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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
1章 むやみにイベント盛りだくさんなある日の出来事
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16話 友人の知り合いの知り合いが自分の尊敬する人の恩人なんて事もあるから情けは人のためならず

 薄暗い通路をスマホのライトで照らしながらゆっくりと進んでゆく。


『ねえ、ここって結局何の為に作られた場所なの?』

「多分、核戦争が起きた時にでも大丈夫なシェルターへの通路か何か。 通路を見つけた

時の表示を考えると、まず間違いなく新天寺社の施設だよ」

『前半のえらく物騒な部分の根拠は?』

「下の方を見つめてたらFallout Shelterって表示があった。 夏芽なら侵入して中の情報を収集できるんじゃないか?」


 遠回しに「情報を集めて来てくれ」と言ったのを察した夏芽は一瞬にして俺の視界から姿を消す。

 5秒経過。 しかし、薄暗い場所で一人と言うのは何とも心細い。

 10秒経過。 何とも、というか物凄く心細い。

 15秒経過。 夏芽、遅いなぁ。 何かあったんじゃないだろうか?

 自分自身の身の周りへの恐怖と夏芽への心配が混ざり合い、何とも複雑な気持ちになる。

 で、30秒後。 夏芽がこれまた唐突に姿を現した。


「どうだった?」

『うん、確かに奥に何かあるのは間違いないと思うわ。 でも、詳細は分からなかった』

「解析できるような機械は置いてなかったか?」


 もしも、このシェルターが夏芽と出会ってすぐに見せられたあの桁外れの破壊を想定して作られていたとすれば、ここの設備はインフラが完全に死んでいる状況を前提に準備されていることだって考えられる。

 だとすれば、夏芽が外の景色を見る時にやっていたようなデータを解析してどうこうできるようなコンピュータの類は一切置いていない可能性だってある訳だ。


『多分、この下に置かれている機械は外部のネットワークから独立してるんだと思う』

「そうか、夏芽自身はネットワークか俺の目がない場所には行けないのか」

『そういう事。 それに、アンタの目があったとしてもアーリーネットワークから隔離された場所だとアタシはそこにいられないと思うわ』


 結構不便なのよ、と夏芽は短くため息をついた。

 見下ろし、床の向こうを凝視すればFallout Shelterという語は相変わらずそこにある。

 つまり、間違いなくそこに新天寺社に関する何かがあるはずなのだが。


「まあ良い。 それより、先を急ごう」

『そうね。 兄さんとアンタの友達が待ってるわ!』

「待ってるかどうかは知らんけどな」

『そういう事言わないの。 少なくともアンタの友達は確実に待ってるんだから』


 いや、そもそも事態を把握してないだろ。

 もしかしたら渦中にいる可能性もあるけど、それでも俺が首を突っ込んでいる事は知る由もない筈である。

 もしも、何かしらそれを知る術を持っていたとしたらちょっと怖い。


『で、アンタの友達ってどんな奴なの? 見た目は? 性格は?』

「んー、童顔のわりにイイ体してる変態?」

『うーん、ガタイが良いのに童顔で変態なの? なんか嫌だわ、それ』

「いや、そいつ女子だから」


 イイ体の意味を取り違えたのだろう。

 きっと身長190センチのガチムチボディを誇るベビーフェイスの露出狂とかそんな感じのものを想像してのか、顔をしかめる夏芽の間違いを指摘する。

 しかめているというか、ニヤついていたようにも見えるのはきっと気のせいだろう。

 指摘した瞬間、彼女の三次元ではあり得ない大きな目が眩しい程に輝いた。

 ……うっかり忘れていた。 女の子にこういう話を振ると食いつくんだよなぁ。


『もしかして、彼女?』

「アホか。 そんな良いものじゃねーよ、あいつは」

『へぇ、でもちょっとくらい気があったりはするんでしょ?』

「友達だっつってんだろうが」


 そしてとんでもないスピードで恋バナへと舵を切ろうとする。

 ええい、これだからスイーツ(笑)は!?


『ふうん。 でも、男と女の間に』

「友情は成立しないってか。 あいつは心にイチモツ生えてるから問題ねえよ」

『な、ナニ言ってんのよ、アンタ……』


 顔を真っ赤にして真っ直ぐ俺の方に伸ばした両手を振る夏芽。

 ARだからやや誇張表現されている部分もあるだろう、そりゃもう見事に真っ赤である。

 どうやら、この年上の少女はそう言った話に対して免疫があまり無いらしい。


『で、でも、その子はアンタのことどう思ってるかなんて分からないわよね?』

「んー、普通に異性として好かれてるんじゃないか?」

『しれっと言う台詞じゃないわよね、それ? どれだけ自信満々なのよ』


 そう言われてもなぁ。 あっちが胸張って「秋一が好きです! でも、二次元の方がもーっと好きです!」と言ってくるんだから仕方ない。

 冗談かもしれないけど。

 余談だがかつては俺も千里に気があった時期もあったが、仲良くなると同時に変態が暴露されてそういう感情は消し飛んだ。

 あれはあれで面白い奴だから、今でも友人として仲良くやってるけど。 あくまでも友人として、だ。


「ま、何はともあれ大事な人って事に間違いはない」

『分かったわよ、そういう事にしといてあげる。 だから、お互い大事な人のために頑張りましょう』


 夏芽は胸元で拳を固め、意気込んだ。


「言われるまでもない」


 スマホのライトを改めて進行方向に向け、俺と夏芽は再び歩き出す。


『で、一応確認しておくけど、本当に恋人じゃないのよね?』

「しつこいぞ」


 その短いやり取りの間の数歩で、行き止まりに突き当たる。

 上方へライトをかざすと出口らしきものが見つかった。


「ふう、やっと到着か」

『で、どこに出るの?』


 などと言いつつ、先んじて壁をすり抜けて階上へと顔を出した夏芽は辺りを見回す。

 パンツが見えている件については知らぬが仏であり、なおかつ彼女自身のパンツではなくあくまでもでんでんタウンのマスコットキャラのそれである事などを考慮してあえて言及しない。

 ついでに言うとそんな仕草をしているが、彼女にはアーリーなしに外部を認識する能力がないのだからこの動作には何の意味がない。

 対する俺は備え付けのはしごを登ったその先のマンホールを押し上げ、周囲に人目がないかを慎重に確認しながら地上へと這い上がった。

 もっとも、どんなに気を使ったところで見えないものは見えないし、開けたドアが死角になって確認しようもない範囲がかなり存在するので、俺の動作にもあまり意味はない。

 こういう秘密通路を抜けると出入り口で意味もなく他者の目を気にしてしまうという、子どもの頃に誰でも一度は経験したと勝手に信じてやまない人間の悲しい性による習慣的な行動でといったところだろう。

 ……それ以前に、マンホールの向こうも真っ暗で夏芽以外(不思議と暗闇でも普通に見える)は全く何も見えないのだが。


「多分、通天閣の地下のホールだと思うんだけど……って、夏芽が手近なアーリーのカメラから覗いた方が簡単に確認出来るんじゃないか?」

『あ、言われてみればそれもそうね』


 言い終えるが早いか、忽然と姿を消す夏芽。

 さっきの事を踏まえると、数十秒は戻ってこないだろう。

 その間に、こっちはこっちで出来るだけ情報を収集しておこうか。

 まず何を差し置いても気になるのが人の気配の有無。

 ただ確認を取るだけなら大声を上げれば済むのだが、今は人目について得する事が無い状況である。

 誰かに見つかるのは可能な限り避けて通りたい。

 入口で入場規制が行われていた以上、見つかれば確実につまみ出されるだろう。

 大会参加者ですと言い張ろうにも、そもそもこの大会の参加者が参加証を配布されていた時点でアウトだし、応援ですで誤魔化すのも参加者以外入場禁止だったらやっぱりダメ。

 となると、適当な物陰に隠れて聞き耳を立てるのが無難か。

 辺りを見回す。 見事なまでに真っ暗で、本当に何も見えない。

 息をひそめて、耳を澄ませる。 風の流れや物音も光と同様に皆無に等しい。


「これならライトを点けても問題なさそうだな」


 ドアを押し上げる前にポケットに直しておいたスマホを改めて取り出し、ライト機能を起動さた。

 天井。 何の特徴もない、強いて言うならば特徴が無いのが一番の特徴と言った風情の天井だ。

 床。 これまた何の特徴もない。 天井と同様に無個性が最大の個性と言った印象である。

 壁。 こうしてライトを点けた状態で見てみると、広い空間には無数の棚が並べられていて、かなりの数の物資が陳列されている。

 どうやら、ここは倉庫か何かのかのようだ。

 足元をライトで照らしつつ、棚へと近寄って物資を確認。


「ん、非常食……か、これ?」


 それが何なのかを明確に記す文字列は見当らない。

 目を凝らしてみるもののARによる管理がされている訳でもないらしく、やっぱり何も見えない。

 開けてしまおうか、なんて邪念が一瞬だけ脳裏をよぎる。

 一方で、万が一にも危ない謎の白い粉だったりしたらどうするんだよ、という懸念がブレーキをかけてくれた。

 ……どうせ中身を確認したところで俺になにが出来る訳でもないんだ。

 触らぬ神に祟りなし。 この方針で行くのが一番だろう。

 という訳で、物資から視線を外して改めて壁を確認して回る。

 ……出口、どこだよ?


『ねえ、秋一ッ!?』

「何だよ、帰って来るなり大声出して?」


 大声、と言っても大声としては聞こえていないのだが。

 あくまでも漫画のギザギザの吹き出しのような大声を出している表現として認識しているだけだ。


『い、いいいいっ、いたのよ!?』

「誰が?」

『兄さんに決まってるでしょ!? それに北里 千里も!?』

「いや、ある程度見込みがあるから探しに来たん、だけど……?」


 って、ちょっと待て。 今、何て言った?


「夏芽、千里を知ってるのか?」

『そりゃあ知ってるわよ。 彼女のクラッキングを阻止したのは兄さんなんだもの』

「……マジかよ」


 思いがけない繋がりに、頭を抱えた。

 あいつを知ってる人がいること自体はさほど驚くようなものでもないが。


『あの女、一体何のために兄さんに近づこうとしてるのかしら? 2年前の報復とかだったら逆恨みも良い所だわ!』

「いや、千里はそんな事しねーよ」

『そんなの分からないわよ。 前科者だからってどうこう言うつもりはないけど、あの子に対して好意的な感情なんて持てっこないわ。 あの子のせいで兄さんがどれだけ大変だったか……ってアンタ、あの子と知り合いなの?』

「さっきから探し回ってる友人が千里だよ」


 それを聞くや否や、夏芽は怪訝そうな目で俺を見つめる。


『もしかして、アンタもクラッキングとか……』

「してねえし、しねえよ」


 そんな高度な真似、俺のような凡人にはしたくても出来ません。

 と言うか、考えてみりゃ夏芽だって散々ハッキングまがいの事してないか?

 まあ、こっちはやむにやまれぬ事情があっての事だけどさ。


「……まあ、なんだ。 反省はしてるんだし、ここは俺の顔を立てるつもりであんまり表だってあいつの過去を掘り返すような事は言わないで欲しいんだが」

『うぅ、アンタにそれを言われると弱いわね』


 と、少し不満げな表情で俺の様子を伺いつつため息を一つ。


『まあ良いわ。 今、アンタとこんなところで揉めても仕方ないもの。 せっかく兄さんの居場所が分かったんだし』

「そうだな、さっさとここから出て千里に会わないと」


 ライトで壁を照らし、出口を探す。

 出口自体は思った以上にあっけなく見つかった。 が……


「……鍵がかかってる」

 当然と言えば当然か。 ここがどういう施設であっても、鍵をかけない理由は特にない。

 二度三度、ドアノブを回そうと手首を返しつつ、押し引きを繰り返すが開く気配はない。

 手元をライトで照らしてみる。


「あ、これ電子ロックなのか。 それなら……夏芽、ここにある機械に干渉できない?」

『新天寺社製のものなら出来るかも知れないけど』


 と、また姿を消し、今度はものの数秒で帰って来た。


『うん、行けたわ。 思ったより簡単な仕組みだった』

「そっか。 ありがとう、スーパーハカー」

『誰がハカーよ』


 むくれる夏芽を尻目に改めてドアノブを回す。 何の抵抗もなく回った。

 ドアを少しだけ押し開けて、外に人がいないのを確認した俺はその部屋を後にした。

【余談】

タイトルに関して

あまり深くは考えず、本文の一部分に関係のある要素を抽出しております

なのであまり深くは考えず流して頂けると幸い


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