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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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31話 金髪は劣性遺伝だとか、軍人なのに隻眼って色々不味くないとか野暮な突っ込みは多々あるが、そんなものはロマンの3文字で一蹴してしまえ!

「はっはっは! 羽原 秋一、敗れたり!!」


 驚きの後に訪れた妙な沈黙を引き裂いた威勢の良い声の主はどこからか舞い戻って来た生徒会長、もとい西条 九。

 物凄く得意気な表情を浮かべてふんぞり返り、やや顎を突き出し、左の頬に右手の甲をひっつけた典型的な女王様のポーズ(?)で俺を睨んでいる。 多分、彼女なりに見下ろそうとしているのだろうが、いかんせん身長差があるのでかの有名なプロレスラーの真似でもやろうとしているかのように見えなくもない。


「出たな、面白会長」

「面白とか言うな!? くっくっく、なあ、羽原くぅん? 部員は4人しかおらへん気がするんやけど?」

「ああ、それなら大丈夫。 一人は今ここにいないだけだから」


 カバンから昨日の内に先輩から預かっておいた創部手続きに必要な書類を取り出す。

 横長のマスが20個ほどずらりと並んだわら半紙。 その一番上の欄に間違いなく今ここにいない男子生徒の、今宮 新という名前が書き込まれている。


「ほっほう、流石はウチの宿敵(とも)やね。 そう言うところの根回しは抜かりない……でもなぁ、ウチのうめちゃんがアンタなんかに手を貸すはずあらへんやろ!」


 相変わらず女王様のポーズに加えて手近な椅子に右足を乗せ、もう一つの意味でも女王様のポーズをとった生徒会長の双眸と口が弓なりに歪む。 実に厭らしくて酷い表情だ。

 でも、正直こういう(ひと)、大好物です。

 得意気な会長から視線を外し、うめ先輩を見る。

 ちょうど彼女も俺の方を振り向いており、見事に目が合った。


「……えっと」

「先輩! お願いします!」


 先輩の言葉を遮りつつ、テーブルの上に置かれていた彼女の手を両手で包み込むように握り、俺と彼女のちょうど中間辺りの、胸の高さまで持ってくる。

 抵抗されればその弾みで入り口まで放り投げられそうなものではあるが、幸いにもそんな事はなかった。

 その一方で、俺が先輩の手を撮った瞬間に生徒会長は女王様のポーズを止めて両手を堅く握って身を乗り出し、夏芽と千里も思わずといった様子で椅子から少し腰を浮かせた。

 本橋さんは腕を組んで生徒会室の壁にもたれかかったまま「この子、結構なクズだわ」とでも言わんばかりの若干非難がましいジト目を向けている。


「ふ、ふんっ、そんな安っぽい手口で……」

「俺、先輩と一緒に部活がしたいんです」

「……うん、良いよ」


 うめ先輩は俺のお願いに快く応じてくれた。


「ね、ねねねね……寝取られたああああああああああああああ!?」

「学校でなんつう雄叫びを上げるんだ、この負け犬会長は」

「く、くぅ、くくくっ……しゃーない。 こうなったら奥の手や……」


 頭を抱えての慟哭から、即座に立ち直った会長は邪悪な、しかしかなり悔しそうな表情で嗤う。 笑うではなく嗤うが正解。


「なあ、羽原くぅん……知っとるか? この学校には部室棟があってなぁ、最大50の部にそれぞれの専用の部室が用意されてるんや」

「だってさ、良かったな千里」

「まあまあ、話は最後まで聞けぃ。 で、その代わり放課後に部活の為に教室を開放ってのは美術室とか、音楽室なんかを除いて基本的にできひん訳よ。 そういう部屋を使う部活も部室はあくまでも部室棟やしな」

「つまり、部活として正式に認可するには部室が不可欠だが空きがない……と?」


 話の流れから言いたい事を察して先回り。


「そう言うこっちゃ」

「……一つだけ、空きがあったはず」

「実はほんの数分前に埋まってもうてん。 せやから最後の一室はもう彼らのもんやねん!」


 生徒会長がばっと腕を広げて廊下の方を指差す。

 すると、その合図を待っていたかのように10人以上の男女がずらりと現れた。


「「私たちは!」」

「「九尾高!」」

「「拡張現実型!」」

「「サバイバル!」」

「「シューターズ!」」

「「通称、KASS(カッス)だ!!」」


 きちんと数えてみると総数13名。 その内3人が2年生で、残りの10人は全員1年生のようだ。 2人だけ俺と同じクラスの生徒の顔もある。 が、名前は覚えていない。


「家で野球でも見てろよ」

「な○J民じゃねえから!?」


 良い突っ込みだ。 サバゲーなんてやめて漫才でも始めればいい。

 と言うか、よくもまあこんな中途半端なネタを拾えたもんだ。

 彼らに背中を向け、両手に腰を当てた生徒会長は改めて盛大にふんぞり返る。


「ここにはおらんけど、顧問の先生もちゃんとおるで」

「そうか……じゃあ勝負しようか」

「はあ? 何を訳の分からん事を……」

「一つ目、今のままだと廃部になりそうな部活は無いか? 二つ目、いざとなれば過疎部を乗っ取るって手もある。 廃部寸前の部活なんかなら存続の為の妥協案として受け入れてくれるだろうな。 唯一の部員が押しの弱そうな女の子だったりしたら勝ったも同然。 で、三つ目。 これが会長にとっては一番重要だと思うんだが、俺らの申請している部の活動はそもそも部室なんか無くても問題ない。 ARさえあれば誰かの家に集まったって良い訳だ……たとえばそう、羊羹で食べながら、な」

「!!?」


 生徒会長の眼がくわっと大きく見開かれ、それから悔しそうに歯ぎしりをしながら俺を睨みつける。 なまじ美人なだけに結構な迫力だ。


「こンの、外道がぁ……」

「で、唯一の部室をかけて、正々堂々勝負をしたいんですが……どうします? 勝負の内容はARサバゲー、双方顧問を含めた部員全員で。 なんなら会長がそっちに加わってくれても結構ですよ?」


 握った拳をわなわなと震わせる会長。

 その後ろでKASSのメンバーの大半もぎらぎらした闘志を剥き出しにしている。

 今ここにいない新を除けば男は俺だけで、しかも二人は病み上がり。 そんな輩に自分達の土俵で勝負してやるなんて言われれば腹も立つのは当然だろう。


「ルール次第やな」

「全滅、とか言うとこっちが不利にも程があるから、ひとり1ポイントで制限時間内により多くのポイントを取ったチームが勝ち、でどうかな?」

「時間内に全滅した場合は?」

「あくまでポイント」

「アホ抜かせ。 そっちが6点取ったら詰みやないか」


 勢いで安請け合いしてくれるかと思ったが。

 どうやら、自分に何のメリットもない交渉に乗るほど迂闊ではないようだ。

 ついでに言うと思っていた以上に切り替えが早い。


「それなら俺だけ10ポイントで。 これならこっちが全滅しても15ポイント、そっちが全滅しても15ポイントで公平だろ?」

「と言う事やけど、どない?」

「別に構わない……と言いたい所だけど、場所とルール次第じゃ君が逃げに徹するだけで圧倒的にそっちが有利になる可能性があるから、ある程度はルールで縛らせてもらってもいいかな?」


 問いに答えたのはKASS2年生組唯一の女子生徒。

 細身で本橋さん以上に背の高い、ポニーテールがトレードマークの凛々しい人だ。

 女性軍人という肩書きが似合いそうな、ものすごくサバゲ部部員っぽい。

 何故か眼帯を装着しているが、どういう意図によるものなのかよく分からないのであえて突っ込まない。


「こっちは素人だし、詳細はそっちに任せるよ」

「……いいのか? 私たちに有利なルールになるかも知れないぞ?」

「別に構いませんよ。 あんまり無茶するようなら生意気な小学生の遊び相手をするだけですから」


 羊羹に続いて、この台詞にも会長が反応した。

 やっぱり、この人もうめ先輩の家に招待されたことがあるんだな。


「分かった。 どうせなら双方が楽しめるルールを設定させてもらうよ、勝ち負けは別としてね」


 そう言い終えた彼女(名札をつけていない為、名前が分からないので仮にミリ子さんとする)はにっと不敵に笑ってみせた。

 ヤダ、この女性(ひと)、格好良い……。

 会長はそのやり取りを、彼女を鬱陶しそうに横目で眺めている。


「んじゃ、部室争奪戦はARサバゲ、詳細はこっちで決めさせてもらってええな?」

「ゲームの開催日だけはここで宣言してください。 先延ばしにするのは構わないけど、前倒しはなしで」

「……開催日は今日からちょうど3日後が目安。 それでええか?」

「まあ、妥当な線かな」


 ミリ子さんとの会話に割って入ってきた彼女は俺の同意を得るが早いか、金色の髪を翻して生徒会室から去って行った。

 うめ先輩はちょっとだけ名残惜しそうに会長がさっきまでいたその場所を眺めている。


「あんなにあっち有利の条件を呑んで良かったの?」

「あっち有利? まあ、本橋先生がそう思うんなら勝ったも同然ですよ」


 一部始終を壁にもたれかかったまま見守っていた本橋さんの問いに、笑顔でそう答えた。

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