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『記憶の海、沈まぬ君へ』  作者: 梅犬丸
第四章『棄てられた祈りの封印』
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第二十二話「灰と歌声と、最後の研究者」

夜。

 灰誓の地に、淡い風が吹いていた。


 カイとティラは、破壊された旧研究施設の隠された区画――

 かつて“彼らの恩師”が眠った部屋に足を踏み入れた。



 そこで待っていたのは、一人の老女。

 かつて《記憶兵器リヴィド計画》の主任だった人物。名を――アマリア・ロスティカ。



「来たのね、カイ。ずっと……“君の記憶”を待っていたわ」



 アマリアの姿は、すでに“記録としての亡霊”になっていた。

 だが彼女の“魔法の残響”はまだ生きており、

 今もこの地に、“歌”を残していた。



【記憶詠唱術・ミュニス・カンタービレ】

効果:記録された者の記憶に“旋律”を刻み、音楽によって封じられた記憶を解放する

特性:音に触れることで、過去の断片が聴覚から再構成される

代償:使うたび、術者の存在は音に溶けて“歌声だけの幽霊”になっていく



「私は、リヴィドの開発を止められなかった。

 でも、あの子の歌だけは……忘れたくなかった」



 アマリアが語る、“あの子”とは――

 ティラの“原型”として作られ、最初に失敗した実験体の少女。

 誰にも知られず、消えた存在。


 だがその少女は、死の直前に一つの歌を残したという。



 そしてアマリアは、ティラに譜面を渡す。


「彼女の最期の旋律。それは、“記録されることを拒んだ歌”。

ティラ……もしも君が、“器”であることを越えたかったら。

この歌を、自分の魔法として編み直して」



 ティラは震えながら譜面を受け取る。


「……誰にも、記録されない歌……それが、その子の……」



 ティラの内に、“もう一人の自分”が目を覚ます。



【魔法名:継歌ノけいかのことば

効果:失われた記憶の中に、まだ“名も持たぬ想い”が存在するなら、それを“歌”として再構成できる

条件:術者が「記録されなかった者たちの声」に共鳴する必要がある

代償:使うたび、術者自身の“言葉”が一つずつ喪失する(=二度と同じ言葉が使えなくなる)



 ティラの歌が、灰誓の地に響く。


 誰も知らなかった少女の記憶が、旋律として舞い上がる。



「……私は、“器”なんかじゃない。

 “誰かの言葉”と、“誰かの旋律”を繋げていく存在――“継ぐ者”なんだ」



 その瞬間、施設の深部が開かれる。


 そこには、“記憶の兵器コア”が封印されていた。


 《記録核:ノモログス》



 そして、その封印が――何者かによって、外されようとしていた。


 現れたのは、記録喰いの一人。《エーラ・ヴァイス》。



「ふふっ……これが、あなたたちの“罪の心臓”ね。

 今度こそ、記録はあなたたちの手から完全に奪ってあげるわ」


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