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異世界幻想郷 総合設定学 〜ファンタジー世界を学術的に設計・検証する〜  作者: 屋久島昇
第1部 方法論:世界を「研究」と「設計」する

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第2章 研究設計と前提固定 〜スコープ(地理範囲・年代・文明段階・異界の有無)〜

 第1章では、世界設定を「思いつきの集積」ではなく、目的に応じた要件を満たす設計として扱うべきだ、という立場を採った。設計である以上、世界は自由でありながら、同時に制約に縛られる。制約のない世界は、矛盾で崩れるか、万能さのために緊張を失うこととなる。


 本章の課題は単純である。すなわち、以後の議論が同じ土俵に乗るように、世界に「境界」と「前提」を与える。とりわけ厄介なのは、途中で前提が変わってしまうことである。「神は実在しない」「蘇生は実は誰でもできる」「転移門が至る所にある」といった変更は、展開の面白さとは別に、世界の骨格を丸ごと組み替える行為になる。制度や文化はその骨格の上に立っているため、後からの改修はどうしても大掛かりになる。


 したがって本章では、最初から完璧に決めるのではなく、どこを固定し、どこを保留するかを見極める。言い換えれば、「変えてよいもの」と「変えると大惨事になるもの」を仕分けし、その仕分けに責任を持つための手続きを示す。



 世界設定という言葉は、どうしても世界全体を想像させる。しかし、世界全体を同じ精度で描こうとすると、たいてい破綻する。むしろ、破綻しない世界は例外なく、密度に差がある。ある地域は細かいが、別の地域は伝聞と空白に覆われている。現実の歴史記述がそうであるように、世界の「空白」は欠陥ではなく、機能する余白である。


 ここでいうスコープとは、舞台の広さを決める作業ではない。設計のための境界条件を与える作業である。境界条件が曖昧だと、どんな矛盾も「遠い地方ではそういうこともある」で逃げられてしまい、検証ができなくなる。逆に、境界条件を一度置いてしまえば、以後の議論は急に締まる。税や軍隊、交易、教育、医療、宗教の力といった話が、具体的な地図と時間と能力の上で語れるようになる。



 スコープは、最低限、次の四項目で固定するのがよい。


(A)地理範囲:どこまでを詳細に扱うか

最初に「中心」を決める。物語やゲームが頻繁に触れる中核地域である。ここは、地形(山・川・峠・海峡)と主要都市、資源(穀倉・鉱床・魔力地脈など)、交通の骨格(街道・港・関所)を押さえる必要がある。これがないと、戦争も飢饉も交易も、ただの言葉になる。


 一方で、周辺地域や外縁の土地は、中核ほどの精度で描かなくてよい。むしろ外縁は、伝聞、神話、未知、恐怖として残しておく方が世界は強くなる。国家の手が届かない場所、地図が歪む場所、史料が残らない場所があるからこそ、辺境、海賊、異端、密輸、封印といった国家の外側の現象が成立する。中核の空白は破綻になるが、外縁の空白は物語と政治の余地になる。


(B)年代:いつの断面か

 年代の固定は、年表を網羅することではない。必要なのは「いま」を置くことと、「いまの制度がなぜそうなっているか」を説明できる程度の過去を置くことだ。制度は理由なしに生まれない。医療の独占も、転移門の免許制も、禁術の取締りも、たいていは何らかの危機(疫病、戦争、蘇生乱用、異界災害など)への反応として成立する。


 したがって、基準年をひとつ置き、制度の背骨になる大事件を三つほど置けばよい。これで十分に「歴史の重み」が生まれる。さらに、現在の圧力(たとえば技術革新、人口変動、異界侵食、宗教対立の再燃)を最低ひとつ入れると、世界は静止画ではなく、変化する場として立ち上がる。


(C)文明段階:国家がどこまで「できる」か

 文明段階は、世界の能力の上限を決める。ここが曖昧だと、都合のよい場面だけ国家が万能になり、都合の悪い場面だけ無能になる。これは設定の矛盾というより、世界のルールが場面ごとに変わってしまうという意味で致命的である。


 文明段階を決めるには、少なくとも四つの軸を押さえるのがよい。

•交通:人や物がどの速度とコストで動くか

•情報:噂と公文書がどれほど速く伝わるか

•行政:徴税や監査、許認可がどれほど機能するか

•衛生:都市人口の上限がどこにあるか(疫病と上下水の問題)


 この四軸が決まると、軍の維持、治安、教育制度、経済圏の広さが自然に定まる。とりわけ衛生は軽視されがちだが、都市がどこまで膨張できるかを決めるため、国家の形を根本から左右する。



(D)異界の有無:外部入力を許すか

 異界の導入は、世界に外部からのショックを入れるかどうかを意味する。異界がない世界では、変化は基本的に内生的である。政治、経済、技術、宗教改革が主役になる。異界がある世界では、侵食、召喚、呪い、門の暴走といった外生ショックが常に制度を揺さぶる。治安と宗教と軍事が重くなるのは、このためである。


 ただし、異界を採用するなら「接続の仕方」を曖昧にしてはならない。曖昧な異界は、便利な舞台装置となって制度を破壊する。最低限、接続は常時なのか周期なのか条件型なのか、門の数と位置はどの程度か、利用にはどんなコストと制限があるか。この三点は最初に固定しておくべきだ。これが決まれば、封印、監査、禁制、研究統制といった制度が必要になる理由が生まれる。



 地理・年代・文明・異界の四点が固定されると、以後の章で扱うことの多くが、勝手に姿を現す。徴税能力が見えてくる。都市の上限が見えてくる。交易範囲と文化圏が見えてくる。宗教の力が、単なる雰囲気ではなく制度として見えてくる。


 世界を縛るのが目的なのではない。世界を、同じ地図と同じ時計の上で語れるようにするために、スコープを置くのである。

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