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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
3章 グダグダ日常? いいえ、ハーレムものでした
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47話 ドジっ子メイドって現実にいたら後始末の手間がかかり過ぎて笑って許せる気がしないんだぜ!

「おかえっ、おっ、おかえりなさいませ、ご主人様」


 と、どもりがちに私達3人を出迎えてくれたのは眼鏡の金髪メイド。

 なるほど、確かに一瞬誰だか分からないが、よくよく見てみると間違いなく会長だった。

 どうやら常連客らしい老医師には恭しくも人懐っこい笑みを向けていたが、私の姿を見るとその表情を微妙に引きつらせ、最後に羽原くんの方をねめつけた。


「ちょっと、なんでわざわざ先生連れてきてん?!」

「ここに連れて来たのは俺じゃねーよ」

「せやったらなんでアンタまでここにおんねん!?」

「ああ、それは会長に会いたかったからかな?」

「はぁ!? 何をきしょいことっ……!?」

「……おい、ファンの皆様の夢を潰すなよ、メイド会長」


 がるるるる、と唸り声さえ聞こえてきそうな表情の会長とあひゃひゃひゃ、といった感じの高笑いが聞こえてきそうな羽原くんの間に火花が飛び散る。 と言っても妙な敵対心をむき出しにしているのは会長だけで、羽原くんの方は面白がっているだけなのだけれど。

 その始終を生温かく見守っているメイド仲間や客たちの存在を思い出した彼女はすぐに我に返り、少し顔を赤くしてお辞儀するとキッチンへと逃げ帰った。

 もしかして、あれが彼女を私たちの傍に近づけない為の策なんだろうか?


「そんなとこで立ってないで座ったらどうだね?」


 私の疑問なんてお構いなしに老医師は店内の一角に腰をおろし、私達を手招き。

 さっきの二人のやり取りにもこれと言った関心を示す様子も無く、本当にこの店のファンなのか非常に疑わしい態度だ。


「あ、俺は別の席で良いや」


 彼の招きを断って、羽原くんは私たちの腰掛ける席から少し離れた場所に着席した。

 そして、すぐさまベルを手にとってメイドさんを呼び出す。


「あ、はい。 本日のお食事は……」

「ここの、全部」

「はい?」

「だから、ここに載ってるメニュー全部お願い出来るかな?」

「ぜ、全部……ですか?」

「ああ、全部だよ」


 唖然茫然といった様子のメイドさんに向かってさも当然のように答える。

 あまりにも真顔の彼に気押されたメイドさんは「かしこまりました。 それではお食事が出来るまでごくつろぎ下さいませ」と微妙に上ずった声で述べると、これまた逃げるようにキッチンへと引っ込んでしまった。

 そりゃ、20前後の女の子があんなふざけたオーダーに対処出来る訳が無いわよね……。


「さすがに若い子は良く食べるね」

「え、ええ、まあ、そうですね……ところで、以前にもお尋ねいたしましたが、あなたはあそことどういった接点をお持ちなんですか?」


 的外れな感想にどう対応したものかと苦笑しつつ、無難に受け流す。 そして、羽原くんの存在はなかったものとみなす事にして、さっさと本題に斬り込んだ。

 慌てふためくメイドさんを実に厭らしい笑顔で見守る羽原くんに、やんちゃな孫でも見守るかのような視線を向けていた老医師はその微妙に締りのない表情のまま口を開く。


「君は超能力、というものを信じるかい?」

「超能力……と言うと、あの念力でものを動かすとか?」

「そう言うのもあるね。 でも、私が言っているのは科学技術で再現して来たものの方を想像してくれた方が正しく理解出来ると思うよ。 たとえば、遠隔地に自分の言葉を伝えるテレパシーという奴。 これは電話、ファクシミリ、メールなんかを使えばある程度似たような現象を再現出来る」

「結果だけ見ればそうですね。 ですが、それらは発した情報を何かしらの信号に置き換えた上でケーブルや電波を介して伝わって行き、最後に信号を解読して元に戻すものですから、科学に裏打ちされたものであって決して超能力ではありません」


 そう答えたのはオカルトで煙に巻かれる可能性を潰すため。

 しかし、私の異論を聞いた老医師はまるで模範解答を示した優等生を見るような、満足げな目を向け、続ける。


「そうだね。 でもね、信号は共通の言語や文字の理解、インフラは空気や光に置き換えれば言語や文書というのは超能力の原点と言えるんじゃないかな? そして、空気や光の正体は我々の理解が追い付くよりも先に、と言うよりもどんなに知能の低い生き物でも利用しているものだ」


 何やら意味ありげな口振りではあるが、やはり煙に撒かれているようにしか思えない。


「この話は何か関係があるんですか?」

「随分と結論を急ぐね。 気持ちは分からなくもないが、もう少し話を聞いてくれ」

「……分かりました。 でも、なるべく早めにお願いします」


 不満げな表情と口調を隠さず、そう告げる。


「こういったコミュニケーションに関わる要素の中で一番解明されていないのが何か分かるかい?」

「……もしかして、脳ですか?」

「正解だよ。 知識が無ければ言語は雑音、文字は記号でしかない。 たとえば、「おはよう」という言葉を発した時、音声の連続性をどうやって認識しているのか、音声と意味をどうやってつなげているのか……つまり我々の頭の中で何が起きているのか、これを解明して法則性や個人差のある要素と普遍性のある要素を選り分けて行けば、言葉を発する過程も文字を打つ作業も飛ばして意志疎通が出来るようになる……かも知れない」

「つまり、あなたは新天寺社の前進で脳に関する研究を行っていた、と」


 だから、夏芽さんに「意識を覚醒させる電気信号」を発するように促すなんて真似が出来たのだろう。 夏芽さんが新天寺社の前進と何かしら関わりがあったのはその研究の過程であの異能の存在が発見されたからで、大須 冬彦と老医師に接点があったのは何も訝しがるほどの事ではない。

 付け加えるならば坂田 うめと新天寺社の繋がりは脳の機能とされているリミッターの制御とか、その辺に関わる代物だろう。 もっとも、彼女の場合は限界を突きぬけた身体の活動に肉体が対応しようとした結果、一代で人間以上の何かに進化してしまっている節があるのだけれど。

 しかし、その一方で腑に落ちない事も幾つか湧きあがってくる。


「どうして、ゲームメーカーがそんな研究を?」

「違うな。 君も知っている通り、新天寺社の通信技術は独自規格。 この規格の根っこにあるのが夏芽ちゃんのあの異能なんだよ。 何故か彼女の脳の外側で彼女の脳波が観測出来た。 その原理や波長を何とか解明して、その応用でアーリーの通信技術の基礎が誕生したんだよ。 つまり、脳の研究をしていたら何故か通信技術が確立したからゲームメーカーを立ち上げた、が正解だよ。 まあ、与太話にしか聞こえないだろうがね」

「……だから、ニューロン」


 思わずつぶやいた直後、店内にけたたましい音が響き渡る。 音の発生源は羽原くんが座っていた席の近く。

 何事かとそちらを振り向くと、顔面から床にダイブした会長が料理と水と調味料を引っ被った格好で突っ伏していた。

 ……いくらなんでもその邪魔の仕方は物理的過ぎると思うわ。

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