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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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32話 セーラー服と云々というタイトルをつけようと意気揚々としていた所に、制服はブレザー設定だったという現実をつきつけられて絶望した

 ARサバイバルゲーム。

 ARシューティングから発展した、文字通りAR技術を利用したサバイバルゲームを指す。

 再現度はものによってマチマチで、アーリー本体だけで成立する子ども向けのものから、専用のゴーグル、モデルガン型コントローラーを利用しての本格的な野戦を再現するものまで多種多様な層に向けたソフト、アプリが販売されている。

 中にはARによって街の中に仮想のエネミー(人間に限らず、ロボットや怪物も可)を表示し、それらと交戦する事でシングルプレイを可能にするゲームや、銃ではなく魔法の杖などを武器にしたファンタジー風サバゲーなるものを可能にするものも存在するらしい。

 また、フラッグ戦から殲滅戦、バトルロイヤルに至るまでの多彩なルール、ヒット判定の自動申告の有無、ゾンビが出来る環境の設定、情報の共有度合い……サバイバルゲームをする上で必要になる情報の管理をアーリーに任せる事も、あるいはあえてアナログな方法を選ぶ事も可能。

 それが私達が魅了されてやまないARサバイバルシューティングという競技の概要だ。


 土曜日。 一昔前は休日だったが今では4時間程度の授業が行われている。

 開戦は授業が終了し、生徒達が部活に、或いは家路にと各々の午後を満喫し始めるであろう1300。

 彼我戦力差はゆうに3倍以上。 こちらはそれなりに経験がある上にある程度連携も取れた13人と、少なくとも邪魔にはならない程度に動ける若い男性教師。 この学校に赴任して来て4年になる為、校内の構造はきっちり把握しており、地の利を活かした戦いを出来る人だ。

 そして、生徒会長。 実力に関しては何とも言い難いが、決して足手まといになる人ではない。 いや、今回のゲームに当たっての方針・戦術を纏めたのは実質彼女であり、既に十分過ぎるほどに役割を果たしていると言っても過言ではない。

 彼女の立てた戦術はこうだ。


 ・松葉杖の子(中野 夏芽と言うらしい)はルールで殺す。

 今回使用するアプリには待ち伏せや逃げに徹するプレイングを禁止するルールがデフォルトで設定されている。 これを利用して機動力のない彼女が待ち伏せや奇襲で戦果を挙げるのを阻止。

 個人的にはそういうのも一つの戦い方だと考えているので気は進まなかったが、KASSの活動を学校に認めてもらう為だ。 仕方のないものと思い妥協した。


 ・基本的に3人一組で行動する。

 これは要するに連携を取り易さに加えて、1年生が校舎の構造を把握していないであろう事から、単独行動を赦すと妙な奇襲を喰らう可能性がある為、それを避けるために3人の2年生と顧問、生徒会長をナビゲーターに付けるというものだった。

 これに関しては何らおかしな所も、納得のいかない点も無いのですんなりと纏まった。

 班の編成に関しては各自の適性や能力を判断した上で、私が行った。


 ・報告や連絡はまめに行う。

 当たり前と言えば当たり前の話なのだが、それ以上に会長の資質を十全に活かすという意味合いが強い。

 どうやら彼女は校内の構造を完璧に把握しているらしく、事前の予行演習ではあらゆる場所で襲撃を受け一人が倒されたという想定の下で他の舞台にフォローに向かう際の指示、奇襲がありそうな場所を瞬時に判断し、端的に指摘するという芸当を披露してみせた。

 武器の取り回しは器用な素人といった程度だったが、これなら十分役に立つ。


 ・使用する武器は拳銃のみとする。

 これはゲームに使用する分の道具を調達する上でのコストの問題によるところが大きかったのだが、同時に遠距離からの狙撃なんかを封じる事で戦術の幅を狭め、数の有利を活かしやすい環境をこしらえるのにも一役買っている。

 また、手榴弾やトラップなどのARを利用して再現される特殊武器の使用も禁止という事になっているので、高度な戦術を封印する効果もある。

 ちなみに、当然だが打撃攻撃や投げ技なんかも一切禁止だ。


 ・羽原 秋一はなるべく最後に狙う。

 確かに10ポイントという極端な点数は魅力ではある。 しかし、その提案を行ったのが彼自身である以上、必ず何かしらの策を用意していると見て間違いないらしい。

 私も会長の認識には同意した。 あからさまにこちらのプライドに泥をかけて勝負へと持ち込も追うとする態度やらを見る限り、曲者なのはまず間違いない。

 そして何よりも、この戦術に同意した一番の理由は会長に見せられた一枚の写真だった。

 拳銃を構え、遠方を静かに見据える横顔。

 信じがたい話だが、彼は今ちょっとした噂になっている3月の事件の関係者で、目撃者の証言によると30メートル程の遠方からの拳銃による射撃を成功させたらしい。

 その事件に関しては不明な所が多く、というか有名なわりに警察が全くと言って良いほど動いていない、ニュースにもならなかったという不審極まりないもの。

 果たしてそんな訳のわからない情報を信じて良いものか悩むところではあるが、彼が妙な切り札を隠し持っていそうな相手である事は間違いない。

 他をなるべく早めに潰して、最後に数で押し潰せ。 それが会長の指示だった。


 最初は何もかもが怖いほどに上手く行った。

 松葉杖の一年生は開戦4分で発見され、即座に撃たれてゲームから離脱。 ツインテールの小柄な女の子も一人として道連れにする事も出来ずに戦線離脱。

 もう一人の男子はもともとあまり乗り気でなかったこともあってか、こっちの1年一人と相討ちになり、ゲームを終えた。

 この間、わずか13分。 広大な校舎を舞台にした戦いにしてはあまりにも早い展開だった。


「やっぱり素人集団っすね、ぬる過ぎる」

「油断するな。 少なくとも坂田副会長はかなり手強い」

「そうなんすか?」

「ああ、彼女は帰宅部だがその身体能力はあらゆる面において各部のエースに匹敵する」

「へー、そりゃすげえや」


 口ではそう言っているものの、とても言葉通りの態度には見えない。

 まあ、身体能力があれば勝てると言うものでもない以上、その反応は致し方ないところなのだろうが。 何より、彼女は入学式の時に「怪我で来られない」と言われていたんだ。

 本来ならば中野 夏芽同様にルールで封殺されてもおかしくないはずなのだから。

 しかし、今のところ彼女を討ち取ったという情報は無い。

 同様に、こちらのメンバーが他に撃たれたという報告もなく、双方の戦力はAR部が残り3名、こちらが14名のまま10分近くが経過している。


「それに私の前で相手を侮る発言は止めてくれ。 礼儀に反するような態度は嫌いだ」

「あ、はい、すいません……」


 その言葉でようやく彼は自分の態度を改めた。

 もっとも、それは対戦者に対する無礼を自覚したと言うよりは、私に叱られるのが嫌と言ったところだろうが。

 こういう意識を根本的に改めるのは難しいものだ。 いずれ分かってくれると信じて何度も注意するしかないだろう。

 ――そんな事を考えていた刹那。

 廊下の窓から突然顔を出した坂田うめに発砲された。 いや、違う。 正しくは上の階から落ちて来て、窓枠に捕まった彼女に撃たれた。

 信じがたい事に彼女は片手で拳銃を構えたまま、自身の落下エネルギーを片手でやすやすと支え、あまつさえ足場も無い場所で腕力だけで廊下へと自身の身体を戻してみせた。

 そして、着地と同時に動揺する1年生2人を撃った。

 10秒、いや5秒にも満たない間に私の率いるチームは全滅。

 その容赦ない現実をゴーグルに映し出されたYOU LOSEの文字がこれでもかと突きつけてくれる。


「運動神経が良いとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかった」

「……うん」


 今の彼女の出で立ちはゴーグル越しにはゴーグル&インカム・ヘッドセット、迷彩服とデザートイーグルという出で立ちをしている。

 しかし、ゴーグルを外すとゴーグルとインカムはそのままだが、九尾高の制服で腰に巻いたホルダーにアーリーぶら下げ、をなにやらおもちゃのような銃の形をした白い何かを握っているようにしか見えない。

 全くの余談だが、相手の服装の見え方に関しては統一しなくてもゲームとして成立するので、人によって見え方が異なっていたりする。

 参加者全員が装着しているゴーグルにはアーリーのARを表示する機能があり、これによって服装、武器はおろか戦場までも思うがままに再現できる。

 もっとも、戦場に関してはフリーのアプリの処理能力では辛いものがある他、学校という起伏に富んだ地形に妙な景色を重ね合わせるのは危険という理由でオフになっているが。


「……撃たれた人は、生徒会室」

「分かっているさ。 ……敵の私が言うのもなんだが、健闘を祈るよ」


 ゴーグルを外し、銃をアーリーの取りつけられたホルダーに引っかけ、インカムセットを外した私は、生徒会室へ向けて歩き出した。 後輩たちを納得行かないと言った風な表情のまま私の後を追いかけて来る。


「あんなのアリなんすか?」

「ルール上無しとは明記されていないな」

「むー、だとしてもやっぱり納得行かないですよ、俺!」


 確かにそう言いたくなる気持ちは分からなくもない。

 あまりにも手応えのない展開。 そこから人間の常識を越えた奇襲。

 それらに翻弄されて結局は何も出来ない内にやられてしまったのだから。

 これではただ校内を散歩しただけといっても過言ではない。


「それでも、撃たれた事に変わりない。 仲間に何の連絡を取る事も出来ずに、な」

「「はぁ……」」


 ようやく諦めた1年二人が深いため息を漏らした。


「帰りに何かおごってやるから、それで気を取り直してくれ」

「「先輩ッ! ごちになりますっ!!」」


 ……全く、現金な後輩たちだ。

 そんな二人の様子に、思わずため息の混じった苦笑がこぼれた。

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