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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
3章 グダグダ日常? いいえ、ハーレムものでした
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44話 JKギャルのテンションに付いていけなくなった瞬間、青年はおっさんへの階段を上り始める!

 明くる日の放課後。


「なるほど、やっぱりうめ先輩については調べがついていたか」

「やっぱりって、予想はついていた訳?」

「そりゃそうでしょう。 あれだけ元気に暴れ回っていれば新天寺社とは関係のないカメラにだって映っているだろうし、アーリーじゃなくてスマホで撮影されている映像だってある。 そんな状況で幾つもの科学捜査や膨大な個人情報を有している組織が見逃しましたなんて言われても信じようがない。 それにあの時、警察が表立って動かなかったのも泳がせて尻尾を掴む為だったと考えればとりあえずは納得が行く」


 昨日の電話の内容を協力要請の件だけは伏せて説明したところ、そんな回答が返って来た。

 その上で更に言葉を重ねる。


「で、その上司のおっさんは俺に協力して貰え、とかそんな感じの事も言ってませんでしたか?」

「いえ、そんな事は言ってないわ」


 とっさの嘘。 性格的に嘘をつくのは苦手なのだが、職業がらやって出来ない事はない程度に表情を取り繕う事は出来る。 逆に羽原くんはそれを見破るのが得意そうなだけに上手く誤魔化せているかは少々不安だ。

 そんな私の顔を彼はしげしげと眺めている。 年下の男の子ではあるが背はかなり高いので自然と見下ろされ、そして見上げる格好になる。

 勿論、凝視されたからと言って視線を逸らすような事はしないが。


「一応の根拠があるんで言ってたって前提で話させてもらいますけど、止めたって俺が勝手に首を突っ込んで来る可能性が無いとは限らないし、新天寺社が何かしら俺にちょっかいを掛けて来る事だってあるかも知れない。 最悪、大金を積まれれば新天寺社に手を貸して本橋さんを後ろから刺すなんて展開も考えられなくはない」

「放っておいても火遊びする相手ならちゃんと目の行き届くところで、ってことね」


 まあ、一理はある。 もっとも、彼が大金如きに釣られるとは到底思えないのだけれど。

 たとえば「遊ぶのに困らない程度の金なら千里に貢がせるぜ!」とか、そんな理屈であっさり突っぱねそうなそんなイメージがある。

 そんな失礼な想像は頭の片隅に追いやりつつ、流石ねと彼の鋭さを讃えながら苦笑。


「だったら、仕方ないわね。 手を貸してもらっても良いかしら?」

「断られたってそのつもりですよ」


 にぃ、と口の端を不敵に吊り上げながらも目許は年相応というなんとも器用な笑みを浮かべる羽原くん。

 その表情は少し前にようやく義務教育を修了したばかりとは思えない程に頼もしい。

 性格的には苦手な部類の子だけれど、それだけに味方としては心強い。

 が、その性格的な問題故に、一つだけどうしても気になってしまう事もある。


「……随分と乗り気ね? こんな事に首を突っ込んで得する事なんて何もないでしょ?」


 何のためにわざわざ厄介事に自ら関わるのか?

 これが少年漫画の主人公のようなお人好しならまあ、善意の一言で説明出来る。 私自身、見ず知らずの誰かに対するお節介を際限なく積み重ねて行った結果、今に至ったようなものだからこう言う人についてはとやかく言う筋合いも無い。

 しかし、羽原くんは無条件に善意を振りかざして動くようなタイプではない。 もちろん、3月21日の件には大した打算も無しに首を突っ込んでいたようだが、毎回毎回そんな動機で動けるほど熱血漢ってタイプには見えない。

 とは言え、積極的に新天寺社の件に関与して、得をする事が彼にあるのかと問われれば、それに対する明確な答えは何も思いつかないが。


「まあ、普段なら君子危うきにって事で無視を決め込むところなんだけどな。 ただ、脳筋ファイターに何もかも任せっきりってのは流石に不安ってのが一つ。 それから、新天寺社をがっつりけん制出来ればうめ先輩と連中の関係を断てるかも可能かもしれないってのが二つ目。 んで、最後に昔の夏芽の境遇にあいつらが関係してるんならちょっくら嫌がらせの一つくらいやっても罰は当たらないだろ?」


 こんな思考、私の頭の中からじゃあ逆立ちしたって出て来るわけがない。

 いや、そんな事よりも――


「誰が脳筋ファイターですってぇ……?」

「うおわっ!? 善良な一般市民の頭部めがけていきなり回し蹴りを放つなっての!?」

「大丈夫よ、運が悪くなければかわせる程度に加減はしてるから」


 にっこりと最上級の笑顔を向ける私の真心を、羽原くんは引きつった笑みで受け止めつつ半歩退く。 何気ない動きながらもしっかりと壁のある側のガードは放棄した上で、死角からの攻撃に対応しやすい位置に手を置き、内また気味に構える事で金的を守り、かかとを少しだけ浮かせて重心を後ろに置いている。

 逃げに徹する体勢としてはかなり良く出来た構えだ。 やろうと思えば反応するよりも早く腕ごとこめかみを蹴り飛ばす事も、ガードの隙間につま先をねじ込んで正中線のどこかしらををぶち抜く事も可能だがじゃれ合いでそこまでやる意味はない。

 それならば、とわずかに浮かせていた足を床に下ろすと同時に素早く踏み込んで手を伸ばす。 羽原くんはその手をとあがくが所詮は素人、右手一本で彼の左手を瞬時に払い除け、右手の手首を掴みつつ彼の後頭部に腕を回した。

 所謂、ヘッドロックである。


「ぐおっ! 中学生みたいなコミュニケーションしてんじゃねえ!?」

「ふっふっふ、こんな綺麗なお姉さんに締めてもらえる機会、早々ないわよ?」

「聞いてねえよ!?」


 叫ぶ羽原くん。 自由の利く左手で何度か私の手をタップしているが、動揺する彼の姿は珍しくも面白いので暫くは応じないでおこう。


「秋一、おっはー」

「ふぅ、教室の掃除は流石にまだしんどいわ」

「おーっす、羽原先生」


 そんな事を考えている所にやって来たのは夏芽さんと千里ちゃんの1年女子コンビ。

 と、実質幽霊部員の今宮 新くんだ。 彼が生徒会室にやってくるのは私が知る限りではサバゲーの時以来、2度目になるのだろうか?


「って、また教師と生徒で禁断の愛を深めてるし……」

「どっちかって言うと男子中学生同士のじゃれ合いじゃないか?」


 いわゆるジト目で私と羽原くんを眺める夏芽さん。 私に向けられた視線から曰く形容しがたい圧力を感じるの気のせいではないはず。

 その隣で若干羨ましそうに私達を眺める今宮くんの言は冷静かつ的を射ている。


「つまり、生徒と教師の禁断のBLってことか」


 千里ちゃんは概ねいつも通りで安心した。

 が、その直後に私の抱いた安心をたやすく吹き飛ばすほどの暴風が吹いた。


「本橋さんと秋一だったらどっちが攻めなのかしら!?アタシとしては普段は不遜で強気で負け知らずの秋一がベッドの上でもやっぱり王様ってのが基本かなとは思うんだけど、でも普段がそんな強気だからこそ守るに入ると弱いってのもありよね!本橋さんは女の人だけど格好良いからその辺はこっちで適当に補正しておくとして(以下略)」


 怒涛の如き世迷言の機銃掃射が私の耳をハチの巣にした。


「……え?」


 それらの言葉を発したのが千里ちゃんなら軽く受け流すところなのだけれど、夏芽さんがそんな事を口にするとは到底思えず、ぽかんと口を開けて間抜けな反応を示す事しか出来なかった。

 それは今宮くんも同様らしく、唖然とした面持ちで目を輝かせる彼女を凝視している。


「なるほど、腐女子だったか……確かに片鱗はあったが、それにしても随分と記号的な」


 羽原くんは比較的冷静にその事実を受け止めていた。 彼の無駄に回る頭で既にその可能性を把握していた、というのがより正確なところだろう。

 つい、腕の力を緩めてしまっていた私の拘束から抜け出した彼は恍惚としている夏芽さんのすぐ目の前へと歩み寄り、パチンとデコピンをお見舞いした。


「あいたっ! な、何するのよ!?」

「人をダシにして変な妄想するんじゃねーよ、バカ」

「まあ、秋一も秋一で私らをオカズにしてるだろうけどな、がぁ!?」


 オカズ~の辺りで大きく振り被った彼の平手が、言うべき事は言い終えた千里ちゃんのこめかみを鮮やかにぶち抜いた。

 フルスイングの一撃は流石に効いたらしく、崩れ落ちた彼女は膝を床に付き両手で身体を支えるものの、起き上がる気配を一向に見せない。

 少し心配になった私が身をかがめて覗き込むと、それはもう幸せな笑顔を浮かべていた。

 ……酷い倒錯加減だなぁ。


「で、新。 何か用か?」

「え、あ、はい。 ちょっと先生、というかAR部に頼みごとがあって来たんだけど、良いですか?」

「内容によるな。 それと丁寧語は止めてくれって何度も言ってるだろ?」

「いやぁ、やっぱりなんか畏れ多いんで……」


 先生、と言うのは私の事ではなく、羽原くんのあだ名らしい。 思わず丁寧語になる所や畏れ多いという言葉も含めてその気持ちは何となく分からなくもない。

 むーっと不機嫌そうに級友を眺める羽原くんと、たじろく今宮くん。 その横をすり抜けるように、見慣れない女の子が生徒会室へと飛び込んできた。


「ハジメマシテ、って言うのもちょっと変だけどハジメマシテ☆」


 メールの文章であったなら、文末に不等号を利用した顔文字がついていそうなテンションの女子生徒だ。 スカートの丈はもう少しで見えそうなほど短く、シャツの第2ボタンまで外し、ブレザーは腰に巻いている。

 校則の兼ね合いで申し訳程度の茶髪ながら、かなり派手な髪留めを用いて高めの位置でサイドテールに結わえた髪をカールさせたその頭髪はインパクト抜群。

 比較的ナチュラルではあるが間違いなくメイクの施された顔立ちは、良くも悪くも年齢不相応に華やか。

 確か、彼女の名前は――


「鶴橋 郁乃(いくの)さん?」

「さっすがセンセー! 覚えててくれたんだっ♪」


 と、生徒会室の一角にウインクと投げキッスを飛ばした。

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