表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『記憶の海、沈まぬ君へ』  作者: 梅犬丸
第四章『棄てられた祈りの封印』
27/39

第二十五話「棄てられた祈りの封印」

虚白のナモノが去った後の灰誓の地は、

 まるで時間すら燃え尽きたかのように静まり返っていた。


 ティラは、譜面に指を添えたまま、何も言わずに空を見上げる。



「……“彼”には、本当に名前があったんだね」


「そうだ。……でも、もう誰にも呼ばれない」


「でも――私の心には、確かに残ってるよ。“その人”がいたってこと」



 カイはゆっくりと頷く。


 彼女の中で確かに息づく、“忘れられても、確かにあった”存在の記憶。

 それが、“記録されなかった者”たちのための祈りなのだ。



 二人は、最深部の《記録核ノモログス》の前に立つ。


 それは、世界中の“消された記憶”と“書かれなかった祈り”を呑み込み続ける、

 いわば“世界の記憶の心臓”。



 カイが口を開く。


「……ここに、俺たちの“原罪”がある。

 兵器として記憶を使った、罪そのものが」



 ティラはその核に手を伸ばす。


「でも、そこには……誰かが生きようとして残した、祈りもあるはず」



 彼女の譜面が、穏やかに光る。


【記憶魔法・封詞フィア・メモリー

効果:強制的に封印された“記録されなかった祈り”を再解釈し、永遠に忘却されない構造に変える

特性:対象の“存在理由”を再定義するほどの強力な魔法

代償:術者は、“再定義された祈り”と同一化し、個体としての記録を世界から抹消される



 カイが彼女の手を止める。


「ティラ……それを使えば、お前はもう、“名前を持つ存在”じゃなくなる。

 祈りと融合して、ただの“想い”になっちまう」



 ティラは、微笑む。


「それでもいい。私は、誰かに記録されるより――

 “誰かを信じて歌ったこと”を、記録にしたい」



 譜面が光に包まれ、灰誓の空に“旋律”が放たれた。


 それは祈りの歌。

 記録されず、誰にも語られなかった死者たちのための鎮魂。



 世界はそれを、言葉としては記録しなかった。

 けれど――風がその旋律を抱き、どこまでも運んでいった。



 ティラの姿は、次第に薄れていく。



「ティラ――!!」


 カイが駆け寄る。

 だが、もう彼女の体は光の粒となって崩れていく。



「……カイ。私はもう、“誰にも呼ばれない名前”になるよ。

 でも、それでもいいの。あなたが“覚えててくれる”なら。」



 最後に、彼女の唇が静かに言葉を紡ぐ。


「……ありがとう。私に“名前”をくれて」



 ――ティラは、“封印の旋律”となり、《記録核》と共にこの地に溶けていった。



 カイは静かに、譜面の断片を抱きしめる。


 彼女の名を、魔法で呼ぶことはもうできない。

 だが、心に残った旋律だけは、何度でも思い出せる。



「……ティラ。お前が記した“棄てられた祈り”は、俺が生きてる限り消えない」



 彼は旅を再開する。


 だが、もう“誰かの記憶”を辿る旅ではない。

 “想いを記す”旅として――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ