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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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33話 サブカルにありがちな絶大な権力を誇る生徒会。あれって絶対に会長の座を巡って血で血を洗う抗争が繰り広げられると思うんだ!一番強い奴が会長だなんて、まるで世紀末!!

「おっ、おつかれさーん」


 生徒会室へとやってきた相手チームの2年生女子――私たちの間ではミリ子さんと呼ばれている――に手を振る。

 ミリ子さんはイケメンなスマイルを浮かべつつ、「やあ」と私の挨拶に応じてくれた。

 一方、彼女の後ろを歩く1年生二人は私に対して妙な警戒心を抱いているように見える。


「坂田副会長にしてやられたよ。 まさか、あそこまでの人だったとは……」

「うん、凄いよな。 スクーターを片手で振り回したり」

「は? 今、何と言った?」

「いや、だからスクーターを片手で振り回したり」

「はっはっは、そんな人間がいる訳……ないよな?」


 ミリ子さんは片頬を微妙に引きつらせ、私から目を逸らした。


「と、ところで……中野さんはどうしたんだ?」

「ああ、不貞寝してるだけなんで気にしなくておk」

「そうか」


 ミリ子さんは他の二人の分も椅子を引っ張り出してから着席する。

 こういうのも失礼かも知れなしけど、意外と気の利く人らしい。


「確かにこのルールのせいで何も出来ずに退場では不貞寝したくもなるだろうな」

「ルールのせいで、か。 でも、このルールはそっちで決めた事だよな?」


 若干非難交じりの口調でそう尋ねたのは今宮 新くん。

 相手のルールをいかに逆手に取るかと言う方向に全力を傾ける秋一のようなタイプでもない限り、誰でもそう考えるだろう。

 それくらい彼の言い分は至極もっともなものだ。

 その事実はミリ子さんやKASSの1年生達も認識しているらしく、やや気まずそうに彼の様子を横目で伺っている。


「全くだ。 部室や部費、学校の公認……そんなものに目が眩んでしまった」


 誰に言うでもなく、ミリ子さんはそんな言葉を口にした。

 でも、私はその言い分がちょっと気に入らない。 そう思う理由はきっと……


「会長にたぶらかされました、みたいな言い方だからだな」

「……ぐうの音も出ないな」


 まあ、気持ちは分からなくも無いんだけど。

 彼女たちのARサバゲにかける情熱は間違いなく本物だろうし。

 部室をかけて争っている私達の動機が「私物化出来るスペースが学校内にあるとか素敵やん」なんてアホみたいなものだと知ったら烈火の如く怒り出すんじゃなかろうか?

 そういう意味では私も偉そうに人に説教を出来る立場じゃない気はしなくもない。


「……まあ、そんな嫌味を今更言っても仕方ないんだが。 と言う訳で、ミリ子さん宛てに秋一からの伝言があるんだけど、聞いてみる?」


 脳裏をよぎる自他に対する突っ込みを意識の片隅に追いやりつつ、本題を切り出す。


「伝言? それも私宛てに?」

「うんむ、どうするよ?」

「せっかくだ、聞かせてもらおうか」


 ミリ子さんは両手を膝の上において、姿勢を正した。


「えーっと、『実はこの勝負までに部室棟を回って色々交渉してみたんだが、文芸部が3年生の部員一人だけ、つまり同好会としての存続すら不可能。 その3年生と話をしてみたところ、彼女は部の存在にはさほど頓着していない様子だった。 おそらく、本さえ読めれば特に文句はないってところだろう』ってのがまず一つ」

「つまり、勝とうが負けようが部室は確保出来る、と言うことか」

「そゆこと」

「と言うことは、この勝負の結果なんて関係なくどちらも創部出来るんだな」


 彼女は安堵のため息と笑みをこぼす。

 ただ競技としてやるのとは違う、勝利とは別の報酬が用意された戦い。

 普段、あまり経験する事のないであろうその状況に、彼女なりにプレッシャーを感じていたみたいだ。


「それがそうでもないんだな。 ほれ、これ見てみ?」


 ミリ子さんにあるメールを見せる。 メールの日付は昨日の20時03分。

 送り主は生徒会長。 メールのタイトルは『せっかくだから』となっている。

 タイトルを見た瞬間に秋一はコンバットなんちゃらとか言っていたが私には意味不明。


「……この内容は」


 ミリ子さんに見せたメールの内容は、生徒会長と秋一のやり取りの内容を読み上げる


「明日、ついに生徒会長と愉快な仲間達によるスーパーぼこぼこタイムが始まる訳やけど、ただ部室をかけて~じゃつまらんし、先生らを説得して回ったウチの手間に合わん。

 そこでや、勝ったらアンタらは今後創部も乗っ取りもせえへんって言うのはどうやろ?

 まあ、口約束なんて意味あらへんから、生徒会で庶務として働いてもらう。

 KASSの皆は部室と部活を得られる。

 ウチは労働力と(ラヴ)

 アンタらはウチの指導のもとで健全に成長できる。

 何て素敵な三方一両得やろなぁ! 負けたあんたらの将来まで考えたってんねんから。

 もうあれやな、アンタらはウチらの事を女神と崇め奉るべきやな!」


 と言っても、ミリ子さんはそれを読んでいるのだから音読する必要はないのだけれど。


「どうよ?」

「まず、文面が全体的にウザい。 それに、私たちの知らないところでこんな話を勝手に進めていたとは……」

「で、こっちが秋一の返信」


「きゃー、流石は雌神(めがみ)様! ちょーやさしい!

 ……で、そうなると当然こっちが勝った場合も相応の報酬を期待して良いんだよな?

 事前のリサーチによると明らかに廃部になりそうな部が一つ。

 雌神様が何をしなければどっちの部も創部を認められる状況になる訳だ。

 そこで、だ。 こっちが勝った暁には、KASSと俺達、双方の部活を認める事。

 もしもその部が廃部を回避した場合はKASSに部室を譲り、俺達の活動を生徒会で行う。

 最後に会長は俺達の部に入部すること。 多分、うめ先輩も喜ぶ。

 双方の部活を認めるのが嫌なら、適当な部を乗っ取る。

 会長が入部を拒否するなら庶務云々はお断り。 等価交換ってことでこんなもんだろ」


 これまた音読。 ミリ子さんは以下略。


「と、こんな感じ」

「部室を私達に譲っても良いのか?」

「会長に嫌がらせすることに目的がシフトしてしまったと思われ」

「いい性格をしているな……」


 ミリ子さんは呆れた風に苦い笑みを浮かべた。


「で、こっからが本題。 私はアーリーのプログラミングが得意なんだけど、その技術を活かして私のアーリーの中に入ってるアプリにちょっとした細工をしておいた」

「細工?」

「うんむ。 で、その細工っていうのはインカム関係のものなんだが、私が被弾した後でKASS2年生組のアーリーが一定範囲以内に近付いて来る事を条件にして、両軍の被弾していないメンバーに向けて私のインカムが拾った音声が送信されるってものなんだ。 ちなみに、アーリーの識別はIDでやってる」

「随分器用な真似が出来るんだな。 しかし、2年生と言うことは……」

「そゆこと。 ここでのやり取りは全部発信されていましたー」


 にっと会心の笑みを浮かべてみせた。

 頭の中では思惑がうまく行った時の秋一のそれをイメージしていたりする。


「と言う塩梅で、勝っても負けても部は公認される訳だが、このまま惰性でKASSのプライドを踏み躙った会長に味方するん?」

「会長に吼え面をかかせる最善の選択肢は会長を撃ってから全員が自殺だろうな。 しかし、それは一度始まってしまったゲームに対して失礼だ」

「と言う訳で、秋一からの伝言その2」


 私の超改造アーリーを長テーブルの上に置き、予め録音しておいた音声を再生する。


『アンタ達が人数の利を活かす為に3人くらいのチーム単位で動くことは予想済み。 小賢しくても会長は素人だ。 そんな奴の戦術に身を委ねて敗れるのがアンタらのプライドってやつなのか?』

「……好き勝手言ってくれる。 こっちもこんな変則戦の経験はないんだぞ?」

「で、どうするん?」

「そんなもの、決まっているだろう」


 ミリ子さんはお返しとばかりに会心の笑顔で、威勢良く叫んだ。


「――身の程知らずの生意気な一年坊主に私たちの本気を見せてやれ!!」


 その号令からわずか170秒後。

 KASSの1年生二人と副会長が生徒会室へとやってきた。

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