表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロと断罪された令嬢は、素材の声を聞き辺境の工房で奇跡を直す  作者: 秋月 もみじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第9話 王都への帰還と真の証明


王城の門をくぐる時、私は緊張で胃が裏返りそうだった。

でも、隣にはクラウスさんがいる。

彼はもう「用心棒」の服ではない。

白と金を基調とした、まばゆいばかりの王族の正装だ。

それでも、私の手を握る温かさは変わらない。


「顔を上げろ、リア。君は何も恥じることはない」

「……はい」


玉座の間。

赤い絨毯じゅうたんの先には、この国の支配者である国王陛下が座っていた。

クラウスさんによく似た、けれど彼よりも線が太く、猛禽類もうきんるいのような鋭い眼光を持つ男性だ。


その御前ごぜんに、私とジェラルド様が並んで立っている。

周囲には高位貴族や魔導省の重鎮たち。

針のむしろだ。


「これより、ベルンシュタイン嬢とライグナー侯爵令息による、御前試合を行う」


宰相が厳かに宣言した。

お題は、三日前に渡された「朽ちた儀礼剣」の修復。

どちらが、より王家の宝剣として相応しい輝きを取り戻せるか。


「まずはジェラルド・フォン・ライグナー」


名前を呼ばれ、ジェラルド様が自信満々に進み出た。

彼が布を取ると、会場から「おお……!」と感嘆の声が上がった。

そこにあったのは、もはや剣というより宝石細工だった。

柄には大粒のルビー。

刀身には複雑な魔導回路が刻まれ、青白い光を放っている。


「陛下! 我が魔導省の総力を結集し、この剣を『聖剣』へと進化させました! 埋め込んだ魔石により、振るうだけで炎の斬撃が飛び出します!」


ジェラルド様が鼻高々に説明する。

貴族たちが拍手する。

けれど、私には聞こえていた。

剣の悲鳴が。


『重い……! 背骨が折れる!』

『熱い! こんな石、埋め込まないで!』

『私は切るために生まれたのに、これじゃ飾り人形だ……』


かわいそうに。

本来の重心を無視して魔石を詰め込まれ、刀身のバランスが崩壊している。

あれでは、一度振ったら手首を痛める。


「次は、リア・ベルンシュタイン」


私の番だ。

私は震える手で、黒い布を取った。

会場が静まり返る。

そして、プッという失笑が漏れた。


そこにあるのは、何の変哲もない「鉄の剣」だ。

魔石もない。

発光もしない。

ただ、さびを落とし、刃を研ぎ澄ませただけの剣。


「……なんだそれは。ゴミ拾いの成果か?」


ジェラルド様が嘲笑う。

確かに、見た目の派手さでは完敗だ。

でも、剣は喜んでいる。


『軽いぞ!』

『風が通る!』

『早く振ってくれ、いい音を出す自信がある!』


私は剣の声に励まされ、一歩前に出た。


「私は、剣の声を聞きました。この剣は、飾り立てられることを望んでいませんでした。ただ、王の手足となって空を切り裂きたいと、そう願っていました」

「物言わぬ剣の代弁か? 相変わらず頭がおかしい」

「静粛に」


国王陛下が低い声で制した。

玉座から立ち上がる。

その巨体が動くだけで、空気が震える。


「能書きはいい。余が試す」


陛下は階段を降り、まずジェラルド様の剣を手に取った。

ズシリ、と腕が沈む。


「……重いな」

「はっ! その重みこそ威厳! それに魔力の奔流ほんりゅうが……」


陛下が無言で剣を振るった。

ブォン。

鈍い音がして、剣先が床をかすりそうになった。

切っ先が重すぎて、止めるべきところで止まらないのだ。


『痛い! 振り回さないで!』


剣が泣いている。

陛下は眉をひそめ、すぐにその剣を侍従じじゅうに戻した。


「次はそなただ」


陛下が私の剣に手を伸ばす。

その瞬間、陛下の手が止まった。

吸い寄せられるように、自然につかが掌に収まったからだ。

私が柄に巻いた革紐。

それは、使い手の掌の形に合わせて、数ミリ単位で厚みを調整してある。


「……ほう」


陛下が小さく息を漏らした。

そして、軽く手首を返した。

ヒュン。

風を切る鋭い音。

先ほどとはまるで違う。

剣が陛下の腕の一部になったかのように、滑らかに空気を裂いた。


『最高だ! もっと!』


剣が歓喜の歌を歌う。

陛下はさらに鋭く、演舞のように三連撃を放った。

シュッシュッ、キィン!

美しい軌跡が空中に描かれる。

魔力による光ではない。

研ぎ澄まされたはがねだけが放つ、冷たくて純粋な閃光だ。


「……良い剣だ」


陛下が剣を下ろし、静かに告げた。

その一言が、広い広間に響き渡る。


「重心が完璧に調整されている。余の癖を見抜いていたかのような握り心地。魔石の力に頼らずとも、これほど鋭い斬撃を繰り出せるとは」

「なっ……!?」


ジェラルド様が顔面蒼白になる。


「へ、陛下! それはただの鉄屑です! 私の剣の方が魔力数値は上で……!」

「数値か。お前たちはそればかりだな」


陛下が冷たい視線をジェラルド様へ向けた。


「余は戦場で剣を振るってきた。魔力で飾り立てた剣など、実戦では重りでしかない。武器の本質を見抜けない者に、国を守る資格はない」


「そ、そんな……」

「勝者はリア・ベルンシュタイン。文句のある者はいるか?」


誰も声を上げない。

圧倒的な「事実」がそこにあったからだ。

私は胸を押さえて、深く息を吐いた。

伝わった。

素材の声が、王様に届いた。


「さて、ジェラルド」


そこへ、クラウスさんが進み出た。

手には束ねられた書類を持っている。


「勝負はついたが、まだ精算が終わっていないな」

「な、何を……」

「お前がリアに対して行った、魔力測定記録の改竄かいざん。および、工房への不当な圧力と、偽の王命書による公文書偽造。すべての証拠がここにある」


クラウスさんが書類を突きつける。

そこには、裏帳簿のコピーや、買収された測定官の自白書が含まれていた。


「ま、待ってください殿下! これは父上が勝手に……私は知らない!」

「見苦しいぞ。お前の署名が入った命令書もある」


クラウスさんの合図で、近衛兵たちがジェラルド様を取り囲んだ。


「お、俺は次期侯爵だぞ! 魔導省の長官になる男だ! こんなこと……うわぁぁぁ!」


ジェラルド様は抵抗しようとして、無様に床にいつくばった。

かつて私を「地べたを這う虫」と嘲笑った彼が、今は泥にまみれている。

ざまぁみろ、とは思わなかった。

ただ、哀れだった。

数値という虚構にしがみつき、素材の声も人の心も聞こうとしなかった人の末路。


「連れて行け」


陛下の命により、ジェラルド様は引きずられていった。

広間の扉が閉まる。

重苦しい空気が消え、清々しい静寂が戻ってきた。


「リアよ」


陛下が私を呼んだ。

私は慌てて平伏する。


おもてを上げよ。……弟が惚れ込むのも無理はない。そなたの手は、良い職人の手をしている」


陛下が私の、豆だらけですすけた手を見て微笑んだ。


「礼を言う。余の弟を……クラウスを救ってくれてありがとう」

「もったいないお言葉です」


涙があふれてきた。

「役立たず」と言われ続けた手が、肯定された。

この国の頂点に立つ兄弟に、認められた。


「リア」


クラウスさんが、私の肩を抱いた。

公衆の面前だというのに、彼は隠そうともしない。


「帰ろう。俺たちの工房へ」


その言葉が、どんな勲章よりも嬉しかった。

王城のきらびやかなシャンデリアよりも、工房の裸電球の下が、私にとっては一番輝ける場所なのだ。


「……はい!」


私は涙を拭い、満面の笑みで頷いた。

腰に下げた工具袋の中で、ハンマーが『よかったな』『お疲れさん』と優しくカチカチ鳴っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ