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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
1章 むやみにイベント盛りだくさんなある日の出来事
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23話 素直になれない幼馴染と解凍系ヒロインをツンデレの定義の範疇に収めるのだけはどうしても許せない

 何の前触れもなく乾いた音が響いた直後、RUMIコスの少女が太ももから血を噴いて倒れた。

 倒れた、と言っても意識を失った訳ではなく、あくまでも尻もちをついて、傷口を押えて呻いているだけだが。


「大丈夫ですか?」

「……君は?」


 何食わぬ顔で、とまで言わないが思った以上に落ち着き払った態度で私の下へと駆け寄ってきたのは病院で会ったあの少年。

 手には別れ際に手にしていた拳銃が握られている。

 彼が駆け寄ってきた進路へと視線をやると野次馬がわずかながら確かに道を開けているのが分かった。

 彼が発砲し、彼の手に持っているものに気付いた群衆が無自覚に道を開けた、と言ったところだろうか。

 

「早く降りて来て下さい。 騒ぎ出す前に場所を移したいんで」

「そうね。 どこか、お誂えの向きの場所は……」

「俺に心当たりがあります」


 何とも手際の良い少年だ。

 上司が私のために寄こしてくれた補佐役か何かじゃないかとさえ思えてくる。

 それに、彼はどのくらいの距離から発砲したんだろうか?

 ちょうど私が飛び降りて着地する分のスペースだけ確保した上で、屋根のすぐ下に陣取る彼がそこに駆け寄って来る時の速度と、銃声が響いてから今に至るまでの時間。

 それらを踏まえると2,30メートル程の距離から撃ったという結論に至る。

 ――そんなバカな。

 

「……余計な考察は後回しでお願いします」

「ああ、済まない」


 私の表情や目の動きで何かを察したらしい。

 本当に鋭い。 本部に戻ったらスカウトする方向で上にかけ合いたいくらいだ。

 よろよろと立ち上がる緑髪の少女を横目で伺いながら、屋根の上から飛び降りる。

 膝を上手く曲げて衝撃を逃がし、何事もなかったかのように着地。


「さて、その心当たりとやらに案内してもらいましょうか?」

「と言ってもアナタも知ってる場所だと思いますけどね」


 と、薄く笑みを浮かべる少年。

 そんな表情を作りながら、彼は何故か羽織っていたシャツジャケットを脱ぐ。

 それから、脱ぎたてのそれを屋根の上の少女めがけて放り投げた。


「止血しておかないと下手すると命の関わるぞ?」

「……」


 少女は忌々しげに彼を睨みつけている。

 対する少年は拳銃を手に持ったまま、彼女のもう一本の脚を見据えていた。

 余計な動きを見せればもう一発見舞うぞ、という言外の忠告。


「……」


 私と彼。 二人を相手にあの怪我では勝ち目がない。

 その事を察した彼女は渋々と言った様子で太ももに彼のシャツジャケットを巻き始める。 そんな彼女に背中を向けて、私は彼の心当たりとやらを目指して歩き出した。




「…という訳で、貴方の身柄を拘束させてもらうけど、良いかしら?」

「いや、どういう訳か分からないんだが。 漫画じゃないんだから、かくかくしかじか的なざっくばらんな説明で片付けようとするのはどうかと」


 愛千橋病院に到着した私と少年――道中の紹介によると羽原 秋一というらしい――は何事もなく1007号室に到着。

 そこで帰りを待っていたのは大須 冬彦。 ちょうど彼にも、と言うか本来は彼に用があった私は、彼の隣の椅子に腰かけた。


「……要するに大須 冬彦に良いように使われたって事だろ?」

「本当に君の勘の良さは気持ちが悪いね、羽原 秋一」

「どういたしまして」


 にやりと笑みを浮かべる大須 冬彦。 対する羽原くんはやれやれと肩をすくめている。

 その仕草の意図を図りかねた私は、少しそのやり取りの意味を考える。

 まず、良いように使われたのは誰か? ――ここにいるメンツの誰かだろう。

 私と大須 冬彦のやり取りの後にあの会話が入ったって事は……私か。


「もしかして、私達に情報を流していたのって……?」

「正解。 もっとも、君の上の人達はおおよその事情を察した上であえて乗っかっていたんじゃないかと思うけどね」

「十中八九そうだろうなぁ……」


 軽くため息を吐きつつ、羽原くんは窓の外へと視線を向けた。

 確かに私の知る上の人達とやらはそう簡単に御せるような素直な連中じゃない。

 情報源の信頼度くらいはきっちりチェックして、もしもガセだった時の対策くらいは既に講じていてもおかしくはない。 その程度の狡猾さは持ち合わせているだろう。


「でも、それならどうして千里ちゃんを保護しろ、なんて言ったのかしら?」

「多分ですけど、千里の利用価値を見抜いていたってことでしょう。 あと、千里を人質に取れば自動的に夏芽も人質に出来る。 それに意識不明のまま何カ月も経ってる少女を保護しろなんて言うよりは千里の方が保護するだけの合理的理由をでっち上げ易かった」

「確かにねぇ。 あんまり胡散臭いと私が素直に動かないかもしれないものねぇ……」


 思わず、口の端がつり上がってしまう。

 その表情の意図を察した大須 冬彦と羽原くんもそれぞれのやり方で同意を示した。

 意図、と言うのは要するに「やってくれたな」という奴である。


「あの三人、なんか怖い」

「全員、腹黒キャラだから仕方ない」


 そんな私達を遠巻き(と言っても狭い室内なので物理的には近いのだけど)から、大須 冬彦の妹さん――中野 夏芽というらしい――と北里 千里が少しだけ引いた態度で見守っている。

 確かに三人揃って曰くありげな態度を取っているこの状況には妙な迫力があった。


「で、結局、どういうことなん?」

「何はともあれ、結果オーライってことさ」


 羽原くんがにぃと挑戦的なのに屈託のない奇妙な笑みを浮かべた。

 年齢不相応の食えない態度と、肝心なところで単純になれる彼の人柄を的確に表したような表情だ。

 直後、真面目な表情に戻った彼は再び口を開く。


「まあ、結果的に一番まずいのは多分俺なんだろうけど」


 確かにその通りだ。

 大須 冬彦はそもそも表立って行動していない。 それに、今回の件で妹ともども私の属する組織の監視下に置かれることになる。 北里 千里も似たようなもの。

 翻って言えば、私達に新天寺社の手から守ってもらえるということでもある。

 私はある程度組織に守ってもらえるし、コスプレのおかげで顔が多少は割れにくくなっている筈だ。 新天寺社が任務に失敗したものをどう扱うかなんて知らないけれど、その点に関してはRUMIコスの彼女も同様だろう。

 けれど、羽原くんは発砲した直後の姿を多くの野次馬に目撃されている。

 きちんと確認した訳ではないだろうけれど、ケータイやアーリーのカメラで彼の姿を撮影した人だっているかも知れない。 その写真がブログに上げられるかもしれない。


「とりあえず、もみ消せるだけのものはもみ消してもらえるよう掛け合っておくわ」

「お願いします」

「もみ消しに失敗したら秋一の高校でのあだ名が早撃ちマックになるんか……胸熱」

「よぉし! ちょっと、頭を冷やそうか!」


 流れるような動作で北里 千里の小ぶりな頭にアイアンクローをかける羽原くん。

 きっと本人は自覚していないのだろうけれど、凄く楽しそうだ。 この子はきっと天性のドSに違いない。

 一方の彼女もこめかみを激しく攻め立てられて、「あひぃ、らめぇ!」と悲鳴を上げながらも心なしか嬉しそうにしている。

 なるほど、仲も相性もかなり良いようだ。 いささか理解に苦しむ関係ではあるけれど。


「あ、そうだ。 ねえ、秋一」

「ん、なんだ?」


 控えめな調子で彼の名を呼んだのは夏芽さん。


「大声出すだけでも疲れちゃうから、出来れば近くに来てくれないかな?」

「ああ、分かった」


 ようやくアイアンクローを解いた羽原くんは言われるままに彼女のすぐ傍の椅子に腰かけ、耳を寄せた。

 目を覚ましたばかりの夏芽さんは相当筋力が衰えているのか、上体を起こすのも辛そうだった。

 それを察した彼は更に彼女の口許に耳を近づける。

 ――直後、夏芽さんはゆっくりと体を起こし、彼の頬に形の良い唇を重ねた。

 

「……えーと?」

「か、感謝のしるし、みたいなものよっ……!」


 言い終えるや否や、耳まで真っ赤にしてそっぽ向く。

 それまで茫然と見守っていた大須 冬彦が絶叫し、北里 千里が奇声を上げる。

 もっとも、その奇声の内容は嫉妬云々ではなく、「ツンデレktkr-----!!」という何ともアレな代物なのだけれど。

 今にも羽原くんに襲いかかりそうな大須 冬彦を羽交い絞めにし、私は病室から一旦退避。 空気を読んだ初老の医師や北里 千里も私達と一緒に部屋の外へ。


「二人っきりにしちゃって良いの?」

「大丈夫だ、問題ない」


 彼女は随分と自信に満ちた様子で小柄なわりに大きな胸を張る。


「自分、3Pとか大好物なんで」


 この場にいない羽原くんに代わって、彼女の額にチョップをお見舞いした。

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