非現実世界追放記
読者の諸君、私はこの物語の主人公である。
大抵主人公というのは、ドジで、トラブルメーカーで、勇ましく、時には泣き顔を見せ、
ひょっとしたら恋が芽生えそうな相手と赤い糸を引っ張りあいっこするものである。
しかし、私はおよそ主人公的要素は何一つ持っていない、
あろうことか、その技を身につけようともしてこなかった。
しかし私はこれでいいのだと、胸を張って言える。
私のいた非現実的世界、いわゆる二次元とでもいうべき世界では、
慎重10cmに満たない小人から、10mはあろうかという巨人までの老若男女が集っていた。
勿論、人間だけではなく、エルフや動物さらには妖怪悪魔、謎の物体なども多数生息していた。
読者の諸君、驚くなかれ。これらは全員役者である。
向こうの世界では「種族多数専属事務所」というとってつけたような看板の事務所があり、
そこから有現実世界で生み出される“お話”のキャストを抜擢していくのだ。
無論、私もその事務所の一員であった。
最初は、主人公という憧れの地位を狙い我武者羅に突っ走っていたわけだが、
走っていれば疲れる訳で、いつの間にか私は落ちこぼれの座を勝ち取っていた。
そんな座は要らないと泣き喚いても、事務所では相手にもしてくれない。
かといって、なにもまるっきり仕事がこなかったわけではない。
私の主人公に成りえなかった訳はまず顔にある。
良くもなく悪くもなく、メガネを掛けているわけでもなく、所謂普通だったのである。
逆にそこが評価されたところもあり、私は脇役とも言えない通りすがりを演じ続けた。
喫茶店のカウンター、の後ろにいる掃除係。
学校で主人公が颯爽と走り去る道の脇、よりもう少し向こうのもはや線だけの人。
遊園地の風船配りのウサギさん、が持っている風船を膨らます人。
ぶっちゃけて言えば、三つ目は画面外の決死の努力のみである。
こんな役ばかりであるから、喋る事もほとんどない。
喋ると言っても「え!?」「!?」「ぎゃっ!」といった、叫び声が主であり、
一番ひどいのだと「Σ」という記号のみで片付けらることもあった。
そして、ここ数年では顔さえも出していない。
落ちるとこまで落ち、後は上昇するしかない状態であるはずなのだが。
しかしその好機がどこにもおちていない。
このご時世、黒髪メガネが主人公になる事だって不思議ではないのに。
だからこそ「地味」がとりえである私にもそのチャンスは巡ってきてもいいはずである。
「「はず」って思ってるだけじゃ主役なんてとれっこないのよ。」
私よりも先に出世していった少女が残していった言葉である。
その時の私は、「そんなことは分かっている、何れ好機が巡ってくるのだ。」と、
意味不明な言い訳で自分をマシュマロの様な柔らかい寝床で寝かせていたのだった。
その時の事を思い出し、自分に腹が立ってきた。
「クソヤロウ。このアンポンタン。お前なんざ山の噴火で死んでしまえ。」
悲しい事に、その位じゃ非現実世界の人間は死なないのである。
徐々に私の心の溝は削られていくのであった。