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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
2章 よし、ここからグダグダ日常・部活ものに舵を切るぜ!
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27話 関西弁は文章にすると案外無個性だから何かと扱いに困る

「……創部には部員5名と顧問が必要。 部員には1名以上の上級生がいること」

「上級生ってのは2年か3年だよな? あと、顧問は校内の教員限定?」


 俺の質問に対して、坂田うめは言葉で返さずにこくりと首を縦に振って答える。


「で、何だこの状況?」

「……創部手続きの説明?」


 大げさに首をひねってみせる俺と目線を合わせるように、彼女は首を傾げた。

 思わず突っ込みそうになったが、千里と夏芽の手前、ぐっとこらえて何とか取り繕う。


「で、その上級生ってのは誰でも良いのか? たとえば生徒会の役員でも?」

「……問題ない」


 ぼそぼそと蚊の鳴くような声量なのに何故か聞き取り易い声で答える坂田うめ。

 もそもそとしか動かない口元はなんだか草を食むげっ歯類のようだ。


「ふぅむ……そういや夏芽。 帰りは電車、バス? それとも歩き?」

「今日は兄さんが迎えに来てくれる」

「仕事辞めてまさかのニート状態かよ……」


 何故か知らないが物悲しさで胸がいっぱいになった。

 家族のために奔走したお兄ちゃんの末路としてはあんまりにもあんまりじゃなかろうか。 その内、妹も家で日長一日ごろごろしている兄の事を疎んじるようになって、顔を合わせれば「働けニート」とつばを吐かれるようになるに違いない。

 ああ、なんて気の毒な奴だろう……。

 なんて考えはおくびにも出さず、真剣な表情のまま話を続ける。


「なら都合が良い。 夏芽と千里は先に帰ってくれ。 千里も大須さんに送ってもらえ」

「なして?」

「他にも色々と聞きたい事があるからだよ。 この調子だとあと2時間はかかりそうだ」

「ふぅん」


 首を傾げる千里と胡散臭そうに俺と坂田うめを交互に見比べる夏芽。


「分かった。 でも、後で変な噂を聞いたら……分かってるわよね?」

「噂って、そんな無茶な。 まあ、善処はするよ」


 その返事に一応納得してくれた夏芽は席を立ち、ゆっくりと生徒会室を後にした。

 彼女を追いかけるように千里も立ち上がり、一度不安そうに俺の方を見てから小走りで生徒会室から出て行った。

 ひとり残った俺は席に座ったまま二人を見送り、それから改めて坂田うめと向き合う。


「何でアンタがこんな所にいるんだよ?」

「……副生徒会長だから」

「それは知ってるし、入学式の生徒会挨拶の時に副会長は事故で入院中だって話をしていたのも思い出した。 俺が言いたいのはそんな事じゃなくて、警察にしょっ引かれなかったのかとか、新天寺社はアンタをどう扱っているんだとか、そういうのだよ」


 一息で聞きたい事を一通り語り終え、軽く深呼吸する。

 坂田うめは俺の質問に対する答えを探している最中らしく、机の上で組まれた彼女のて手をぽやーんと眺めている。


「……あの後、何とか人目のない所に隠れたから」

「で、新天寺社の方は?」

「……」


 顔を伏せて、だんまりを決め込んだ。 どうやら話したくないらしい。

 ただ、今も彼女がこうして学校に通っている事を考えると、少なくとも新天寺社は彼女を見捨ててはいないだろう。 もしも、彼女を使い捨てにしていれば学校に対して入院中だと連絡が入る事はないだろうし、銃創をこさえた女の子がそこらの病院に行こうものならまず間違いなく警察に連絡が入る。

 病院か、警察かは分からないが、そのどちらかに新天寺社の影響力が働いたと考えても差し支えないだろう。 ついでに言うと極めて高い確率で新天寺社が何かしらのアプローチを仕掛けたのは病院の方だろう。 警察はリスクが大き過ぎる。


「まあ良いや。 それよりも怪我の方は大丈夫か?」

「……え?」

「だから、足の怪我はどんな感じなんだって訊いたんだよ? っその怪我の張本人が言うのもどうかとは思うけどな」


「ほっほう、そいつは聞き捨てならんなぁ!」


 何の前触れもなく、明後日の方角から無駄に威勢の良い声がした。

 振り返ると一人の女子生徒が腕を組み、仁王立ちで偉そうにふんぞり返っていた。

 身長は160あるかないかと言ったところだろうか。 決して高い訳ではないが腰まで伸びるブロンドの長髪が強烈に目を引き、圧倒的な存在感を放っている。

 瞳の色は緑色。 顔立ちはまず間違いなく平均的な日本人のそれではあるが、妙にでかい態度に相応しく凛々しい眼差しが印象的。

 夏芽の吊り目が意志の強そうな目だとすれば、彼女のそれは気が強そうな目とでも形容すべきだろう。

 そして、この少女の肩口にもまた生徒会の腕章が取り付けられていた。


「……あ、会長」

「おっはー、マイスイートおっぱいちゅわ~ん!」

「すげぇ頭の悪そうな挨拶だな、オイ。 っていうか、ただのセクハラじゃねーか」


 しかも「おっはー」て! 「おっはー」って……!


「ヤ○ちゃんかよ!」

「そっち!? 普通、ママの方ちゃうん!?」

「こちとら流行語大賞取った時はまだ子宮(はら)ん中だよ!」


 その場の勢いに任せて思わず立ち上がってしまう。

 坂田うめは驚いてすこし身を引き、生徒会長は俺の発言に対して大げさに驚いてみせた。


「こ、これがジェネレーションギャップ……! って、ちゃうちゃう! そんな事言うてる場合やない! さっきの話、ホンマなん!?」

「あ?」

「ウチの可愛いうめちゃんをキズモノにしたとか、このけしからんお山を征服して蹂躙しまくったとか、太ももに一生消えへん傷痕(スティグマ)を刻んでやったぜ、これでお前の身体は一生俺のおもちゃだぜげっへっへとか?!」

「言ってねええええええ!」

「あべぢっ?!」


 思わず、チョップをお見舞いしてしまった。

 とっさの事に反応すらままならなかった会長は実に見事に額で俺の手刀を受けた。


「入学式の挨拶の時には威厳たっぷりに演説してたかと思えば、蓋を開けてみりゃただの千里2号じゃねーか!?」

「うううっ、痛い……」

「むしろイタいわ、アホんだら」


 涙目になってうずくまり、額を両手で押さえる生徒会長。

 しばらくその様子をため息交じりに見下ろしていると、何の前触れもなく猛然と立ち上がり――


「おっ、お母ちゃんに言いつけたるうううううう!!」


 そんな捨て台詞を残して全力疾走で立ち去って行った。

 しかし、お母ちゃんとは。 残念さ3割増だな……。

 彼女を茫然と見送った後、坂田うめと顔を見合わせ、同時にため息を吐く。


「生徒会長が廊下を走っていいのか?」

「……分かんない」


 その一言を最後に、生徒会室に静寂が訪れる。

 しばらくして、その妙な沈黙を破ったのは俺の方だった。


「あー、何か色々訊く雰囲気じゃなくなったし、帰るわ」

「……あ、待って」


 出入り口へ向かって一歩を踏み出そうとした所を、左手の袖をつまんで止められた。

 たったそれだけで、俺の前進はものの見事に止められた。 流石はスクーターを平然と振り回す怪力少女。


「何?」


 内心かなりびくびくしながらも、それを隠してただ呼びとめられたから振り返っただけですと言わんばかりの態度で尋ねる。

 が、直後に坂田うめが放った一言の前では動揺を隠すことが出来なかった。


「……えっと、私の家に、来て」


 何か知らん間にフラグが立っていたようだ。

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