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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
3章 グダグダ日常? いいえ、ハーレムものでした
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56話 遊園地内の施設の飲食店の割高感は異常!!

 現在地、ジュラチックパークを中心としたエリアに設置されたベンチ。

 アタシの隣には日本人……というか、若干人間として規格外の体格を誇る中年男性。


「なるほど……意外と子どもっぽいんだな、君は」

「うぅ、返す言葉もありません……」


 お手洗いに行った帰りに道を間違え、更に何とか元の場所に戻ろうとあがいている内にどんどん深みにはまってしまってすっかり迷子になってしまったアタシは、数分前に同じくヨウさんとはぐれたジンさんに保護された。

 重く低い声と規格外の体躯に反して、苦笑いを浮かべる彼の表情はとても柔和だ。

 遠目に見れば物凄くいかついこの人が、ヨウさんに懐かれている理由が何となく分かる。


「しかし、参ったな。 このだだっ広い園内を探しまわるのはなかなかに骨が折れる」

「そうですね。 何かとっかかりになりそうなものがあれば良いんですけど……」

「そうだ、君達はアーリーを持って来ていないのかい?」

「えっと、あるにはあるんですけど、兄から借りて来たものが」

「ふむ、そうか。 流石に他人のものに無断でアプリを入れるのは具合が悪いか。 生憎と私もヨウもプライベートでは持ち歩かないからな……」


 腕を組んだ格好で、少し眉根にしわを寄せて考え込んでいる。

 彼の横顔を眺めながら同じように迷子の捜索方法を考えてみるものの、なかなか都合良く妙案が思いつくはずもなく。

 一応、アタシの能力と秋一の目があればアーリーが無くても、遠距離での会話が可能なのだけれど、ここで意識を失おうものならジンさんを不必要に驚かせてしまうだけだろう。

 ケータイがあればそれで連絡出来るのだけれど、残念ながら浮かれに浮かれていたアタシはすっかりその存在を忘れて家を出てしまっていた。


「あ、ヨウさんのケータイは?」

「ケータイは契約すらしていないよ。 君こそ羽原くんのケータイの電話番号は覚えていないかい?」

「ごめんなさい、ケータイに登録したのでかけてるから……」

「そうか。 こんな事なら腕輪を付けさせておけば良かったな」


 ため息交じりに呟く。


「腕輪、ですか?」

「ああ、迷子防止用にね。 入場時にチップ入りの腕輪を子どもに装着させて、そのデータを保護者のメガネに読み込ませておくといつでもその腕輪までのルートが表示されるんだよ。 そのメガネから一定以上離れた状態でパークを入退場しようとするとブザーが鳴る仕掛けもついている」

「へー、そんなのもあるんですね」


 思わず感心するアタシの隣でいよいよ万策尽きたな、といった風な困り切った表情を一瞬浮かべるものの、彼はすぐに気持ちを切り替えて笑った。 秋一やその友だちの男子のような明るさは無いものの、艱難辛苦を乗り越えて来た大人だからこその静かに滲みでるような感情を確かに見てとることのできる渋みのある笑顔。

 そんな貫禄と品格を伴った表情のまま、近くのレストランを指差す。


「アテがないのでは仕方ない。 彼氏でなくて申し訳ないが、どこかで軽く昼食でも食べながら今後の方針を決めて行く事にしようか」

「そんな悠長なことしていて大丈夫なんですか?」

「大丈夫というのが何を指すのかははっきりしないが、いくらあの子でもこんなところで危ない事に巻き込まれたりはしないさ」

「秋一が何か失礼やらかすかも?」

「大丈夫、彼はあの子に触れることすら出来ない筈だ」


 さも当然、といった調子で口走る言葉にしては随分と極端かつ物騒な内容だ。

 

「あ、でも、店員さん、居なさそうですけど?」

「問題ないさ。 必要な食材はきっちり用意してもらっている」


 そこまで徹底して人を遠ざける意味があるのだろうか?

 たとえば彼女が人混みがダメだとでも言うのなら、秋一が言っていたあり得なさについての疑問や問題は残るにしても、貸切にするのは理解出来ない話ではない。

 けれど、施設のスタッフまで排除することに意味があるとはとても思えない。


「あまり詳しくは追及しないでくれ」


 アタシの疑問を察したらしいジンさんは穏やかなままに、けれど有無を言わさぬ調子できっぱりとそう告げる。


「あ、はい」

「それで、君は何が食べたい?」

「えっと、食べ物にまではちょっと気が回らなくて……」

「そうか……なら、私が適当に決めさせてもらうが、それで良いか?」

「はい、好き嫌いとか目立ったアレルギーは特にないので、大丈夫です」


 妙な迫力を纏っていたのは一瞬で、すぐに温厚そうな彼に戻った。

 悪い人ではなさそうだけれど、やっぱりこの図体もあって怒らせると物凄く怖いので、あの子との関係とか、妙な詮索はしない方が良さそうだ。

 なんて考えている私の横を、自転車に乗った少年が通り過ぎた。

 自転車の前かごには、おじいちゃんみたいにしわくちゃで、目はぱっちりと開いた宇宙人が行儀よく鎮座していた。


「あ、A.T.だっ!?」

「待ちなさい。 アレはただのARだ」


 またしてもアホみたいに幻を追いかけそうになったアタシを、ジンさんが肩を掴んで引き止める。 すぐに我に帰ったアタシは会心の笑顔で恥ずかしさやら気まずさやらを誤魔化す。


「……なるほど、彼も苦労していそうだ」


 ため息交じりの呟きには呆れのニュアンスが想像以上に色濃く滲んでいる。 初対面の人にこういう反応をされるのはかなりショック。

 そのせいもあってか、必要もない言い訳の言葉があたふたと口から漏れ出す。


「えっと、ARだって事は理解しているんですよっ。 でも、こう……映画のキャラが通り過ぎるのを見るとですね……ふら~っと」

「そうか」

「ARが拡張現実って意味なのも、映像技術の一種なのも勿論きちんと理解しているつもりですよ。 でもほら、流れ星がたとえ大気圏に突入して燃え尽きつつある石だと知っていても、虹の発生のメカニズムを科学的に理解していたとしても思わず見とれちゃうじゃないですか。 なんて言うかか、そんな感じなんです!」

「そうだな」


 ジンさんの温厚そうな表情とぞんざい極まりない反応のギャップに、心が折れそうになる。

 それ以上何も答えずに静かに立ち上がると、近くの博物館風のデザインのレストランを指差し、アタシの話を遮るようにこう言った。


「君がベジタリアンで無いならあそこのレストランで恐竜の化石でも眺めながら昼食を取ろうと思うのだが、それで良いかな?」

「……はい」

「ヨウの為にキッズセットの材料を頼んでおいたのが役に立ちそうだ」

「こっ、子ども扱いしないでください!」

「何なら、ジュラ紀のヴォルカニックケーキも付けようか?」

「ケーキっ!?」


 その店に関する基本情報や本日のお薦めのAR表示なんて完全に意識の隅に追いやったまま目を輝かせたアタシを見て、彼は面白そうに笑ってみせた。


「やっぱり子どもじゃないか」

「……はい」


 その後、店内へと足を踏み入れた私はARで再現された巨大な恐竜の化石を見て度肝を抜かし、もう一度ジンさんに笑われる羽目になった。

解説とか


【腕輪とメガネ】

迷子防止用のチップ内蔵の腕輪。 チップの情報をメガネに登録すると追跡可能になる。

監視されている気分になるため、子どもからの評判はあまり宜しくないらしい。

が、子どもが遠くに行けば知らせれくれる、見失ってもすぐに探せると利点は多い。

更に誘拐防止の警報機能、迷子センターでは保護者の位置を特定も可能だったりする。


【A.T.】

宇宙人と少年の交流を描く非常に有名な映画。

宇宙人が小型、主人公も少年、自転車で空を飛ぶなど着ぐるみ向きでない要素が多い。

実際、月の綺麗な夜には月をバックに夜空を舞う自転車を拝むことが可能だとか。


【店舗情報】

メガネであれば予め登録された基本的な情報とメニュー一覧のみが表示される。

アーリーと連携すれば個人の嗜好やアレルギーまで加味した情報を表示してくれる。

ARイーゼル、広告などもあり、ゲストを興ざめさせないようにオンオフ切り替え可能。

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