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『記憶の海、沈まぬ君へ』  作者: 梅犬丸
第四章『棄てられた祈りの封印』
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第二十三話「心臓を記せ、名を喰らう者よ」

封印の間に響く、少女の笑い声。


 《記録喰い》――エーラ・ヴァイス。

 かつて感情記録を専門に研究していた元魔導技術者。

 今や彼女は、《虚白》に忠誠を誓う“感情破壊者”。



記録核ノモログス……あなたたちの“罪”そのもの。

 それを燃やし尽くせば、あなたたちは“罪を思い出せなくなる”。

 それって素敵だと思わない?」



 彼女の手には、一枚の“黒い譜面”。

 それは、**カイが最初に記録した“記憶兵器構築式”**そのものだった。



 カイが歯を食いしばる。


「……それを、どこで手に入れた」


「あなたの“最も憎む過去”なんて、

 この世界じゃ誰かが拾ってるに決まってるでしょ?」



 エーラが詠唱する。


【魔法名:感情削除術レムノート

効果:対象の“記憶に付随する感情”を切除し、空洞に変える

特性:感情を抜かれた記憶は“意味”を失い、記憶構造が崩壊する

代償:術者は、奪った感情の“痛み”だけを背負い、永遠に蓄積する



 カイの胸が激しく締め付けられる。


 ――感情が、記憶の中から抜かれていく。


 怒り、哀しみ、悔しさ。

 「ティラを守りたい」と願った、あの痛みすらも――



 ティラが叫ぶ。


「カイを返して!! “痛み”がなかったら、想いにならない!!」



 彼女の譜面が閃く。


【魔法名:継歌ノけいかのことば・第二節】

効果:奪われた“感情の抜け殻”に、他者の歌から抽出した“想い”を再接続する

条件:術者が“同質の感情”を歌として再構築できること

代償:使うたび、自身の“感情の語彙”が一つずつ永久に消失する(例:悲しみ・怒りなど)



 ティラの歌が響く。


 それはかつて、ティラ自身が誰かに呼ばれた時に感じた“ぬくもり”。



 彼女の声がカイの胸に染み渡る。


 感情が――“想い”として戻ってくる。



「……俺は、俺が感じた痛みすら、お前に渡したくなかった。

 けど……今、もう一度、ちゃんと“罪”を背負う」



 カイが譜面を構える。


【記憶魔法・断罪のジャッジ・ラメント

効果:自らの“最も恐れた記憶”を明示し、それを魔法として顕現させる

特性:敵の記憶魔法を中和・破砕する力を持つ

代償:術者は使用中、自分が“過去に戻る”ような苦痛を伴う



 カイの記憶の中――

 かつて命令に従い、リヴィドを起動してしまった自分。

 “まだ名前も持たなかった少女”の命を奪った光景。



「俺は忘れない。誰かに命じられたからじゃない。

 俺自身が、選んでしまった――その責任を、記憶し続ける」



 カイの魔法がエーラの術式を打ち破り、記録核が封じられる。



 エーラは膝をつく。


「ふふ……感情を守った、だなんて……苦しさごと、抱えるなんて……

 あなたたち、本当に愚かね……」



 ティラが静かに囁く。


「……でも、私はその“愚かさ”に、救われたんだ」



 エーラは自らの記憶に呑まれ、静かに消えていった。



 記録核は再び封じられた。

 だがその解放を試みた者は、エーラだけではなかった。


 《虚白の王》――ナモノの“影”が、灰誓の地に差し始める。


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