第二十三話「心臓を記せ、名を喰らう者よ」
封印の間に響く、少女の笑い声。
《記録喰い》――エーラ・ヴァイス。
かつて感情記録を専門に研究していた元魔導技術者。
今や彼女は、《虚白》に忠誠を誓う“感情破壊者”。
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「記録核……あなたたちの“罪”そのもの。
それを燃やし尽くせば、あなたたちは“罪を思い出せなくなる”。
それって素敵だと思わない?」
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彼女の手には、一枚の“黒い譜面”。
それは、**カイが最初に記録した“記憶兵器構築式”**そのものだった。
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カイが歯を食いしばる。
「……それを、どこで手に入れた」
「あなたの“最も憎む過去”なんて、
この世界じゃ誰かが拾ってるに決まってるでしょ?」
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エーラが詠唱する。
【魔法名:感情削除術】
効果:対象の“記憶に付随する感情”を切除し、空洞に変える
特性:感情を抜かれた記憶は“意味”を失い、記憶構造が崩壊する
代償:術者は、奪った感情の“痛み”だけを背負い、永遠に蓄積する
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カイの胸が激しく締め付けられる。
――感情が、記憶の中から抜かれていく。
怒り、哀しみ、悔しさ。
「ティラを守りたい」と願った、あの痛みすらも――
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ティラが叫ぶ。
「カイを返して!! “痛み”がなかったら、想いにならない!!」
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彼女の譜面が閃く。
【魔法名:継歌ノ詞・第二節】
効果:奪われた“感情の抜け殻”に、他者の歌から抽出した“想い”を再接続する
条件:術者が“同質の感情”を歌として再構築できること
代償:使うたび、自身の“感情の語彙”が一つずつ永久に消失する(例:悲しみ・怒りなど)
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ティラの歌が響く。
それはかつて、ティラ自身が誰かに呼ばれた時に感じた“ぬくもり”。
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彼女の声がカイの胸に染み渡る。
感情が――“想い”として戻ってくる。
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「……俺は、俺が感じた痛みすら、お前に渡したくなかった。
けど……今、もう一度、ちゃんと“罪”を背負う」
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カイが譜面を構える。
【記憶魔法・断罪の灯】
効果:自らの“最も恐れた記憶”を明示し、それを魔法として顕現させる
特性:敵の記憶魔法を中和・破砕する力を持つ
代償:術者は使用中、自分が“過去に戻る”ような苦痛を伴う
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カイの記憶の中――
かつて命令に従い、リヴィドを起動してしまった自分。
“まだ名前も持たなかった少女”の命を奪った光景。
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「俺は忘れない。誰かに命じられたからじゃない。
俺自身が、選んでしまった――その責任を、記憶し続ける」
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カイの魔法がエーラの術式を打ち破り、記録核が封じられる。
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エーラは膝をつく。
「ふふ……感情を守った、だなんて……苦しさごと、抱えるなんて……
あなたたち、本当に愚かね……」
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ティラが静かに囁く。
「……でも、私はその“愚かさ”に、救われたんだ」
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エーラは自らの記憶に呑まれ、静かに消えていった。
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記録核は再び封じられた。
だがその解放を試みた者は、エーラだけではなかった。
《虚白の王》――ナモノの“影”が、灰誓の地に差し始める。




