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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
4章 新キャラ続々の新章、果たして作者はこの数のキャラを捌けるのか!?
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61話 最近は諜報機関やテロ組織でも公式ホームページに求人を載せていたりするから油断ならない

「ええ、彼の身柄はすでに拘束しています。 ですが……」

『記憶が曖昧で、大した証言が得られないんだろう?』

「はい、どうやら私と話していたときのことも良く覚えていないようで……」


 私、本橋 春日と話す上司の声はいつになく神妙で、真剣そのものだった。

 発端は先日の私の得た情報を受けて放棄された研究施設とやらに向かった二人の報告。

 その内容は一言で言うならば「何もない」というものだった。

 それ自体は特に驚くべきものではないのだが、少なくともこんな報告がそのまま上がってくるなんて事は現実的にはありえない。

 何もないなら何もないなりに、何故何もないのか? 施設だけではなくその周辺まできっちりと調査をしたのか、近隣の住民への聞き込みなどは行ったのか?

 何もない事に対して生じる様々な疑問を提示し、それらに対する解も示した上でようやく報告として認められる。

 施設に派遣された二人はベテランとは言えないが、それでもこれくらいの事は当然のように理解していた。

 そんな彼らが「何もなかった」なんてずさんな報告を上げてきたのは即ち、向かった先で何かあったという事なのだ。

 私は上司の指示に従って情報源、つまり愛千橋病院のあの医者を改めて問いただす流れとなった。


『それで、二人の様子は?』

「今は隔離して見守っている。 いつまで、と言うのははっきりとしないがしばらくはこのままだろうな。 多少のミスがあっても問題無いデスクワークくらいはさせてみても良さそうだが……」

『例の施設に追加人員を送る予定は?』

「そうだな、何もないなんて報告をさせて遠ざけようとしたって事は何かしらあるのと同義だ。 いずれはきちんと調べてみる必要があるだろう。 しかし……」


 意味深長な沈黙の後で、彼は重々しく言葉を重ねる。


『今はそれよりも優先してやらねばならない問題が生じたと見るべきだろうな』

「問題、ですか?」

『ああ、そうだ。 考えてもみろ。 あの医師の言葉をむやみに信じる訳にはいかない状況だが、脳の研究をしていたというのは強ち嘘ではないだろう。 そして、その脳の研究をしていた組織には人の記憶を消去する、或いは改ざんするだけの技術があると見て間違いないんだ。 付け加えるなら他者の記憶を覗き見たり、意のままに操る事さえも可能なのかも知れない』

「……飛躍し過ぎ、とは言えないですね」


 とんでもない話だが、この仮説を否定する材料よりも裏付ける要素の方が多い。

 たとえば、同僚二人の報告。 そして夏芽さんの目を覚ますのに協力したかの医師が今更私たちを欺こうとしたその理由。

 もっと言うならば3月21日の計画の随所に見られる杜撰さ。 わざわざあそこに大須 冬彦を向かわせた意味。

 いずれも力技で洗脳してしまえば一挙に解決してしまう代物だ。


『膨大な情報と電脳市場を形成しての迂遠かつ悠長な国家の乗っ取り。 俺も事態を把握しているお偉いさん方もそんな風に考えていたが、もしかするともっと乱暴かつ強引な方法で切り崩しに来ていたのかもしれないな』

「ですが、さすがにここまで来ると出来の悪いディストピアもののSFの世界ですね」

『ナンセンスだと言いたくなる気持ちは理解できるがな。 ただ、あり得ないとはとてもじゃないが言えない状況になりつつあるのも事実だ』


 やれやれ、と電話越しにでも聞こえるほど大きなため息を吐く。


「しかし、仮にそれが真実だとしても、何故わざわざ大阪を選んだんでしょうか? どうせやるなら東京でやってしまえばこの国の本丸を一気に落とせるのに」

『たしかにその通りだ。 だが、それは仮に出来るならば、だろう?』

「……つまり、何か大阪に彼らが暗躍しやすい理由がある、と?」

『ああ、そう考えて捜査に当たって損はないだろうな』


 仮にそうだとすれば通天閣の地下にあんな妙なシェルターがあるらしいのも、3月21日に狭い範囲内で複数の人が集まるイベントが許可された事も説明がつくかも知れない。

 勿論、東京で動くとすぐに私達のような勢力に睨まれるから、というだけの可能性も残ってはいるのだけれど。


『もっとも、大人数を動員して派手に動けるような段階ではないだろうがな』

「ですね。 二人が事実上欠員……下手をすればこちらに牙をむく危険すらある状況でそう何人も東京を離れるというのは無謀も良いところでしょう」


 私達が抱えている案件は何も新天寺社絡みだけではないのだから。

 平和の裏で蠢く陰謀、他者と法を顧みない利己主義者のどす黒い強欲、体制の側にいながら私欲だけを満たそうとするものと彼らに取り入って不正に利を得ようとする者達の癒着。 それらの中でも特に大きな、そして危険なものと戦うのが私達の使命。

 そういった闇が最も濃く・深い東京を疎かにする訳にはいかないのだ。


『となると、やはり圧倒的な質が必要だろうな』

「もしくは現地採用するか」

『それは無しだな。 即戦力になる上に熱心な奴なんてそうそう見つからないし、下手をすればスパイの侵入を許す危険だってある。 育てている時間も暇もない』


 まあ、当然の判断だろう。

 今も昔も少数精鋭で動いている集団なのだから、急場しのぎの人員補充なんて認められるはずがない。

 以前、ボスに続いて勤務歴の長い、お局様とも呼ばれている人からどうしても必要なら過去にここに所属していた人に助力を仰ぐこともあるとは聞いた事もあるが、どうやらそのつもりもないようだ。


『と言う訳で、俺が行こう』

「……はいぃ?」


 予想外の言葉、それも間違いなく妄言の類に思わず声が上ずった。

 曲がりなりにも組織を束ねる人物が、自ら最前線と言っても過言ではない場所へ行こうと言うのだ。 当然、彼はお飾りの、形だけの役職と言う訳ではなく、現場では対応できない問題に当たる事も多々ある人物。 その人が本部にいないと言うのは結構具合が悪い。

 それなら素直に勤務経験者に助力を求めた方がいいのではないだろうか。


『要するに大阪に行きたいだけでしょう?』

『いてっ』

『お久しぶり、春日さん』

「あ、お久しぶりです」


 (恐らく)受話器を引っ手繰って、代わりに応じたのは皆からお局様と呼ばれているその人だった。

 年齢不詳、本名不明、というか国籍すらも不明ともっぱらの噂。 おそらく30代後半だろうということ以外は全てが謎に包まれていると言っても過言ではない女性だ。

 しかし、そんな不審な経歴を持っているにもかかわらず各方面からの信頼は厚く、上司からも後輩――つまり私達――からも絶大な支持を得ている。


『彼は馬鹿な事言ってるけれど、しっかり椅子に縫い付けておくから安心してね』

『はい、お願いします』


 おっとりとした、しかし確信に満ちた口調は母性に溢れた声色からは想像もつかない程に頼もしい。

 この人なら、お守役としては適任だろう、なんて考えていると――


『そっちには私が行くから、宜しくね?』

「は、はいっ……え、はいぃ?」


 予想外の一言がさも当然と言わんばかりに飛んできた。

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