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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
4章 新キャラ続々の新章、果たして作者はこの数のキャラを捌けるのか!?
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67話 学生食堂なら大体どこにでもある「学生なんて油と肉で腹を膨らませてりゃ良いんだよ!!」という乱暴な発想のメニューは嫌いではない

「んー、なんか全体的に脂っこいなぁ……」

「学生なんて油ものを食ってやがれってコンセプトだからね」

「太りそうだし、私は購買でパン買ってくる」


 言い終えるよりも早く、クラスメイトの鶴橋 郁乃は食堂の外へと飛び出して行った。

 クラスメイト。 行動を共にする機会が多くなってそれなりになるが、相変わらず俺から見た彼女の肩書はそれが一番しっくり来る。

 俺、今宮 新は内心の不満を押し殺しつつ怒涛の勢いで去って行く彼女を見送った。


「やーい、振られてやんの」

「振られてはいない。 相手にされてないだけだ!」

「……言ってて虚しくならないか、それ?」

「虚しいのには慣れっこだよ……」


 角を曲って彼女の背中がすっかり見えなくなったところで盛大にため息をついた俺の隣にやって来たのはやや太り気味の、平均的な背丈の男子生徒。 コイツの名前は森宮 太郎、小学4年頃からのそれなりに長い付き合いのある、いわば腐れ縁のような奴だ。

 ありふれ過ぎて却って珍しい名前の友人は悪意と同情が7:3くらいの塩梅で混ざり合った様な笑顔で俺を見守っている。


「お前、親に弁当作ってもらってるよな。 なんでここにいるんだ?」

「生徒会の機関紙を読みに来たんだよ。 お前だって普段はコンビニの総菜パンで済ませてるんだから一緒だろ?」


 悪態をつきながら日替わりランチ300円の食券を引っ掴んでおばちゃんに「ご飯の大盛り」の言葉と一緒に差し出す。

 しっかり弁当を持参している太郎は先に3人分の席を確保して待っている。

 本日の日替わりランチ『学生なんぞ安物臭い揚げ物でもしゃぶってな』を受け取り、既に弁当を開いている奴の隣に腰かけた。

 それから、テーブルの上にアーリーを置き、あらかじめ配布されたアプリを起動。


「それにしてもすごい人だなぁ。 普段はここってもっと閑散としてるよな?」

「ここの定食、ボリュームだけで不味いからな。 今日は殆どが機関紙目当てだろうさ」


 食堂に溢れかえる普段は見ない顔を眺めながら、衣のふやけたトンカツにかじりつく。

 べちょっ、とでも表現すべき微妙なことこの上ない食感と、ゴムみたいな肉の弾力が口内を汚染する。 この学校の食堂のランチ、味自体はお世辞にも美味いとは言えない程度の水準なのだが、困ったことにとにかく食感が悪い。 あと見た目もなかなかに酷くてそりゃもう見事に食欲を削いでくれる。

 しかも、そんなものがボリューム満点と来ているから始末に負えない。 例えばこの『学生なんぞ安物臭い油ものでもしゃぶってな』というセット。 そのコンセプトに違わず、トンカツに唐揚げ、海老フライ、コロッケと油ものが盛り沢山で、価格は先に述べた通りの300円。 中にはタッパーで持ち帰って食感を創意工夫で何とかして美味しくいただく猛者もいるらしいが、基本的には親が早起きするのを嫌い、かと言って総菜パンはボリューム的に……という運動部男子が黙々とぬめった白米をかきこむどこか監獄じみた光景がここの日常である。

 が、しかし、今日に限っては坊主頭の暴食大戦争よりも、太め男子の満腹サミットよりも、アーリー片手に雑談の花を咲かせる女子の姿の方が目につく。


「なんでこんなに女子率高いんだよ?」

「多分だけど、羽原くん効果じゃないかな~」


 俺の質問に答えたのは隣の太郎、ではなく今しがた戻って来た鶴橋さん。

 対面の席に座り、笑う彼女の一言で否応なしに得心が行った。

 羽原 秋一。 俺達のクラスメイトであり、1年にして生徒会書記を務める校内きっての有名生徒だ。 相当底意地が悪い性分ではあるものの基本的には面倒見が良く、入学当初は取り巻きの女子の一人の暴走によって色々と言われていたが、気付けばクラスの中心的存在。

 更には天が二物も三物も考えなしに与えた結果の持ち前の見てくれと口先のおかげで、今やクラスどころか学年、聞くところによると教員にさえもファンがいるんだとか。 ウチのクラスの担任の若い新任教師とは既にイロイロアレな事になっているなんて噂もあったりする。

 で、今日はそんな人気者が役員就任の際の演説で掲げた「生徒会の透明化」のための機関紙の創刊号の発行日。 確かに注目されて然るべき条件は揃っている。

 しかも、放送部や新聞部を巻き込んでかなり大々的に宣伝していたせいもあって、かなり期待されているように見える。


「とは言え、まさかここまで大勢が集まるとは思わなんだ」

「そうだね~、人気があるのは知ってたけど、私もここまでとは思わなかったヨ」

「俺よりガタイが良いのに何か納得いかんよな」

「それはほらぁ……森宮くんは全体的にもっさいから」


 今しがた戻ってきた鶴橋さんの容赦ない一言に打ちひしがれる太郎。

 ……実際、その通りと言えばその通りなのだけれど。

 なまじっか正しいだけにフォローをする気になれないのを誤魔化すように、箸を動かしつつ左手でアーリーを操作。 どうやら今日の朝にでも貼り付けられたらしいテーブル上のARコードにカメラを向ける。

 起動したアプリの画面には【読み込みかんりょー】という妙に丸っこい文字が表示されており、そのすぐ下ではアーリーのカメラ越しでのみ目視できる会長をデフォルメしたものと思しき二頭身の金髪の女の子が偉そうにふんぞり返っている。

 SD会長のすぐ隣に矢印の形をしたプラカードを持った北里さんのデフォルメキャラが「機関紙を読むならタッチしてね!」と会長のある部分を指している。 具体的に言えば胸の辺りで、これでもきっと彼女にしては自重している方だろう。

 何とも言い難い抵抗感を押しのけて画面越しにSD会長の胸に触る。 ちっこい会長は顔を真っ赤にして胸を両腕で隠すと、アーリーのスピーカー越しに「何さらすねん、この変態!」と罵声を放った。


「……」


 理不尽な気持ちで胸がいっぱいになった。

 会長の隣の北里さんのSDがこっちを指差して笑っている。 手にしたプラカードを地面に突き刺すとそこに表示された文字が「機関紙を読むならこのプラカードをタッチ」に変わった。

 変な悪戯しないで最初からこうして欲しいのだが、あの生徒会のメンツでは言っても無駄だろうなぁ。

 俺と同じトラップに引っかかった太郎が何とも言えない表情を浮かべるのを横目に、そのプレートをタップ。 すると、カメラが自動的にプラカードへとズームし、木目調の背景が表示される。 いつの間にかプラカードの文字が「目次」に変わっていた。


「ちょっ! なんやねん、この悪ふざけは!?」

「前から思っていたんだ……私だって会長を辱めたい、ってな!」

「アンタなぁ……いつか腰が立たんようになるまで揉み倒したるからなぁ! 覚悟せえよ、この~~」


 ふと声のしたほうへ目をやると、生徒会勢がひとつのテーブルを囲んでアーリーを弄っていた。 ハラスメントのターゲットにされた会長が猛然と北里さんに食って掛かっているが、彼女は実に良い笑顔で飛んでくる罵詈雑言をいなしている。

 視線をアーリーに戻すと、木目の看板に計6つのトピックが表示されていた。


 ・議事録。

 ・インタビュー。

 ・コラム。

 ・新聞部部紙。

 ・美術部作品。

 ・製作者紹介。


 多分、機関紙の類としては非常に無難な構成だろう。

 とりあえず肝となるのが議事録だろうが、詳細な情報を見てみると所要時間が50分。

 この学校の部活の数を考えるとこれでも短いような気はするが、普通に見る分にはかなり長い。 と言うか、昼休みに収まってくれない。

 ひとまず、これは無視してインタビューを選択。 床、というかテーブルからぬっと小さなテーブルとイスが2脚飛び出して来て、どこからともなくやって来た中野さんとミリ子さんのSDアバターがイスに腰掛けた。


「凄いね、ぬるぬる動いてるよ」


 そんな感想を漏らした鶴橋さんだが、このアプリには映像の共有機能は搭載されていない。 その点を踏まえると、彼女の観ているものはまだ会長と北里さんがバカやっているところだろうか。

 自分のアーリーに視線を戻すとイスにSD中野さんががミリ子さんに「KASSというのはどういう団体なのか」という質問をぶつけていた。 彼女はその質問の答えを知っている筈だから、これは機関紙の読者向けの質問、と言う事になるのだろう。

 そんな調子でKASSについての基本的な情報の確認を終えると、今度はARサバゲーについての話へと話題が移り、ミリ子さんのテンションがどんどん上がって行く。

 詳細情報に表示されていた総時間の8割を過ぎた辺りで、軽く暴走気味になってしまった彼女を中野さんのアバターが何とか落ち着かせ、最後にお勧めのアプリについて問うた。

 それに対して初心者向けから現在の自分のお気に入り、フリーで入手可能なものの3つのお勧めをミリ子さんが挙げたところでインタビューは終了。 二人のアバターがお辞儀をした直後に画面がフェードアウトし、目次画面へと戻った。


「なるほど、こんな感じなのか」


 ひとまずインタビューの項目を観終えた俺は一旦箸を置き、アーリーを閉じて立ち上がった。 そんな俺を、ウインナーを口の中に放り込んだばかりの太郎が首を傾げつつ見上げている。


「他のは見ないのかよ?」

「ああ、うん。 その前に羽原さんと話して来るわ」


 アーリーをポケットに突っ込んで、言葉通りに生徒会の面々の方へ。

 狙い澄ましたように揃いも揃って見目麗しい彼らの注目度は無駄に高く、ただ近寄るだけでも衆目に晒されてしまうのが何とも鬱陶しい。 が、俺はあくまでも友人に話しかけようとしているだけなのだ、何も後ろめたいことはない……と言い聞かせながら、なるべく自然な風を装って右手を掲げた。


「こんちわ、羽原……さん」

「よっ……敬称は止めてくれ」


 周囲の視線なんて気にも留めず、にこやかに俺の挨拶に応じる羽原さん。 確かに男の俺から見てもその堂々たる態度は格好良い。 まあ、本性がかなりアレなのを知っている手前、その格好良さがずいぶん禍々しいものに見えてしまうのだが。

 取り巻きの女子達も何度か話したことがあるので、俺に気付くと普通に挨拶をしてくれる。


「機関紙、観ましたよ。 インタビューだけですけど」

「どうよ?」

「いやぁ、正直に言っちゃって良いですか?」


 周囲の目を気にして少し声を潜め、立ったまま膝と腰を曲げて頭の位置を低くする。 ちょうど座っている生徒会の面々と同じくらいの高さに。 そんな俺の態度から何を言わんとしているのかを察した彼は二度三度頷くと、同じく控えめなトーンで会話を先回りする。


「ほら、文書にしちゃうと最後までちゃんと読まれてしまうどころか、あれこれ分析されたりして面倒くさいだろ。 予算関係なんてどうやっても文句は出る訳だし」

「つまり、利用規約がバカみたいに長いのと同じってことですか?」

「ま、そういう事だな。 ついでに、他のコンテンツで部活や有名な生徒を紹介して行く形で興味を引いておけばコンテンツ自体への満足感で誤魔化されてくれないかな、って意図もある」


 と、語る羽原さんの爽やかな笑顔を見て、やっぱりこの人はこの人だなぁ……と妙に納得した。

 そもそも、この思考・性格で情報開示を掲げるなんて不自然極まりなかったんだよ。

 なんて納得いついでに安心している俺の目の前に会長がずいっと身を乗り出す。


「あ、一応コイツの名誉のために言うとくけど、生徒のためって思惑もあるねんで? ホンマに余計なことを教えとうないだけやったらあの演説の時にその話をせんかったらええだけやねんから」

「……あ、確かに。 で、その思惑ってのは?」

「それはな……この食堂を改善しようッちゅー話や。 閑散としとるから学校としては業者を変えにくい。 そもそも閑散としてるから業者の人らのモチベーションが下がってこんな不味い飯出すようになったんかもしれへん。 せやったら、こんな風にして何とか人を集めて繁盛させたったらええんとちゃうか……っちゅう狙いがあってわざわざここで機関紙を読ませる事になったんよ」

「そんなに都合良く行くもんですかね? ウチの姉貴がここにいた頃から量だけ無駄に多くて不味かったって話ですけど……」

「どうしてもダメやったら機関紙を通じてアンケート取って、署名の呼びかけでもして民主的に勝負に出たらええだけの話やん。 食べたことない、食堂なんて使わんからどうでもええって層を減らせるだけでも今後の布石になるんよ。 んで、いっぺんはここで食べてもらうために、今回のコラムは『うめちゃんの3分クッキング』な訳よ」

「なるほどなー……」


 自分と同年代の人間の頭から出てきたとは思えない発想に、もはや感心するしかなかった。


「……ところで、会長と羽原さんはいつから名誉を守り守られるほど仲良くなったんです?」

「べっ、別に仲良くなんかなってへんわッ!?」


 唐突に湧いた疑問を何の気なしに口にしたところ、顔を赤くした会長からボディブローが飛んできた。

 別に痛くもかゆくもなかったが、あの二人の馴れ初め?を知っている身としてはもっと恐ろしい物の片鱗を見せられたような、そんな気分にさせられた。

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