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…の場合

三浦克三の場合

   

 「・・・て、ありがとう」

三浦克三は光の中に消えていく灰色の男に言った。


 一時間ほど前。

灰色の男は三浦の部屋にいた。カーテンが閉まっていて薄暗い。部屋の隅には数種類の漫画雑誌が積み上げられている。下の方はかなりほこりにまみれていた。

 部屋の主はいない。しかし、長いことこの部屋にこもっていた若者の汗の匂いが充満している。傾いた日差しがカーテンの隙間を通り学習机を照らしていた。机の上の本棚にはたくさんの高校生向け参考書が置かれていたが、こちらもほこりが積もっていた。参考書の横に赤茶色のノートがあった。男は迷わずそれを取るとその日記を開いた。


  四月二十日(日)

 明日は初のテストの結果が分かる。進学校だけあって難しかったけど、まあまあできた。上位には入っているだろう。


  四月二十一日(月)

 結果は155位。160人中155位だった。信じられない。中学でずっと1位だった僕がこんな順位のわけがない。5教科平均88点もとれているんだ。こんな順位はおかしい。それにもっと点はとれているはずだ。そう思って担任に採点ミスを指摘に行った。が、担任の鈴木先生には

「そんな訳はないだろう」

と言われてしまった。またか、というような顔をして答えられた。

「まだ最初のテストだし。一年間は一喜一憂しない方がいい」

とも言われた。確かにそうかもしれない。

 廊下で順位表を見ていたら、吉川に声をかけられた。吉川は157位だったそうだ。吉川とは入学後仲良くなった。チャラチャラした雰囲気だったが、話しているととても頭がよさそうだったので、その順位に少し驚いたし、ほっとした。


  四月二十二日(火)

 朝から気分が悪い。チャラチャラした萩原とかいう女子が昨日「そうじをさぼった」と注意してきた、確かに昨日そうじを忘れたが順位の事で頭がいっぱいだったのだ。しょうがないと思うが、萩原は「今日はひとりでやってよね亅といって結局一人でやる羽目になった。

 廊下を歩いていたら鈴木に会った。「大丈夫か」とか「まだこれからだ」とか言われたがあまり聞く気にならなかった。

 昼休みに吉川と昼ご飯を食べてショックなことを聞いた。吉川はわざと悪い点をとったらしい。

「ここから順位を上げていけば、努力した好青年にみえるだろう。」という作戦らしい。「お前もそうだろう。」と聞かれたのであいまいな返事をしておいた。


  四月二十三日(水)

 落ち込んでいても仕方ないと、テスト結果を机に貼って勉強しようと思っていたところを母さんに見つかってしまった。『テストの日に具合が悪かったのか』、『名前は書いたのか』、『回答欄は間違えていなかったのか』、いちいち質問してきた。これからもっと勉強するからと部屋を追い出したがすぐにもどってきて、『塾に入るか』、『父さんになんて言おうか』とかうるさくて仕方がない。勉強時間を母さんが削っているのが分かっていない。夕食後も勉強をしたが、父さんが会社から帰ってきてまた長い説教だった。父さんの後ろにはオロオロしている母さんがいる。いったい自分たちはどの程度勉強をしてどんなにいい成績だったのか。なんかバカらしくなって、勉強もやめた、寝よう。


  四月二十四日(木)

 今日も散々だった。

 萩原がまたそうじを押し付けてきた。オレがやって当然みたいに「やっといて」だと、おとといはオレが忘れたことを悪いと思ったが、そこまでやる必要はない、とくいさがったら、腹にパンチをしてさっさと帰ってしまった。また先生にいろいろと言われるのもイヤだから仕方なくやってやった。くそ。

 午前中に職員室に呼び出された。

鈴木がもう一度テストの採点を見直したところ、ミスがあったということだ。そら見たことか。と思ったが、4点上がっただけだった。だが、順位は2つ上がったらしい。改めて順位表を貼りだしてほしいと頼んだが、そこまでやる必要はないだろうとか言われた。どういうことだ。自分のミスなのになぜ訂正しないのか。教師として失格だ。

 家でそんなことを母さんに話したら、僕以上に怒り、学校に乗り込むと言い出した。そんなことをしても面倒くさくなるだけだからやめてくれと言っても、オレのためとか言って聞かない。結局自分が満足したいだけということに気づいていないのだ。バカじゃないのか。帰ってきた父さんも同じように怒っている。めんどくさい。寝る。くそ


  四月二十五日(金)

 萩原の奴だけじゃなくクラスの他のやつらまでオレにいろいろと押し付けやがる、あのバカ女がオレのことをいろいろと陰で言っているに違いない。ぶんなぐってやりたい。

 昼飯の時間に教室に母さんが来てオレを呼び出した。いっしょに職員室に行く羽目になった。あれほど昨日イヤだと言ったことが伝わっていないのか。行くにしても一人で行けばいいのにわざわざ教室に来てオレの親ということをばらす必要はないだろう。母親に連れられて職員室に行く姿を全校に見られた。もうだめだ、学校なんかもう行けない。萩原達にもバカにされた。みんないなくなればいいのに。

 さっき吉川からメールが来た。吉川は今日休んでいたので事情を知らない。「明日遊びに行こう」とのことだ、憂さを晴らさないとやってられない。どこに行こうか。


  四月二十六日(土)

 吉川は女子と遊ぶつもりだったらしい。よりによって来たのが萩原だった。もう一人はクラスの佐藤さんだった。教室では落ち着いた感じの子だったが、話してみると明るくて面白い、だからこそあのブス萩原がいらない。佐藤さんと話そうとするとすぐに邪魔をしやがる

そのうえ不機嫌な顔をずっとしている。その顔をしたいのはこっちのほうだと言いたかったが、あんな醜い顔をするくらいなら死んだほうがましだ。

 吉川がよせばいいのに成績をこれから上げていく作戦の話をしてしまった。オレもその作戦で行くと思っていたらしい。相槌を打っていたら萩原がオレにできるわけがないとかいって昨日の母親のことを全て話しやがった。吉川も気まずい感じになってしまった。最初からあんな話しなければよかったのに。本当に具合が悪くなって帰ろうとしたのに、萩原が『マザコン』とかいってきたのであいつのスマホを川に投げてやった。

 帰ってきたら、母がまた慌てて「何してたの?」「勉強は?」「順位を上げないと」「塾入る?」だの質問攻めだ。うるさいうるさいうるさい。

分かってる。オレが自分で何とかするから黙っててくれ。

みんないなくなればいいのに。いや、オレもいなくなればいいのに。



 

  四月二十六日(日)

 何もする気が起きず、夜まで部屋にいたら、くそ母が部屋に飛び込んできた。萩原のスマホのことらしい。投げたのかと聞かれたので投げたと答えたら、泣き出した。「何でそんなに私たちを裏切るの?」だと。裏切ったのはお前が先だろうと言った。学校に来るなと言っても来る。勉強するから部屋に来るなと言っても来る。オレの邪魔をしたいのか。と言ったら「だって心配だから。」だと。心配しているのは自分の立場だろう。知ったことか。あきれたので追い出してドアにカギをかけた。もうやってられない。みんな死ねばいいのに。オレも。


  四月二十七日(月)

 家にいてもうるさいだけだろうから仕方なく学校に行った。教室に入ると黒板にオレと母が手をつないでいる絵が描かれていた。萩原がニヤニヤこちらを見ていた。周りの連中もこちらを見ている。

「全員死ね!」と言って学校を出た。途中鈴木に話しかけられたが無視した。みんな死ねばいい。


  四月二十八日(火)

 萩原死ね。みんな死ねばいい。みんな。オレも。


  四月二十九日(水)

 萩原だけじゃないみんな死ね。鈴木も、吉川もオレも。



 ◆

 ◆

 ◆


  六月十五日(月)

 みんな死ねばいい。オレも死ねばいい。みんな死ねばいい。


  六月十六日(火)

 明日、実行にうつそう。参考書を買うとか言えばババアも金をよこすだろう。ついてこられたら面倒だけど壁でも蹴れば静かになるだろう。


 

  ◆◆◆


 灰色の男は日記を閉じカレンダーをみた。六月十六日だった。

「お前誰だ」

三浦克三が部屋の入り口にいた。母親が部屋に来ないように後ろ手でカギをかける。

「私は・・・」

灰色の男は言ったが、母親の「どうしたの?」という声にかき消された。

「うるせえ。ほっとけ。」

ドアを蹴ると母親は静かに一階におりていった。灰色の男は無表情にその様子を見ていた。

「あんた誰だ?」

「話がしたい。」

男は言った。そして二人は話をした。


 灰色の男は事実を話した。三浦克三がこの世界の創造主であること。外の世界からこちらの様子を見ていたことを。

 三浦克三は事実を知った。引き篭っていた自分がこの世界の創造主であること。自分が死ねばみんな消えることを。

 長いような短いような話を終えると三浦克三は笑った。

 話し終えた灰色の男は光の中へと消えて行った。消え去る男に三浦克三は言った。

「教えてくれてありがとう。やるべきことが分かった。本当に感謝したのは初めてだ。本当にありがとう。」

笑顔で男を見送った。


 ◆◆◆


 灰色の男は灰色の世界にもどった。振り返るとそこにあったはずの黒の城壁ルークの駒はすでに砂になっていた。




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