表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『記憶の海、沈まぬ君へ』  作者: 梅犬丸
第三章『失われし海に死者は歌わず』
20/39

第十八話「記録殺しと名の墓標」

アーカイブ最深部。

 その中心に現れた男――バルト。


 虚白の幹部。

 かつて魔導史に名を遺した天才記録士だったが、

 今は自らの名を抹消し、“記録の殺人者”として生きている。



 男は、崩れた祭壇に座ったまま言った。


「君たちは、“記録されること”に希望を見るのか。

ならば私は、その希望を斬り殺すだけだ」



 バルトが腕を掲げる。

 空間に“かつて存在した魔法”の断片たちが浮かび、次々と燃え尽きていく。



【記録抹消魔法・白紙化のノンエクリプス

効果:対象が“記録された情報”である限り、存在を白紙にする

特性:過去の魔法・記憶・名など、記述が残るものすべてに適用

代償:術者は**“自分が記録されること”を永久に拒否される(存在証明の拒絶)**



「――っ!」


 ティラの譜面が一瞬で白紙になりかけた。

 彼女の記憶すら、魔法の形式として記録されていたからだ。



「やめろ……!」


 カイが飛び出すが、バルトは静かに首を振った。


「記録されるから苦しむんだよ。

名があるから、他人に定義される。

私は、それを終わらせる存在だ。」



 彼の手が再び振り下ろされる。

 “記憶魔法・灰誓カイセイ”が、完全に消えようとしていた。



 だがその瞬間――ティラが叫んだ。


「じゃあ、私が書く!! 

あなたが消すなら、私は書く! あなたの存在を、わたしの“記憶”に残す!!」



 彼女の手が光を放つ。



【記憶魔法・逆刻の旋律レコルド・レヴァース

効果:対象が記憶から消されようとする瞬間に、術者自身の“想い”を記録することで保護

特性:自分の意思で記憶を書き写す/魔法への干渉を拒絶

代償:術者は“記憶を外部に移した分”、自分の中から“感情”が削られる



 ティラの瞳が、涙を流さず光る。


「私は、あなたを忘れない。あなたがいたことを、わたしが書き残す……!」



 魔法が激突する。

 カイの名が消される直前、その“存在の断片”がティラの魔法で記憶譜面に焼き付けられる。


 バルトの白紙化の魔法が、拒絶される。



「なぜ、そこまで“覚えていよう”とする……?」


 バルトの声が、震えた。


「忘れる方が楽だ。消す方が、痛くないのに……!」



 カイが立ち上がり、静かに告げる。


「そうやって楽な方へ逃げるのは、

結局“誰かに記憶されたい”からじゃないのか?」



 バルトは目を見開き、そして――笑った。


「……ならば、私は君たちに“最期の記録”を預けよう」



 彼の体が、白く滲むように崩れはじめる。

 自らの魔法による“抹消”――術者の最後の代償だった。



「名前を持たぬ私の墓標は、君たちの記憶に託そう。

どうか……消えたまま、終わらせないでくれ」



 彼の“存在”が消えたその瞬間、空間にひとつの譜面が落ちた。


 それは――バルトが、自分の名前を捨てたときに書いた最後の旋律。


 そしてそこには、かすれた文字でこう書かれていた。


『バルト・ノヴィリス』

最後の記録者。記憶に殉ずる者。



 ティラがその譜面を拾い、そっと胸に抱く。



「名前が残るって、やっぱり……悲しいね」


 彼女がそう呟くと、カイが答えた。


「でも、残らなきゃ悲しむことすらできない。

 悲しみがあるから、俺たちは“誰かを覚えていられる”んだ」



 塔の上空。記憶の海が、静かに波打っていた。


 彼らの記憶が、誰かの記憶になる日まで――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ