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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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34話 おしっこをがまんし過ぎると膀胱炎になる事があるぞ! 健康と矜持を守る為にも一時の恥を恐れるな!

 少し前のインカムへの応答から察するに、現在のKASSの戦力は残り8名。 生徒会長を含めれば9名だが、連携から外された素人を頭数に加える必要はないだろう。

 対する本橋先生のチームの戦力は彼女と1年の男子生徒の残り2名。 数の上では圧倒的に優勢だが、この勝負はフラッグを取れば勝ちという訳ではない。

 制限時間が来るまでに相手チームを殲滅するか、得点で相手に勝つか。

 こちらの得点は現在4点で、あちらの得点は現在6点。 見掛け上の優位に惑わされそうになるが実際のところはこっちが2点負けている。

 そしてこのだだっ広い校舎。 時間はまだまだたっぷりと残されているが、あまり悠長に事を構えていると逃げに徹されて厄介なことになるだろう。

 8人全員で分散してしらみ潰しに探して行くか?

 ……いくらなんでもこれは無い。待ち伏せや不意討ちに遭った時に何も出来ない。

 一旦、集合して索敵の得意なメンバーと射撃の上手いメンバーのセルを編成し直すか?

 仕切り直し、と言う意味も兼ねて恐らくこれが妥当だろう。


「よし、一度集合して編成・作戦を練り直そう」

『集合場所はどうします、先生?』

「2階の廊下突き当たりの教室。 2年6組の教室で落ち合おう」

『了解』


 最後の了解の返答は5つ。 2年生の声が1つに、1年生の声が4つ。

 生徒会長の返事は当然ながら聞こえなかった。

 僕のチームは数分前に副会長と交戦して僕一人になってしまっている。

 つまり、この短時間で既に2名やられた計算になる訳か……。


「彼女たちは本当に素人なのか……なっ!?」


 状況を分析して思わず独りごちった瞬間、ゴーグルにYOU LOSEの文字が映し出された。

 とっさに辺りを見回す。 が、人の影なんて敵も味方も何処にも見当たらない。

 ふと、作戦会議の段階で聞いた会長の話を思い出して、廊下の窓へと駆け寄る。

 そこには教室棟の向かい、美術室などの科目別の教室が並ぶ棟の1階上で例の1年生男子が僕に背を向けていた。

 どうやら彼はあの距離、あの角度から僕を発砲してみせたらしい。

 一体どんな訓練を積めばあれほどの腕前になると言うのか。 一体どんな観察眼を持っていればあそこから僕を捕捉できると言うのか。

 あまりにも不条理な展開。 しかし、今はそれにどうこう言っても仕方がない。


「まったく、KASS初代メンバーとして後輩たちに顔向けできないな」


 誰に言うでもなくそう呟いてから、生徒会室へと足を向けた。




― ― ― ― ―




「ふぅん、どう見てもチートやな」


 ウチ、西条 九は普段は生徒立ち入り禁止の警備室から防犯カメラの映像を眺めながら呟いた。

 文字通りの意味でも、ものの喩えという意味でもチート。

 それが、あの1年坊主を中心としたチームについて語る上で最も適した言葉だろう。


 まず、ウチの可愛いうめちゃん。 あの子の身体能力は正真正銘、一部の隙も無くチート以外の何者でもない。

 それに何と言ってもあの二つの神々しいお山。 特に夏場の水辺でのその反則加減と来たら……おっと、思い出しただけでヨダレが。

 続いて新任の女教師。 KASSの連中がウチに反旗を翻して二人組で行動し始めた後、予め預かっておいた警備室の鍵を手にこの部屋にやってきた私が目の当たりにしたあの動き。

 特別大げさな動きをしていた訳ではない。 が、身をかがめて完璧に気配を殺し、KASSのメンバーが近付いてきた瞬間に躍り出て瞬時に2発。 うめちゃんとはまた違った意味でとんでもなかった。

 それに羽原 秋一も拳銃で数十メートル離れた相手への狙撃を平然と決めてしまった。

 しかし、何よりも問題なのは……

 上の階からの急降下(これはリアルタイムで見た訳ではないが)、待ち伏せ、拳銃での狙撃。 どれもある程度相手の動きを把握しておかなければ成立しない戦術であるということだろう。

 狙撃と待ち伏せの二つはまだ運が良ければ有り得るかも知れない。 が、急降下に関してはよほどのアホでなければ意味も無く、何の確信も無く出来るものではない。 と言うよりも、普通の人間にはそもそも真似出来ない芸当。

 北里 千里の前科なんかも踏まえて考えれば、全員の位置を把握出来るようなチートを準備していても何らおかしくはない。

 確証はないが、このままではまともにKASSが勝つとも私の力で勝てるとも思えない。

 あわよくば一人くらい道連れにしてくれればもうけものか。


「どうせやられるんやったら、カメラの前でやられてや……」


 警備室の一角にアーリーを置き、そこから数メートル離れた対角に腰を下ろす。

 どんなシステムで位置を把握しているのかは漠然と想像出来る程度だ。

 が、長時間の待ち伏せ禁止ルールがある以上、サバゲーアプリに参加者の位置を把握する手段が内包されているのは間違いない。

 よって、室内のどこにいるかを把握した状態で突入する場合、視線は否応なくその居る筈の場所に向けられる。

 ――その隙を穿てば勝算はある。

 もちろん、離れ過ぎてゴーグルや銃が機能しないなんて状況には陥らない範囲で。

 いざという時の為の手段として、その距離は既に把握している。

 ついでに言うと待ち伏せ時間超過になるまでのリミットも、移動したと見做される距離もきっちりと押えている。

 このままでは得点で負けるから、いずれは動かざるを得ないだろう。

 しかし、そのいずれは今ではない。

 今は精々KASSの健闘を祈りながら、相手の行動を戦術を読み切るのが先決。


「……おっ」


 そう言い聞かせながら腕時計を確認した直後、戦局が動いた。

 新任教師をターゲットにした2チームの挟撃。 3人のチームが的確に逃げ道を潰しながら、彼女を誘導し、もう一方のチームが上手く回り込んだらしい。

 インカムで密に連絡を取りながらの、連携の取れたチームならではの立ち回り。

 もっとも、どんなやり取りがあったかなんてとっくの前にインカムを外してたウチには知る由もないことだけど。

 流石の彼女も逃げ道のない通路で5人に挟まれてはどうしようもなかった。

 それでも曲がり角から躍り出て来た3人チームの一人を即座に撃ち、続いて同時に飛び出した2人の一方を仕留めつつ、跳躍。 更に壁を蹴って天井付近でバック転を決め、そんな体勢での曲撃ちで2人組の一方を撃破。

 一撃で決着がつくこの状況で、着地する寸前を狙われて被弾するまでの一瞬の攻防で、3人を道連れにしてのけた。

 いや、彼女の成果はそれだけではなかった。

 見ればゴーグルを外しているKASSのメンバーは5人中4人。 しかし、彼女が最後の1人の生徒に銃口を向けたようには見えなかった。


「あ、味方の流れ弾か」


 向かい合う格好で相手を挟んで撃てば、当然そういった事態も起こり得る。

 そして、新任教師がゴーグルを外した直後、KASS最後の1人ががっくりとうなだれた。

 慌てて別の場所のカメラが捉えた映像に目を向けると、羽原 秋一が銃を構えている。

 またしても別の棟からの狙撃だった。


「……っち、使えん奴らやな」


 思わず毒づいてはみたものの、考えようによっては好都合かも知れない。

 見方によっては、ウチの手で羽原 秋一を仕留める舞台が完成したも同然なんだから。

 あいつが再び動き出してカメラの視野の外へ出ていったのを確認してから、対決に備えて一旦アーリーを移動させ、待ち伏せカウントをリセット。

 アーリーから改めて距離を取って警備室唯一の入り口に銃口を向けたまま、防犯カメラの映像をちらりと伺う。

 その足取りは間違いなく、何の迷いも無く警備室を目指している。

 何かしらの方法でこちらの位置を把握しているという推測は間違いなかったようだ。

 それから、羽原 秋一が警備室に一番近い階段に近づいてきたところでもう一度アーリーを移動させてカウントをリセット。 その作業を終えて適当な所にポジショニングした時にはあいつは階段を下り終えていた。


「くくくっ、あいつの吼え面が楽しみやなぁ……」


 当然のように迷うことなく警備室へと歩いて来る。 いつでも発砲できるように銃は構えたままだ。

 下手に飛び出して行ったところでドアを開けるひと手間のせいでアドバンテージは取れそうにない。

 これならあっちが仕掛けて来るのを待った方が賢明だろう。

 こちらの位置を把握出来るのなら時間切れまで逃げ回るのも有効な選択肢。 が、ここまで歩いて来ているのを見るとその意思はないらしい。

 当然だ。 何せタイムリミットは午後5時50分。 最終下校時間に合わせて設定されているのだから。

 あと4時間近くもの暇を潰そうなんて選択肢は避けて通りたくなるのが人情。

 だからこそ、ウチはあいつがドアを開けるその瞬間を息をひそめて待つだけで良い。

 もう一度、防犯カメラの映像を見る。 羽原 秋一はもうドアのすぐ近くまで迫っていた。


「さ、かかってきいや」


 銃を構え直し、ドアを睨む。 学校の設備ではあるもののこの部屋のドアは引き戸ではなく、レバー式ドアノブの開き戸になっている。

 部屋の外に誰かいたら危ないので入る時は押して、出るときは引いて開ける形になる。

 ドアノブが下りた瞬間、あいつはウチに撃たれて蜂の巣。

 その瞬間を脳裏に浮かべつつ、じっと目を凝らしてその一点へと意識を集中させた。


「…………」


 が、いつになってもあいつは部屋に踏み込んで来ない。

 不審に思い、横目で防犯カメラの映像を見やると、羽原 秋一はドアノブにビニール紐を引っかけ、その向かいの、全開になった廊下の窓の枠にそれを括りつけていた。


「……あ」


 先述の通り、この部屋のドアは開き戸で、部屋から出るときは引いて開ける形になっている。

 では、彼がやっているようにドアノブと窓枠を括り、間を紐で繋いだらどうなるか?

 ましてや、その紐がピンと張っていたらどうなるのか?

 見たところ、ビニール紐は力任せに引っ張ってちぎれる程度の量ではなさそうだ。


「アカン、出られへんようになってまう!?」


 その結論に至った時には時すでに遅し。

 作業を終えた羽原 秋一は防犯カメラの方へと振り向いて、満面の笑みを浮かべた。


「そういや会長、知ってます? 人間は1日に平均7回くらい自然の欲求を満たすらしいですよ。 睡眠時間を8時間と仮定して、16時間で7回。 まあ、寝起きと寝る前に1回ずつ済ませるとして16時間で5回っつーと3時間12分に1回ってところですかね?」

「んなっ、それって……!?」

「って昨日図書室で借りた本に書いてました。 せっかくなんで今のうちに返すついでに残り4時間余りで読めそうな本を見繕ってきますんで、せいぜい頑張ってください」

「ちょ、ちょっと待ってやあああああああああああ!!?」


 ウチの絶叫に応じるように羽原 秋一はさっきの満面の笑みを上回るような極上のスマイルを浮かべ、カメラに向かってサムズアップした。

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