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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
1章 むやみにイベント盛りだくさんなある日の出来事
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0話 改札で足止めを食らった時は何故か気まずい

 電車から降りて、ホームから微妙に淀んだ空とさほど高い訳ではないが周囲に他に高い建造物が無い事もあってか高々とそびえる通天閣に目をやる。

 関東で生まれ、今も関東に本社を置く大手総合電機メーカーを全身を使って宣伝するこの街のシンボルというのは何か間抜けなものがあるな、なんて益体の無い事を考えながら階段を下りて改札を通過する。

 通過すると同時に視界にアニメ絵の女性駅員の描かれたウインドウが出現。


 【切符を入れて下さい】


 それだけの情報を伝えるために3秒ほど視野を遮った後、何の前触れもなく消滅した。

 ……ああ、そうだった。 今はアレが無いから乗り降りの度に切符を改札に通さなければならないんだな。 そんな当たり前の事を再確認させられる。

 不審そうにこちらを見る駅員に肩をすくめつつ、ポケットから210円の切符を取り出して、改札を通った。

 

【支払 210円】

【またのご乗車をお待ちしております】


 駅前はお世辞にも人が多いと言えるほどには賑わっていないが、閑散としているとも人がまばらとも言えない程度の微妙な人口密度。

 周囲を見回すが生憎と知人の姿は無い。 ズボンのポケットをまさぐってスマホを取り出し、メールをチェックする。

 駅前を行き交う人々の殆どが何かしらの端末を手に歩いているが、今の俺のようにスマートフォンを触っている人はごく少数。 残る大半が一見するとやや小ぶりなタブレット風の端末を弄っていた。 スーツをまとった禿げ頭のサラリーマンはパネルを触ってメールを作成している。 今、目の前を横切ったやや女顔の、しかしお兄系と呼ばれていたファッションの女連れの男性はその端末に備え付けられたカメラを進行方向にかざしている。 どうやら行きたい店までのナビゲートを任せているようだ。 彼と並んで歩いていた女の子は新しい携帯電話の3D画像を眺めていた。

 端末の向こう側にナビゲーションの矢印と赤い糸が表示されているのがはっきりと見える(・・・)。 もっとも、その表示を気にしている人は俺以外には誰もいないし、そもそも見えてさえいないのだろうけれど。

 2016年3月現在、スマートフォンを触るものが少数になった――より正しく言えばスマートフォンが持ち得る機能のうち、電話以外の全てを奪ってしまった結果、携帯電話をメールと通話機能のみのゼロ年代初期のそれにまで退化させるに至ったその機械の正体はゲーム機。

 先の若者とは反対方向へと向かう妙にゴツイサングラスをかけたホームレスの老人。 彼もまたその端末をポケットに突っ込んで放置された自転車のせいで人口密度のわりに通りにくい道を早足に駆けて行く。 ポケットに突っ込んでいるにもかかわらず、その機械を持っていると断定したのは彼自身の手で作ったと思しき仕事の効率を上げる為のツールが中空に表示されていたからで、あのサングラスを利用することで肉眼では見えない筈のそのツールを閲覧しながら歩いている。

 そのゲーム機自体もさることながら、グラス型の映像の表示機器は結構な値段になるので買わない人は多いのだが、一体あんなものを持っている人が何を思ってホームレスなんぞやっているのだろうか?

 そんな意味のない思考を巡らせている内に、メールを送り終えたサラリーマンはTwistterというSNSのアプリを起動して『生理痛で辛い』などと意味不明な呟きを残してから改札へと入って行った。 せめてAR表示機能を消しておけば俺も含めて他の誰にも見られることは無かっただろうに。


 【入場 新今宮駅】

 【定期 4月6日迄】

 【ご乗車ありがとうございます】


 と書かれたウインドウをぶら下げたまま、サラリーマンは手にしたタブレットの上方をスライドさせて収納。 この時点でサイズは開いた状態の2/3程になり、更に折り畳んで1/3にまで縮めてからポケットに突っ込んで階段を駆け上がった。

 しかも、この構造でありながら展開した時の画面はよく見ないと継ぎ目にすら気付けないと言う代物だ。 もちろん、必要や好みに応じて2/3のサイズでの使用も可能。 また、少し高くつくが先の老人のようにメガネを利用して更なる大画面で、それもハンズフリーでも使用可能。

 この高い拡張性と、メモリやHDDの容量、通信速度と言ったスペック的な面を除けばタブレットに一切引けを取らないままに携帯ゲーム機並みかそれ以上の携行性によってタブレットを一掃してのけた新たなる情報化社会の寵児。

 Another Region――それが今、日本で一世を風靡している携帯ゲーム機の名称だ。

 日本国内だけでほんの3年足らずの間に実売1億台を突破。

 発売当時はまだ無名も良いところの新興企業"新天寺社"はこの大ヒットの後押しを受けて一気に世界に名をとどろかせる一大企業へと成長を遂げた。

 携帯ゲーム機とは思えないワイドな画面、折り畳み可能なタブレットなど様々な利便性を有する"アーリー"と略される事の多いこのゲーム機だが、最大の特徴は何と言っても拡張現実に特化している点だろう。


 拡張現実。 或いは強化現実とも呼ばれ、世界的にはAugmented Reality(略式はAR)という名で知られている技術で、SF映画なんかではわりと良く見かける代物。

 分かりやすい例を上げるとすれば某世界的に有名な漫画の視界に映った人物の強さを表示してくれるメガネなんかが代表的だろう。

 他にも一昔前のアニメで見かけた現実の世界と重ね合わせの電脳世界を視る為のメガネなんかもこれの一種と言えるかもしれない。

 前者は対象のある情報を数値化する事で現実を、だいたいこんなものだろうという推定から正確な値の把握へと強化している。

 後者は現実に空想を持ち込む事で視界に広がる世界の多様性を強化している。

 かたや次世代ナビゲーションシステムを筆頭に様々な場面でその恐るべき利便性を発揮し、かたやアーリーに備え付けられたカメラ越しに世界を視る事で現実の世界とゲームの世界の垣根を取り払った遊びを提供し続けている。


 特に現実を強化する方面に関しては凄まじいものがあり、1000万人を超えるネット会員・新天寺社の通販サイト・自社の保有するサーバの貸し出しや多彩なアプリの提供といった様々なサービスの合わせ技によって、アーリー所有者が欲しがりそうな今月発売の商品を自動的にリストアップし、外出時にカメラ越しに街を見るとどの店にどの商品が置かれているか、在庫状況はどうかといった買い物に必要な情報を懇切丁寧に表示してくれる。

 これは通販サイトに蓄積された個人のデータと、通販・流通・アプリの使用等、何かしらの形で利害関係を結んでいる小売店(何とその数は数十万店にも及ぶとか)の在庫情報の二つを画面上の映像に重ね合わせる事によって成立しているらしい。

 理屈は何となく理解出来るが、実際にそれを初めて見た時には圧巻させられた。

 更に新天寺社はこの爆発的なヒットを背景に、様々な事業に手を出し、膨大な情報とユニークなサービスを利用して多くの協力者を得て、ついには既存のインターネットとは異なる規格のアーリー専用ネットワーク、通称“ニューロン”を保有するに至った。

 今や日記も手帳も家計簿も通帳も財布もメールもこれ一つ。 もはやインフラと呼べる程の地位を確立、持っていないのは機械音痴のお年寄りと赤ん坊くらいのものとさえ言われている。

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