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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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35話 入浴前と入浴後、どっちも良いのは当然だが現実にはどちらかを選ばねばならなくなるから普段からしっかり準備しておいた方が良いぞ!

 生徒会長との対決が終わってから3時間後、ただいまの時刻は午後10時。

 お風呂から上がったロリ系美少女、千里ちゃんはミリ子さんに電話をかけていた。


「はろー、お風呂上がりの千里ちゃんだよ~。つやつやのエロエロだよ~」

「君は何を言っているんだ?」


 ミリ子さんが苦笑しているのが受話器越しでも伝わってくる。

 口調は学校で話していた時と変わらないけれど、雰囲気は少し柔らかい感じだ。

 学校の先輩と電話で話すなんていうのは初めての経験なので少し緊張する。


「んで、何が訊きたいん?」

「今日の勝負に向けての君たちの戦術を教えて欲しい」

「それなら秋一に直接訊けばいいのに」

「そうなんだが……何と言うかな、彼は少し苦手でね……」


 と、はぐらかすような調子で答えるミリ子さん。

 苦手というのは要するに「怖い」とでも置き換えるべき単語だと思われる。

 ……まあ、あんなものを見せつけられた後では怖がるのも当然か。


「確かにアレは私でもちょい引いたから仕方ないわな」

「ちょいどころの話じゃないだろう、あれは……」


 あれ、についてはかれこれ3時間半前に遡る。

 秋一のタチの悪い策略にハマった会長がゲーム終了の時刻を40分も過ぎた午後6時半。

 念には念をと見回りの先生に見とがめられるまで粘った秋一が警備室のドアの開けたその瞬間の事。

 既に勝敗は決したからと私達も警備室へと押し掛けて、中の様子を覗き込むと……会長は部屋の隅で泣き崩れていた。


「うーん、なんちゅーか……見事なパンゲアの地図だったかと」

「下着を脱いでいたのは理性的な判断なのか、気が触れていたのか……どっちだろうな」


 しみじみと、二人して妙にずれた感想を漏らした。

 私もミリ子さんも会長に対しては元々あまり良い感情を持ち合わせていない。

 一方の秋一に対しては私は言うまでも無く、ミリ子さんも6時頃までは「大した奴だ」と概ね好評だった。

 しかし、流石に女の子として人として、これは見過ごせないようだ。


「あーでも、約束を破らせないためって意図はあったと思われ」

「だからと言ってあの姿をアーリーで撮ろうとしていたのは許される行為ではないな」

「ですよねー」


 まあ、秋一はあそこまでやればにミリ子さんか副会長か本橋さんか、誰かしらが止めに入ると読んだ上で行動していたのだろうけれど。 そして、結果から言えばその場にいた女性陣全員が会長を助けに入った。

 本橋先生とミリ子さんは男性陣を追い払い、夏芽ちゃんは秋一からアーリーを取り上げ、副会長が会長を慰めて、私が何か床を拭けそうなものを取りに行った。

 その後、床の掃除が終わって、会長が落ちつくまでの間、秋一は夏芽ちゃんと本橋さんから延々と説教を食らっていた。 どうせ馬耳東風だろうとは思うけど。


「っと、話が逸れたな。 確か……」

「私達、というか秋一が立てた作戦について?」

「そう、それだ」


 そう言われても作戦を立てたのは殆ど秋一だから、私に聞かれても良く分からない。

 私がやったことと言えば秋一の目を活かした戦術、有体に言ってしまえば完全なインチキの為のアプリを幾つか準備したくらいだ。

 もっとも、そもそも秋一が今日の勝負で使っていたアーリー自体が大須さんのもので、先日作った射撃アプリと元々内蔵されていた監視用のアプリがそのまま残っており、それにちょっと手を加えただけなのだけれど。

 なんて事をバカ正直に話して良いものだろうか……。


「知っている限りになるけど、それでもおk?」

「ああ、構わないさ。 断片的な情報でも全体を想像する助けになるからな」

「んじゃ、まずは秋一が一番警戒していた戦術について」


 その一言で受話器の向こうのミリ子さんの雰囲気が変わるのが手に取るように分かった。

 サバゲーマニアと言うよりは本当に軍人っぽいなー、この人。


「1点だけ取って全員で籠城」

「……身も蓋も無いな」

「それを避けるためにとにかく籠城出来そうな部屋を徹底的に調べ上げて、上の方の階とかについては先生と副会長が何とかする方向性で纏めて、下の階に窓の無い部屋とかがないか探して回ったらそれに該当するのが警備室だけだった」


 で、最初は何か毒的なものを準備しておこうかって話をしていたけれど、いくらなんでもそれは不味いと言ったら、他の手立てを考えると言ってそれっきり。


「なるほど、と言うことはトイレに行けないようにすると言うのはそれによって恐怖感を煽る為の作戦だったとか?」

「可能性はあるかと。 あと、KASSが勝った時に暫く閉じ込めて惨事になるのを待ってからそんな事態を招いた会長への脅迫材料にするくらいの腹積もりはあったかも」

「ほんっとうにろくでもない男だな……」


 曲がりなりにも私のためというのが事の発端なだけに何とか弁護したいところなのだが、残念ながら秋一を弁護するのに適した言葉が思いつかない。


「で、次に考えたのがこっちがどうやって相手に勝つかで……」

「ん、どうかしたか?」

「なんでもない」


 さて、ここについてどう説明したものかなぁ。

 相手がまともに勝負を仕掛けてきた場合の戦術に関してはどうしても秋一の目とそれを前提にしたインチキについて言及せざるを得ない。

 その部分を省いて副会長と本橋さんの実力で稼げるだけ稼いで、後は秋一が逃げに徹するつもりだったなんて説明をして納得してくれるだろうか?

 ミリ子さんは秋一の人間性はさて置いて、戦術眼は必要以上に高く評価している。

 実際、秋一に負けたようなものだし、私たちのやっていた反則も良いところの準備を知らなければそんな評価になるのは妥当な結果ではあるのだが……。

 何もかも話して良いのならば、籠城には既に説明した方法で対処し、真っ当に勝負するケースならば副会長と本橋さん、あと秋一の位置把握と狙撃の三つで対処しきれる手はずだった。

 更に会長だけが籠城して指揮を執るケースだとこちらの動きもある程度読まれてしまうので、会長の指揮を受け付けない状況を作る。 で、その方法はこの戦術の提案者が会長だった場合は彼女の今までの行動や言動・態度から権力(と言うほど大層なものでもないが)で強引に指揮権を奪うだろうから彼女らの実益を約束した上でプライドをくすぐって対立させる。 仮に戦術の発案がミリ子さんや他のKASSメンバーだったならば何かしらの方法で会長を警備室から引きずり出す予定だったらしい。

 で、実際の試合展開は会長が籠って指揮という状況で始まり、秋一の作戦で真っ当に試合する展開へと移行、最後には制限時間の長さを頼みに籠城の構えを取る会長に最初の戦術を使うって形で考えたものを全て消費する格好になった。

 ――とこんな説明をすればミリ子さんは自分の部屋では鳩が豆鉄砲を食らったような表情で納得するしかないのだろうけれど。


「そうか、分からないなら無理に説明しろとは言わないよ」

「うんー、申し訳ない」


 長々と説明してまた別のところで突っ込まれるとどこかでぼろが出そうなので、はぐらかすことにした。


「気にする事はない。 なら私達に会長を裏切らせたのは計算通りなのか?」

「そうだお。 ちなみに生徒会室で聞かせたあの音声は幾つかの戦術・状況を予め想定して、それぞれに適した台詞を用意しておいたのをその場で私が適当に組み合わせたもの」

「地震が起きると書かれた紙をいつもポケットにしまっているのと同じ類のペテンか」

「そゆこと。 あと、会長がメールを見せられる場合に備えて上手く本音を隠した交渉メールを送ってきた場合のために会長のイメージを悪くするようなメールの準備もしっかりしていたり」

「……彼はどこでそんな情報戦を覚えたんだ?」


 呆れや驚きよりも、恐れを通り越してある種の畏敬の念すら感じられる声だ。


「それ以外だと、数で勝るチームがその数を活かす上で採用し得る戦術やルールも大体予測してたし、戦場が学校だと確定した時点で上級生と新入生の3人一組になるとは確信してたっぽい。 で、後はそうでなかった時の保険もアレコレ考えてたみたいだけど、その辺は本人に聞かないと」

「では、最初にポイント制の勝負を持ちかけて来たのは?」

「なんか旗の取り合いが一般的らしいって知識はあったみたい。 んで、そのノウハウを活かされると辛いっていうのと、総員突撃されたらどうしようもないからって言う理由でそのルールだけは避けたかったって。 あと、3日後って宣言させたのは準備期間を確保するためだとか」


 ついでにシステムやルールの穴、たとえばアーリーから参加者がどれだけ離れても大丈夫なのかなんてのをチェックする為の期間でもあったらしいが。

 本当にこういう隙間を突くような胡散臭いものへの嗅覚は人並み外れている。

 ……と、ここまで聞き終えたミリ子さんからのリアクションがない。

 何を言えば良いのか分からないといったところだろうか。


「……なるほどな。 私たちじゃ勝てない訳だ」


 暫くして感嘆と共に漏れたその言葉が、少しこそばゆかった。

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