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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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29話 新任教師というのは新任というところが強調されるので教師としての属性は弱い。5年目、進学&就職ストレートで27,8歳こそ至高だと高らかに宣言したい

 私の名前は本橋 春日。

 趣味はコスプレ。 但し、今日は仕事中なので至って普通のパンツスーツ姿。 髪もセミロングというにはやや長い申し訳程度の茶髪をうなじの辺りで適当に束ねている。

 職業は正義の味方。 というとアホっぽいがこれでも一応は国家公務員だ。


「……という訳で羊羹食って帰ってきました」

「あのねぇ、いくらなんでも無謀過ぎるんじゃないかしら?」


 一見すると至って平凡な一軒家から出て来た羽原くん。

 そのあまりにもあっけらかんとした彼の態度に頭を抱えた。


「彼女がどういう相手か分かってるでしょ?」

「分かってますよ。 だから本橋さんに連絡が入るように仕向けたんです」

「えーっと、それはつまり……夏芽さんや北里さんがアナタの言動を不審に思って大須さんに報告、大須さんが何かしらの予測に基づいて私に連絡を入れて来ると判断したの?」

「ええ。 ちなみに本橋さんが大阪に転勤している可能性は3月21日の時点で予想済みです。 俺や千里の身に何かあった時、顔を知っていてなおかつ女性ってのは本人や家族を警戒させないって意味で大きいですからね」


 最近の高校生って怖い。 彼が異常なだけなのかも知れないけれど。


「で、何か収穫はあった?」

「確証はありませんが彼女の弟と祖母は一般人。 というか、戦った本橋さんが一番よく理解しているとは思いますけど、坂田うめ自身もちゃんとした訓練を受けているってイメージではなさそうです。 捕まえても何も出てこないかと」

「あんな末端、無理に捕まえたりなんかしないわよ。 それで何か出てくるならもっと簡単に事が進んでるわ」


 彼女と同様に、先日の事件で私達に接触を図ってきた大須 冬彦。 新天寺社のセキュリティ業務に携わっていた彼でさえも重要な事は殆ど何も知らされていなかったのだから。

 彼と彼の妹の中野 夏芽を匿う代わりに得た情報の大半は新天寺社の上層部どころか彼の直属の上司にも同僚にも部下にも結び付かなかった。


「まったく、しんどいのに割に合わない仕事ばっかりで嫌になるわ」

「転職します? たとえば……先生とか」

「ガラじゃない。 それに私はまだ21歳よ」

「うそぉ!?」


 あからさまに、というか少々わざとらしく驚いてみせる羽原くん。

 この年の頃の子には化粧した女性の年齢なんて分からないものだろうけど、この反応は流石に少し傷つくなぁ……。


「いくつだと思ってたのかしら?」

「正直に言うとアラサーの可能性すらあると思ってました」

「……泣いて良い?」

「いやぁ、本橋さん大人っぽいんで……」


 そう言われて悪い気はしないが、それでもやっぱりアラサーはなぁ……。


「……まあ良いわ。 それより、あんまり危ない事はしないでね?」

「分かってます。 千里や夏芽を巻き込みかねないですし」

「それに、あなた自身の身にも何があるか分からないんだから」


 そう言うと羽原くんはキツネにつままれたような表情を浮かべた。

 どうやら、自分の事はあまり意識していなかったらしい。

 それから下あごに親指でかきつつ、何やら考えごとを始める。


「確かに俺に何かあると悲しむ人もいるか」

「そういう話じゃないんだけどね……」

「本橋さんが心配してくれているのは分かってますよ」


 と、にっこりと屈託のない笑顔を浮かべる。

 うーん、本当にやり辛いわ、この子。


「……流石に今のはあざと過ぎるわよ?」

「ありゃ、ばれましたか」


 いくらなんでも今の流れはあからさま過ぎた。


「どうせ照れた私に向かって“やっぱりそうでしたか。 優しいんですね”とか言うつもりだったんでしょ?」

「正解。 ここで立ち話ってのもなんですから、続きは歩きながら」


 と、道路の向こう側を指差しながら私の返事も聞かずに歩き出した。

 振り返りもしないのはいささか不自然だ。 やっぱり思惑をあっさり見抜かれたのが悔しくて、それを悟られないようにしている、と言ったところか。

 それにしても、この子は私に気でもあるのかしら? 仮にそうだとしたら、あの二人に恨まれそうだ。


「新天寺社との駆け引きは今のところどうなってるんです?」

「あまり詳しい事は話せないけれど、大した進展はないわ」


 結局、あのRUMIコスの少女――表札を見た限りだと坂田うめと言うらしい――を捕まえ損ね、肝心の大須さんも新天寺社への交渉材料になるような決定的な情報を持っていなかった為に案件26は思うように進展しなかった。

 いや、やっぱり後ろ暗い何かがある。 あの日の出来事はそれだけもそう確信するには十分過ぎる情報だった。 けれど、今やこの国の経済に、流通に企業としては破格の影響力を持つ相手に仕掛けるだけの正義を示せる証拠(もの)がない。


「アレだけ散々な目に遭ったのに何の成果もなしとは……」

「散々な目にも何も勝手に首を突っ込んで、殆ど一人で自己解決かつ自己完結しただけじゃない」

「まあ、確かにその通りですけど」


 羽原くんは相変わらず私に背を向けたまま頬をかく。

 そういう反応は年相応な感じがして少しだけ好感が持てた。

 ああ、この子はあくまでも普通の高校生なんだなと改めて認識させられる。


「……なんにせよ、貴方達の安全は私達が保障するから、もうあの時の事は忘れて平和な青春を送りなさい」

「言われなくてもそのつもりです……っと、妙な気配も無さそうですし、見送りはここまでで大丈夫です」

「駅まで結構歩くわよ?」

「子どもじゃないんですから。 それに本橋さんと並んで歩くのは……何と言うか」


 相変わらず私には背中を向けたまま、さっきとは反対側の頬をかく。


「もしかして、恥ずかしいとか?」

「いや、そういう訳ではないんですけど……とにかく、ここまで送っていただければ十分ですから」

「はいはい、分かったわよ。 それじゃ、さよなら」

「さようなら、本橋先生」


 そう言い残して、手を振りながら羽原くんは去っていった。

 彼の姿が見えなくなったのを確認してから、スマホを取り出して登録してある番号を選択。


『どうした?』

「いえ、ちょっと報告したい事がありまして……」


 電話の向こうの上司に、さっき羽原くんから得た情報を伝える。


『なるほど、世間と言うのは狭いものだな』

「どう致します? 必要とあれば連行しますが……」

『いや、その必要はない。 代わりに春日、お前学校の先生になれ』

「は?」


 何を言っているんだ、このおっさんは?


『おい、上司は敬え』

「電話越しで心を読むのはやめてください、プライバシーの侵害です」

『はぁ……それよりもさっきの話だが、これは命令だ』

「教員免許なんて持ってませんよ?」

『お前だってあのコスプレの子が末端の末端で大した情報なんて持っていないのは理解しているだろう? なら、わざわざその事を連絡してきた理由は何だ? 俺の推論だが、大方あの日関わった子たちへの義理立てだろう、違うか?』


 ものの見事に図星を突かれた。

 直情的な性格ゆえに読まれ易いのは自覚しているが、それでもあまり良い気はしない。


『で、だ。 コスプレの子と例の少年、羽原くんだったか、を同時に見張るのなら最適の職は何だ?』

「大事な事なのでもう一度言いますけど、教員免許なんて持ってませんよ?」

『そんなものいくらでも用意してやるから安心しろ』


 一方的に、力強く言い切った彼はこれまた一方的に通話を切った。

 即座に掛け直してみたものの、電源を切っているらしく繋がる気配はない。


「……何なのよ、このふざけた展開は?」


 気がつけば朱に染まりつつある閑静な住宅地の、広いとは言い難い通り。

 そこで私は一人頭を抱えて盛大に慨嘆した。


 私の名前は本橋 春日。

 趣味はコスプレ。 但し、今日は仕事中なので至って普通のパンツスーツ姿。 髪もセミロングというにはやや長い申し訳程度の茶髪をうなじの辺りで適当に束ねている。

 職業は……高校教師。 九尾高は公立高校だから地方公務員ということになるのだろうか。

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