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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
3章 グダグダ日常? いいえ、ハーレムものでした
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59話 色々言われるが特殊能力の呼称とかルビを考えている時の厨二的ときめきは良いものだよな・・・

「あー、遊んだ遊んだ。 おやすみー」

「おい、風呂には入れ……って、もう寝ているのか……」


 USJから引き上げて、日が変わった直後には宿泊施設に戻った私と八。

 少し遠くから彼女の寝顔を眺める。 ちゃんとメガネは外している。

 本来、2人で宿泊する分には広すぎる部屋の隅に置かれたベッドで寝息を立てる彼女は、実に幸せそうに緩み切った間抜け面をしている。


「……さて」


 彼女から視線を外し、アーリーを立ち上げると専用のメガネとインカムをつけた。

 このメガネはアーリーの画面内の映像をARとして中空に表示することを可能にする代物で、通常ならば画面を切り替える必要のある作業でも別ウインドウを開いての作業が可能になる。

 それだけであればパソコンとさして変わらないが、このメガネの場合は手の届く範囲全てを画面として使用することを可能にする。 身体を動かす事を惜しまないようであれば前後左右上下の全方位が画面になると言っても過言ではない。

 私の目の前に浮かんでいる縦横50cmのウインドウが浮かんでいる。 AR技術で表示されたそれは例外はあるかもしれないが基本的に肉眼で捉える事は不可能。 右端に新天寺社のロゴが刻まれ、中心に検索バーと幾つかのボタンが配置されているだけのシンプルな画面。

 右手親指で検索バーをタッチすると、鳩尾の辺りから15cmほど先にARのキーボードが現れた。 頭全体を動かして視線をそこに向け、キーボードを操作する。 眼球の動きを認識する機能がないが故に、首を動かさなければならないのでいちいち疲れる。

 このキーボードはこうしてメガネ自体を向けてやらないと操作を受けて受けてくれないのだ。

 検索ワードは『ナツメ』と『シュウイチ』の二つ。

 特に珍しくもない二人の名前は日本中に散らばるアーリーとそれらのデータを集積するスパコンから膨大な情報を呼び出す。

 ユーザーデータ、画像記録、音声記録……幾つかのカテゴリに応じて分類されたデータ群が複数のウインドウに分けて表示されるものの、それでも母数が大き過ぎる。


「流石にもう少し絞る必要がありそうだな……日時は昨日、場所はUSJ」


 もう一度検索バーに触れてからキーボードを操作して情報を追加。

 インカムを使ってやった方がはかどるのは間違いないのだが、そこそこはっきりとした声で喋る必要がある為、八が寝ている以上あまり声を出したくはない。

 そんな事を考えながら横目で彼女の寝顔を見ている間にも一気に情報が絞られ、あの二人に関するデータが見つかった。

 貸切にしていたのだから、当然と言えば当然なのだが。


 羽原 秋一に中野 夏芽。 どちらも共に九尾高校1年生で生徒会所属。

 AR部なる部活と掛け持ちしているらしく、その部の部長はかつて新天寺社の難攻不落と言われているセキュリティを多少なりとも破った少女。


「……確か北里 千里だったか」


 その後、新天寺社はセキュリティを強化する為にあえて積極的に彼女の手を借りていたなんて話もあったか。 もっとも、管轄外の話であり、伝え聞いただけの話なのだが。

 念の為、この子のアーリーの情報も重点的に拾っておいた方が良いだろう。 それから……


「九尾高校の生徒会には八の妹もいたか」

「何を調べているんだい、ジン?」


 呟くと同時に後ろから声が聞こえた。 声色そのものは間違いなく八のそれだが、口調や微妙な雰囲気がまったくの別人だと告げている。


(ウゥ)か。 何の用だ?」

「いやなに、君が面白いものを調べているみたいだったからね。 ちょっと色々教えてあげようかと思っただけさ」

「……そうか」


 妙にねちっこい、どこかというよりもどこもかしこも厭味ったらしくて不快な喋り方。

 八ではどんなに頑張ってもこれを真似する事は出来ないだろう。


「それで、妹の身体なんて乗っ取って何のつもりだ?」

「おいおい、随分な言い草だなぁ。 乗っ取ってるのは口だけさ。 特別な道具を用いない限りはニューロン経由じゃあ複雑な指令は送れないからね。 本体の意識が明確なうちは無意識レベルの意志決定に介入できる程度だし、不便なもんだよ」

「ふん、不便か。 八の高嶺ノ花(アルラウネ)に比べれば可愛いものじゃないか」

「いやぁ、そんな事無いって。 せっかくこんな素材は悪くない器を得ているのにナニ一つ出来ないってのはフラストレーションがたまるもんだ」

「……下衆だな」

「いやいやいやいや、男なんてこんなもんだよ。 出来るかできないかの問題であって、ね」


 羽原 秋一に向かって似たような言葉を口にした身ではあるが、この男が八の姿を借りて口走るのには酷く神経を逆なでされた気分になる。


「それにね、兄貴としては心配なんだよ。 こんな体質だろ、イイコトの一つも知らないまま人生下り坂に突き進んでいくのかと思うとね、涙がちょちょぎれんばかりだ。 いっそのこと命がけでお前が抱いてやってくれよ」

「……それで、何の用だ? まさか駄弁りに来たわけではないだろう?」


 やはり、この男と話しても胸くそ悪いだけだ。

 見切りをつけた私は八の身体を借りたその男を睨みつける。

 そんな態度を察した五は「やれやれつれないねぇ」とだけ漏らして、何事もなかったかのように話題を変える。


「君が昨日出会った羽原 秋一くんについてさ。 彼なんだがね、どうにも変った才能を持っているらしいんだよ」

「ああ、目のことか?」

「おや、知っていたのか。 それと、夏芽ちゃんは元々ウチにいたモルモットなんだよね。 ニューロンネットワークの確立に大きく貢献した子なのさ、今はもう要らないけど」

「で、二人の能力について、お前はどう見ているんだ?」

「夏芽ちゃんはトランスミッター、秋一はレシーバーってところかな?」


 Transmitter――送信機。

 Receiver――受信機。


 いちいち妙な名前を付けたがるこの男のネーミングとしては随分と安直な部類の名称だ。


「あ、ちなみにちゃんとした名前は今考えている最中だからね」

「そんなものに拘ってどうする?」

「いやいや、名前は大事だよ。 僕の狐憑き(ロイコクロリディウム)なんかは名前を付けたら少しだけど性能が上がったしね」

「それは能力に対する愛着が湧いたからだろう、バカバカしい」


 と、与太話を聞き流しつつ考える。

 中野 夏芽の送信についてはこの目で確認したわけではないが、五の話を鵜呑みにするならば脳波を外部に送りつける才能を持っていると考えてしかるべきだろうか。 そして、彼女が送信時に用いる脳波に似せたものをニューロンネットワークに利用しているのだ。

 一方の羽原 秋一の受信というのは理解出来る。 彼自身の口から直接聞いたわけではないが、確かにメガネなしでARを目視している節があった。

 現実的に考えてARの情報を裸眼で視覚情報として捉える事は不可能だろう。

 となると、今こうして五が八をニューロン経由で乗っ取っているように、八がメガネ経由で脳に直接送られてくる信号を受信して視覚代わりにしているように、ニューロン特有の、一定の制約こそあるものの、脳との相互作用を持つ波長を受信して視認していると見るのが妥当だろう。 もっとも、何も装着していない状態で、平然と映像が見えているとなると、受信感度については他の追随を許さない代物になりそうだが。

 ――しかし、本当に重要なのはそこではない。


「彼には……もう一つ能力があるんじゃないのか?」

「USJでの出来事については良く知らないけど、君も気付いたみたいだね」

「誰だって気付くさ。 八の手を握っていたんだからな」


 胡散臭い口調は相変わらずながらも、五にしては深刻そうに息を飲んだ。

 私もしばしの間呼吸をする事さえ忘れたかのように押し黙る。

 そうして数秒の沈黙が続いた後に、どちらからともなく言葉を紡いだ。


「羽原 秋一は私達が最も懸念していた才能――」

「ああ、天上天下唯我独尊(ノイズキャンセラー)の持ち主みたいだね」

「……なんだその表記とルビは」


 思わず、手首のスナップを利かせて突っ込みの真似事などしてしまった。

解説とか


【ARメガネ】

USJで登場したものとはまったくの別物。

携帯ゲーム機30年来の欠点である画面乃小ささを補うために用いられる。

性能・機能は価格帯で代わってくるが、実用を考えればあって損はない。

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