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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
1章 むやみにイベント盛りだくさんなある日の出来事
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10話 コスプレを見た際にぺったん子キャラなのにたわわに実っていた時、果たして喜ぶべきか憤るべきかそれが問題だ

「熱くなっちゃって。 大人びててもまだまだ子どもね」


 つい先ほど出会った名も知らない少年のことを思い出し、呟く。

 かの天才少女、北里 千里の友人だとすれば、彼女と同じくらいの年頃の子どもだろう。

 それにしては年齢不相応に落ちついた雰囲気と態度の少年だった。

 断片的な情報から私が何者かを割り出そうとし、幾つかのパターンを想定した上で悪手は打たないように頭を働かせているかのような言動はなかなかどうして、大したものだ。

 私が彼くらいの年齢だった時にあそこまで頭を使って生きていたかどうか。

 少なくとも悪党を追い詰めるためにはそれなりに頑張っていたけれど、それに手いっぱいで自分の回りにいる人を気遣う余裕はなかったような気がする。


 けれど、その気遣いが仇になったのもまた否めない。

 確かに北里 千里は一時悪い意味で有名になり、全国的に顔を知られていた。

 でも、それはもう多くの人にとってはるか過去の話であり、大衆紙で見かけたモノクロの顔写真を覚えていられる人なんて殆どいない。

 それに、プライバシー上の理由ですぐにその雑誌は回収されてしまっている。

 ネットで検索でもすれば簡単に彼女の顔を確認する事は出来るが、わざわざそこまでする程彼女に関心のある人なんて早々いないだろう。

 だからこそ、彼女は今日も彼と並んで平気で街を歩いていられた。

 実際、私が北里 千里の事を知った(より正確には思い出した)のはあの電話の後で上司から送られてきた資料に写真付きで彼女をマークしろとあったからに過ぎない。

 そこを見落としてしまったのは間違いなく彼の未熟ゆえだ。

 最後の口ぶりと態度を見る限りでは、彼は新天寺社の裏側を知っていた。

 加えて、私の言葉によって北里 千里がそこに関わっている事を察したはず。 にもかかわらず、私を利用出来ないか、その道を探ろうとしなかった。

 学校という閉鎖的な空間で過ごしていたせいで、どうしても過敏にならざるを得なかった、攻撃的になるしかなかったというのはあるだろう。 が、それでも私の名前や連絡先さえも訊き出そうとしなかったのは間違いなく失敗だ。

 もっとも、彼に必要以上に警戒されて情報を引き出し損ねたのは私も同じ事なのだけれど。


 そんな事を考えながら病院の外に出た私の視界に一人の少女の姿が飛び込んできた。

 オレンジと黄色を基調にした、控えめに見ても日常的に着用するものには向かない衣装をまとった緑髪の少女。

 もちろん、ゴーグルの乗っかった独特の色の髪の毛は地毛ではないだろう。

 このコスプレは、Yulyと同じ会社の販売しているヴォーカロボット"RUMI"のそれと見て間違いない。

 ヘッドホンやインカムといった小道具の類までしっかり再現されている。

 顔立ちの良さも相まって、中々に完成度の高いコスプレだ。

 ただ一つ、いや二つほど問題を挙げるとすれば、胸のふくらみが過剰なのがまず一点。 それから、両手に持っているものが30センチメートル程度のスタンバトンとH&K P2000というのがもう一つ。

 両手の得物をちょうどスカートの内側の太ももに巻き付けたホルスターに突っ込んでいる最中だった。

 RUMIはそんなもの持っていない。

 ……いやいや、そういう問題じゃないか。

 コスプレ少女は私を見て無表情のまま私の様子を伺っている。

 何かを察した、というよりはたまたま目が合ったその流れでとういった感じの反応だ。

 大通りの一本奥にあるこの病院の前は人通りが多いとは言い難い。 仮に誰かしらいたとしてもその殆どが彼女のコスプレが何なのか分からない人の方が多数であり、今日のイベントや私と彼女の格好を考えればそういうものなのだと思って軽く流されるかも知れない。


 そもそも、彼女は何者なんだろうか?

 銃は本物なんだろうか?

 何の用があってあんなコスプレをしているんだろうか?


 色々考えてみるが、どう考えてもろくな結論には達しそうにない。

 そう結論付けるが早いか、一瞬早く身を翻してなるべく不審な気配を察知されないようゆっくりと歩いて駐輪場を通り抜ける。

 万が一、拳銃が本物だったらどうあがいても勝ち目なんてない。

 背中を向けるのもそれはそれで危険だけれど、いきなり撃ってこなかったところを見ると下手に仕掛けない限りは安易に発砲しないと思いたい。

 とにかくひとまずここから離れて、それから改めて考えよう。

 歩きながら、振り返って少女の様子を伺う。

 私の事など気にも留めず、当然のように病院へと入って行った。


「ちょ、流石にその展開は卑怯でしょ!?」


 まあ、病院の前にいたんだから病院に行くのは当然と言えば当然なのだけれど。

 しかし、私と無関係のところで何をしてくれたって全く問題がないのもまた事実。

 それでなくても私には顔も分からない新天寺社の裏側の構成員、大須 冬彦の捕獲と天才少女こと北里 千里の保護という二つの役目があるのだ。

 あんな訳の分からない相手に悠長に構っている暇なんてある筈もない。

 仮にあの少女がただの狂人で無意味な虐殺が目的だったとしても、大義の為の小さな犠牲として見なかった事にすれば良い。

 私の雇い主は国家そのもの。 そして、私に課せられた使命はあまりにも短期間に大きくなり過ぎた新天寺社の――今や日本の国土に重ね合わせに存在する仮想の共同体の行政府とすら呼ばれる程になった、かの企業の弱みを何としてでも見つけ出すこと。

 東京と比べて新天寺社の回し者の介入が少ない今回のような状況はまたとないチャンス。

 どういう経緯でこの情報を得たのかは分からないけれど、ボスが休暇中の私にいきなり電話をかけて来たのも無理からぬ話。

 この機会を逃せば新天寺社のスキャンダルの証拠を押える次の機会が巡って来るのはいつになるか。

 この国に二つもの国家はいらない。 そんなものは騒乱の原因になるだけだ。


 その任務と正義の重さを改めて確認した私は――躊躇う事なく、踵を返した。

 大義の前の小さな犠牲?

 その判断はきっと間違ってはいないだろう。

 けれど、私が小さな犠牲を認めるかというとそれはまた別問題。

 100の正義と1の正義。 その二つが両立しないと決めるのはいつだって自分だ。

 だったら、私は迷うことなく101の正義を選ぶ。

 たとえ、その為に1000を超える困難が伴うとしても。

 それが正義の味方というものだ。


「やったろうじゃないの……!」


 自らを奮い立てるように呟きながら、再び病院の自動ドアをくぐった。

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