29話 アダルトビデオのタイトルが超ベタベタか人類には早すぎたの両極に振れるのはなぜだろう?
「と言う訳で、本日より本校に赴任する事になった本橋 春日先生だ」
夕飯を食べ終えた後、3人でテレビでも眺めながら時間を潰し、9時頃に千里を家まで送って、翌日の準備を全て終えてから少し早めに就寝。 翌朝、支度を終えた所にちょうど迎えに来た千里と並んで学校へ。
今日のデートに浮かれる新や太郎と駄弁っていたところに、学年主任がやって来て担任が産休に入るので臨時に他の人が来る事になったといういくらなんでも唐突過ぎて無理のある説明を始め、冒頭に至る。
流石にその説明はどうなんだろう。 昨日まで普通に通勤していた女性教諭が突然産休とか、翌日には代理が来ているとか不自然にも程があるだろう……。
「おお、すっげぇ美人」
「スタイルやべぇ」
「お姉さまって呼びたいわ……」
が、そんな事をうだうだ考えているのは俺だけらしく、クラスメイトは概ね好意的な反応を示している。 産休に入った先生ともまだ殆ど付き合いが無い訳だから、こんなものと言えばこんなものなのだろう。
特に男子にしてみれば若くて綺麗な先生であればウェルカムだろう。
女子にも好評なのは少々意外なところではあるが。
一応、緊張しているのかともすれば仏頂面にも見えてしまいそうなくらいの真顔だったが、それはそれで独特の魅力がある。
「はじめまして、本橋 春日と申します。 代理とは言えこうして一つのクラスを担当するのは初めてなので至らない所もあるかとは思いますが、宜しくお願い致します」
と丁寧な自己紹介。 その後、一礼。
こうして見ると本橋さんは物凄く姿勢が良い。
すっ、と美しい動作で顔を上げた彼女は薄く笑みを浮かべた。
「私、本橋先生になら抱かれても良い……」
千里が訳の分からない事を呟いている。
確かに心臓を掴まれたかのような錯覚を覚える笑顔ではあったが、その反応はどうかと思う。
「……っは! 見とれてた」
「夏芽、君もか……」
いや、よくよく教室内を見回してみると、夏芽と千里以外の女子も骨抜きにされていた。
男子の方が比較的冷静。 この人は特性:お姉さまでも所持しているのだろうか?
まあ、確かに昨日と同様に割と地味めのパンツルックかつ、あのスタイル。 『新任女教師 放課後の個人授業』なんてタイトルがビックリするほど似合いそうにない風貌だからこうなるのもある意味必然なのかもしれないが。
「それじゃ、そろそろホームルームを始めるわよ」
ほどほどに盛り上がる男子と惚ける女子が織りなす異様な雰囲気を、彼女は一言で一蹴。
まるで夢から覚めたかのように我に返る女子と静まり返る男子。
学年主任が去った後もホームルームはつつがなく進行し、そして何事も無く終えた。
「それでは一同、きちんと一時間目の準備をしておくように」
クラス名簿と書類を手に取り、教壇から降りた彼女は教室を後にした。
それを追いかけるように教室から飛び出す俺と千里。 夏芽はあの体なので自分の席に腰かけたまま。
特に急ぐ気配も無く廊下を歩いていた彼女に追いついたところで、声をかける。
「本橋さん!」
「あら、羽原くんと千里ちゃん」
「お久しぶりです。 相変わらず踏まれたいおみ足ですね!」
「千里ちゃんは相変わらずキモいわね」
大概な台詞を口走っているが、男前な笑顔を浮かべているので本気でキモいと思っている訳ではなさそうだ。
「来るなら来るって言ってくれれば良かったのに」
「突然のことだったから。 誰かさんはこうなる事を予測してたみたいだけど」
「いやー、冗談で言っただけなのに、不思議な事もあるもんだなー」
「白々しい……」
横目かつ半目で俺をねめつける本橋さん、いやあえて本橋先生と呼ばせて頂こう。
「で、何の用かしら?」
「創部したいんで顧問になってください」
「創部ねぇ……何部?」
「AR部」
「正気?」
目をはっきりと開いて、今度は訝しげな眼差しを向ける。
まあ、この反応が自然かつ妥当かつ当然ではあるが。
「……断っても無駄みたいね」
「千里が私物化出来る部屋が欲しいって不純極まりない動機で言いだしたことなんで別に無理なら無理で諦めるとは思いますけど」
「アナタ達は学校を何だと思っているのよ?」
その突っ込みもごもっとも。
「そもそも、創部には部員が5人必要だった筈だけど?」
「それなら大丈夫です」
「……でしょうね」
本橋さんは俺の顔を見ながら盛大にため息をついた。
それが意図するところは気にしないでおこう。
「それで、上級生のつてはあるの?」
「うめ先輩にお願いする予定です」
「……あの子とはあまり顔を合わせたくないんだけど?」
「生徒会役員なんでいずれどこかで顔合わせする機会が来ると思いますよ。 変に周囲に人がいる時よりも事情を知っている人だけの時に済ませておいた方が良いかと。 その為のセッティングなら喜んで引き受けますけど、どうします?」
にんまりと笑顔を浮かべてそう尋ねると、彼女は頭を抱えて答えた。
「何だか嵌められた気分だわ……」