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電脳世界ディストピア  作者: OTAM
1章 むやみにイベント盛りだくさんなある日の出来事
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7話 世界征服を目論む悪役連中は征服後は世界各地で反乱分子を生み出さないように案外善政をしく可能性がなきにしもあらず

「……はい」

『報告をお願い致します』

「10時のシミュレーションは無事完了。 現時刻の周辺の演算能力は14程度。 午後から開かれるフトモンの大会とストフェスに向けて徐々に人が集まってきているので、ピーク時には20を超えるものと思われます」

『そうですか。 では、引き続き監視を継続して下さい』


 受話器の向こうで電話の切れる音がした。

 ……全く、あの愛想も可愛げもない機械音声はどうにかならないものか。

 もっとも、そんな下らないものをこの仕事に求めて就いた訳ではないのだけれど。

 まだ少し寒い春の日本橋。

 つい先ほど仮想世界でミサイルが飛んできた方角を眺めながらため息をひとつ。

 

 ボクは新天寺社の裏側に所属する人間だ。 今や世界中に爆発的な広がりをみせている奇跡の携帯ゲーム機、Another Region。

 拡張現実を意味するAugmented Realityとこじつけて、少し無理のある感じに「もう一つの世界」の名を与えられたこのマシンには文字通り二つの顔があった。

 一つは全く新しい形の娯楽と便利を提供するツールとしての側面。

 ブログの記事、新天寺社の運営する各種SNSコミュニティや動画サイト、通販などの情報を複雑に、しかしユーザーの目にはシンプルにリンクさせ、それらの情報をアーリーに蓄積、ユーザーが各種サイトにアクセスする度にその情報が新天寺社のサーバに送られ、パーソナルデータが更新される。

 それらのサービスを日常的に利用している人であれば、新天寺社は本人よりも緻密に、正確に本人の好みを把握し、欲するであろうものを提供してくれる。

 その他にも有料・無料を問わず存在する多種多様なアプリ。 それらも活用して、たとえば自分用の日記や家計簿を自動でつけることだって可能。

 そういった有用なアプリの中には学校や病院などの公共の機関と提携し、共同開発されたものも多数存在する。

 人工衛星を所持する組織と手を組んで、AR機能を活用した最新のGPSもまたそれらの内の一つだと言えるだろう。

 

 言うまでもないことだが、それらの情報も新天寺社は無断で集積し、利用し続けている。 ステークホルダーへの誠意なんてものは微塵も持ち合わせていない。

 更に悪質なものになると実は機能を立ち上げていなくとも、スリープ状態であっても一部の機能が自動でオンになって情報収集を行っているものもあり(勿論、ユーザーの目にはオフに見えるように偽装されている)、カメラ機能もその一つである。 これによって無警戒にアーリーを持ち歩き、仮想世界を見るためにアーリーを開く度に自動的に周辺の風景を収集する――なんて機能もある。

 当然、ユーザーがその機能を意識して使った際に集めた情報もしっかり送られてくる。

 数千万の目が勝手に日本中を歩き回って膨大な風景を切り取り、基地などから割り出せる位置情報と抱き合わせて持ち主の活動をほぼ完全に把握。

 同時にその土地に関する情報を更新する、というものだ。 利用方法は幾つか思い当たるが、新天寺社が何を思ってこんな機能を実装したのかはボクも知らない。

 こうして合法・非合法や同意の有無を問わず、消費行動、学力、病歴、位置情報などの膨大なデータが集められ――そして、それらはアーリーの、ひいては新天寺社もう一つの顔へと流用される。

 

 ボクは一度たりとも会った事はないが、新天寺社を本当の意味で牛耳る連中の理想――世界征服、へと。

 字面だけ見れば頭の悪いフィクションそのものでしかない。

 しかし、彼らはその途方もない妄想を


"万人が新天寺社の各種サービスによる本人よりも本人の好むものを探し出し、提供してくれる環境を肯定している状況"

"万人とはアーリーユーザーの8割超と仮定し、ユーザー総数国内で1億を経て、世界全体で10億をひとまずの目標とする"

"環境を肯定しているか否かは各人のパーソナルデータやレビューを加味し、専門家に分析を行わせて判別する"

"専門家は厳密な判定を行える、新天寺社及びその関連企業に属さない第三者とする"


 ――といった具合に、どのような状態を世界征服完了とみなすかを一言一句細かく定義しながら、実現可能な目標として見据えているらしい。

 そして、少なくとも曲がりなりにも先進国の一つであり、世界有数の経済大国にニューロンという新しいインフラを生み出すに至った。 国民の自覚の有無はどうあれ、もはやこの国は国家と企業の二つの軸のせめぎ合いによって機能していると言っても過言ではない。

 彼らは子供向けの特撮番組の悪役ではない。 ただ支配して蹂躙したい、搾取したいなどといった軽薄な欲望を御せない程愚かでもないし、そもそもそんな利己的な目的で突き進む程幼くもない。

 あくまでも大衆の幸福の為に。 大衆と一緒に幸せになれるのが自分達である為に。 自分達の愛に確実に人々が報いてくれる社会を築くために。

 そんな普通に暮らしている一般人には何の問題もない、ある意味では崇高でさえある野心を胸に動いている。

 

 新天寺社が人々の暮らしを支え、考え得る最高の幸福を。

 人々は様々なサービスの恩恵を受け、その対価を支払う事で新天寺社に利益を。

 利益はそのサイクルに加わらない人にも巡り巡って還元される。

 三方よしを体現したかのような商人の理念に何一つとしてやましい所はない。

 新天寺社は今日もユーザーに素敵な出会いを、楽しみを振りまいてゆく。

 子どもたちに学ぶ機会を、より楽しく学ぶ手段を与える為の工夫を繰り返す。

 世界中の全ての人を新天寺社の手によって幸せにしよう……そんな純粋な願いの為に。


 もっとも、ボクにとってはそんな事はどうでも良いのだけれど。

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