ポケモンでいうところのジムリーダー
あれよあれよと学校にて。
「ちょっぴり嘘だと期待してました」
「教師なんだから生徒には事実を教えるよ」
昨日の家庭訪問での内容が嘘だとほんの少しでも期待したあの時間を返して。と廊下を歩きながら思う。
夏季学校委員のスケジュール決定のため、天内先生に連れられ音楽室へ向かう。なんで音楽室なのさ。いくら代表の先生が音楽担当だからって安易でしょ。せめて会議室くらい使わせて欲しかったね。この暑い中で防音に全振りして暑さ対策が疎かになりがちな音楽室で会議なんて、ひ弱なあたしゃ死んじまうよ。
「どう?夏季学校委員になって」
「まだ抗える道があるんじゃないかと思案してるところです」
「時にはあきらめも大事だよ」
「諦めないのが俺の忍道なんで」
「そんなこと言わないで、ついたよ」
スルーですか。ネタが全部わかるわけじゃないのね。やっぱり人のある所でボケられる人はすごい。
「失礼します。五十嵐先生、連れてきました」
「お疲れ様です天内先生。と不動君」
「不動です。」
音楽室内を見ると男子生徒3人、女子生徒4人。全員黒板に意識を向けて背筋をたたて座っている。頬杖などをついている人間もいない。これはつけ入る隙がある。
「初めまして。よろしくね。適当に空いてる席座って」
始めて見る先生だ。顔は日本人顔の究極系。つまり心情が表情に出にくい。対して声量は予想していたより大きい。音楽の教師だからか発声がしっかりしている。声に意識を向けなくともそうなるのだろう。ボディランゲージは多い。挨拶の時にしっかり頭を下げたし、席に誘導するときはしっかり腕で空いている席を指していた。視覚に頼りすぎてはいけない。聴覚にも意識を向けなければ。
「あの先生」
「「どうしたの?」」
「あの五十嵐先生。今更ですけど僕やっぱり不参加ってことにできませんか?他の人たちはすごい真面目に来てるのに、僕だけ乗り気じゃないなんて。今後は授業もでるようにするので」
天内先生に視線を軽く向けて言った。彼女は信じてないだろうが、この人はどうだ。教師でかつ初対面だ。疑う要素より信じる要素の方が強いはず。
「うーん、それはできないかな。もう資料は提出してあって、学校外に貸す人手も君ありきで考えてるから。今からだと難しいかな。せめて一週間前に言ってくれればよかったんだけどね」
昨日言われてんだから仕方ないやろ。でもまだ舞える。顔も声も動きもまだ柔和だ。押せば可能性はある。
「聞いてるかもしれないですけど僕一人暮らしなんですよ。いくら学校に近いとはいえ、いろいろやることがあって大変なんですよ。宿題とかも出ますし、やりたいこともありますし」
「そうかもしれないけどこっちにも予定があるんだ。ごめんね。ここは飲み込んで?」
「そうかもですけど……」
「あのさ、もう時間ないんだ。昼休みが終わっちゃうから。君一人に割ける時間は終わり。あとは説明会が終わってからにして。ね?」
これ以上はまずい。表情ですらわかる。これ以上はまずい。眉間にしわが寄っている。これ以上逆らってはいけない。
「わ、かりました」
これはもうだめだ。なし崩し的にもう逃げられないところまで押し込まれてしまった。あんたの予想通りだろ、よかったですね天内さん。
教室内に入り一番後ろの席を目指し歩く。参加者の顔を見てみればどこか薄ら笑いを浮かべている生徒がいる。そうか、詰んでたんだ。この教室に入った瞬間から。