第二十二話「灰と歌声と、最後の研究者」
夜。
灰誓の地に、淡い風が吹いていた。
カイとティラは、破壊された旧研究施設の隠された区画――
かつて“彼らの恩師”が眠った部屋に足を踏み入れた。
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そこで待っていたのは、一人の老女。
かつて《記憶兵器リヴィド計画》の主任だった人物。名を――アマリア・ロスティカ。
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「来たのね、カイ。ずっと……“君の記憶”を待っていたわ」
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アマリアの姿は、すでに“記録としての亡霊”になっていた。
だが彼女の“魔法の残響”はまだ生きており、
今もこの地に、“歌”を残していた。
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【記憶詠唱術・ミュニス・カンタービレ】
効果:記録された者の記憶に“旋律”を刻み、音楽によって封じられた記憶を解放する
特性:音に触れることで、過去の断片が聴覚から再構成される
代償:使うたび、術者の存在は音に溶けて“歌声だけの幽霊”になっていく
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「私は、リヴィドの開発を止められなかった。
でも、あの子の歌だけは……忘れたくなかった」
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アマリアが語る、“あの子”とは――
ティラの“原型”として作られ、最初に失敗した実験体の少女。
誰にも知られず、消えた存在。
だがその少女は、死の直前に一つの歌を残したという。
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そしてアマリアは、ティラに譜面を渡す。
「彼女の最期の旋律。それは、“記録されることを拒んだ歌”。
ティラ……もしも君が、“器”であることを越えたかったら。
この歌を、自分の魔法として編み直して」
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ティラは震えながら譜面を受け取る。
「……誰にも、記録されない歌……それが、その子の……」
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ティラの内に、“もう一人の自分”が目を覚ます。
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【魔法名:継歌ノ詞】
効果:失われた記憶の中に、まだ“名も持たぬ想い”が存在するなら、それを“歌”として再構成できる
条件:術者が「記録されなかった者たちの声」に共鳴する必要がある
代償:使うたび、術者自身の“言葉”が一つずつ喪失する(=二度と同じ言葉が使えなくなる)
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ティラの歌が、灰誓の地に響く。
誰も知らなかった少女の記憶が、旋律として舞い上がる。
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「……私は、“器”なんかじゃない。
“誰かの言葉”と、“誰かの旋律”を繋げていく存在――“継ぐ者”なんだ」
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その瞬間、施設の深部が開かれる。
そこには、“記憶の兵器コア”が封印されていた。
《記録核:ノモログス》
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そして、その封印が――何者かによって、外されようとしていた。
現れたのは、記録喰いの一人。《エーラ・ヴァイス》。
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「ふふっ……これが、あなたたちの“罪の心臓”ね。
今度こそ、記録はあなたたちの手から完全に奪ってあげるわ」




