振り返りながらも階段へと向かう。 ほんの数歩で到着した階段に右足を乗せたところで、改めて振り返り、言った。


「今は君を信じて従わせてもらうよ。 だが、後できっちり説明してもらうからな?」


 真摯な眼差しを向ける彼女に、俺は静かに首肯する。

 それを見て安心したのか、振り返る気配を見せずに階段を上って行く後ろ姿に、声に出さずに詫びた。

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