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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
3章 グダグダ日常? いいえ、ハーレムものでした
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51話 お姫様だっこは現実では腰への負担が凄まじいのでやるなら相当の覚悟が必要だぞ!

「おはよう、羽原 秋一」

「ああ、どうも、会長」


 翌朝、さっそく会長と出くわした俺は何食わぬ様子で挨拶を交わした。

 道中で一緒になった夏芽と千里、会長と一緒に登校してきたらしいうめ先輩は、俺達に向けて何やら思わしげな視線を投げかけている。 そんな中、本橋先生は俺達を居ないものとして扱うかのように視線を逸らし、他の生徒と雑談に興じていた。


「昨日はごちそうになりました」

「ホンマにな。 なんでウチが7割持つ事になったんか今でも理解できへんねんけど?」

「強いて言うなら会長だからじゃないでしょうかね」

「どんな理屈やねん」


 特に夏芽辺りから放たれる鋭い視線を右肩辺りに受けながらも、にこやかなスマイルを貼り付けつつ会長と大した意味のない言葉の応酬を繰り広げる。 会長はそんな夏芽の様子に気付いているのか気付いていないのか、時折彼女の方に視線を送っている。

 校舎の入り口付近で突っ立っている俺達の横を鶴橋さんと新が通り過ぎ、すれ違いざまに「おはよう」と一言挨拶をして去ってゆく。 それをきっかけに俺達は立ち話を切り上げてお互いの教室を目指して歩き出した。

 後ろから本橋先生の足音がする。 数秒後には彼女は俺と肩を並べた。


「まるで何事もなかったかのように、って感じね」

「そりゃそうでしょう。 素性がばれたところで何がどうなるってものでもないんだし」

「そうは言っても多少は態度に出るものだと思うんだけどね」


 本当、最近の若い子は分からないとで言わんばかりに嘆息する本橋先生。

 今度は俺と彼女に向けて千里と夏芽の曰くありげな視線が飛んで来る。 これまた特に夏芽の眼光が鋭く、彼女の視線が突き刺さるその一点だけ妙に汗ばむような、不思議な錯覚すら覚える。

 実に落ち着かない。


「あのー、夏芽さん?」

「何よ?」

「そんな物欲しげな熱視線を学校で向けられても困る」

「……はぁ?」


 眉をしかめつつ、鼻で笑われた。 冗談の類は一切通じそうにない程のご立腹だ。

 しかし、ここまで盛大にひんしゅくを買うような事をした覚えはない。 確かに彼女にしてみれば面倒くさい仕事を押しつけておいて自分は女の子と遊んでいた訳だから、そりゃ腹も立つのは分からなくはないのだが。


「でも、こんな風に超睨まれるようなことですかね?」

「夏芽さんの乙女心についてはスルーを決め込む方針なのかしら?」


 唐突な振りにもしっかり応じてくれる本橋先生。 それとは対照的に夏芽はますます不機嫌そうに眉根にしわを寄せた。


「なあ、千里からも何か言ってやってくれ」

「とりあえず、夏芽ちゃんとデートしてみれば良いと思うが」

「どういう理屈だよ、バカ」


 いつの間にやら俺の隣に並んで、ちょこまかと歩いていた千里にデコピンを見舞う。

 仰け反りつつおぅぅ、と声を漏らした彼女のツインテールが忙しなく揺れる。


「そんな見境なしの遊び人とデートなんて冗談じゃないわよ」

「遊び人、ねぇ……」


 1日に二人の女性と一緒に食事したくらいで酷い言われようだ。

 と言ったところで現に夏芽は怒り心頭なのは事実だし、それがいつまで収まるかも分からない上に、彼女がご機嫌ナナメのままなのは俺の精神衛生上よろしくない。

 それにさっきは思わず千里に突っ込んだが、デートをするというのは案外良いアイデアなのではないだろうか? 正確に言えばたまたま鉢合わせた知人・友人と一緒に食事しただけである事を訴える良い機会になると言ったところだろうか。

 まず、夏芽の怒りの根っこにあるのが俺への好意だと仮定すると要するに彼女は妬いているのだから、異性と食事する事に対してあまり深く考えてはいない事を理解すれば嫉妬は萎えるはずだ。 まあ、これはこれでデリカシーの無いとか、鈍感な奴だとか思われそうだが。

 もしも彼女の不満が言葉通り面倒事を押しつけておいて、というところにあったとしたら、それとなく本橋さんと一緒にいたのは新天寺社絡みである事を伝えればまず間違いなく納得してくれるだろう。 あまり気乗りのしない話ではあるが。


「よし、夏芽。 今から学校サボってデートしよう」

「また訳の分からない事を……って、ちょ!?」


 夏芽が口を開くよりも早く身を翻し、彼女をいわゆるお姫様抱っこで担いで駆け出す。


「本番をする時はちゃんとつけろよ~」


 千里はそんな事を口走りながら呑気に手を振っている。

 更に千里の隣では本橋先生が聞えよがしなため息をつき、彼女に話しかける。


「ねえ、あなたは羽原くんが好きなんじゃないの?」

「そんなこと気にしていたら夢の3Pは出来ないと思います!」

「……あっそ」


 もはや聞きなれたやり取りが遠ざかってゆく。


「それにしても、あの抱き方って意外と力が要るのに良くやるわね」

「秋一は意外と筋肉あるから。 体重もああ見えて77.3キロほどあるし」

「なんでそんな細かなプロフィールを知ってるのよ?」


 千里に身体測定の記録を見せた覚えはないんだがなぁ……などと、首を傾げている間にも腕の中で夏芽がばたばたと暴れてみせる。 が、ほんの少し前まで寝たきりだった彼女の身体能力は一般的な女子のそれよりも弱く、そこそこ高い身長に反して未だに千里よりも非力だったりする。

 こうしてお姫様だっこで運べるのも、そういう理由によるものだ。


「あんまり暴れると……」

「何、落としちゃう?」

「いや、落とさないようにもっと強く抱きしめる。 あと、あんまり騒ぐようなら口をふさぐ。 両手がふさがった状態だとどういう風にしてふさぐのが一番効率が良いかな?」


 にんまりと笑顔を向けてやると、夏芽は赤面しつつ縮こまった。

 そんな仕草がなんとも可愛らしい。 だから、言われるがままに大人しくなった彼女を、それでもお構いなしに抱き締める腕に力を込めた。

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