第十八話「記録殺しと名の墓標」
アーカイブ最深部。
その中心に現れた男――バルト。
虚白の幹部。
かつて魔導史に名を遺した天才記録士だったが、
今は自らの名を抹消し、“記録の殺人者”として生きている。
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男は、崩れた祭壇に座ったまま言った。
「君たちは、“記録されること”に希望を見るのか。
ならば私は、その希望を斬り殺すだけだ」
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バルトが腕を掲げる。
空間に“かつて存在した魔法”の断片たちが浮かび、次々と燃え尽きていく。
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【記録抹消魔法・白紙化の鎌】
効果:対象が“記録された情報”である限り、存在を白紙にする
特性:過去の魔法・記憶・名など、記述が残るものすべてに適用
代償:術者は**“自分が記録されること”を永久に拒否される(存在証明の拒絶)**
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「――っ!」
ティラの譜面が一瞬で白紙になりかけた。
彼女の記憶すら、魔法の形式として記録されていたからだ。
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「やめろ……!」
カイが飛び出すが、バルトは静かに首を振った。
「記録されるから苦しむんだよ。
名があるから、他人に定義される。
私は、それを終わらせる存在だ。」
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彼の手が再び振り下ろされる。
“記憶魔法・灰誓カイセイ”が、完全に消えようとしていた。
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だがその瞬間――ティラが叫んだ。
「じゃあ、私が書く!!
あなたが消すなら、私は書く! あなたの存在を、わたしの“記憶”に残す!!」
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彼女の手が光を放つ。
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【記憶魔法・逆刻の旋律】
効果:対象が記憶から消されようとする瞬間に、術者自身の“想い”を記録することで保護
特性:自分の意思で記憶を書き写す/魔法への干渉を拒絶
代償:術者は“記憶を外部に移した分”、自分の中から“感情”が削られる
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ティラの瞳が、涙を流さず光る。
「私は、あなたを忘れない。あなたがいたことを、わたしが書き残す……!」
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魔法が激突する。
カイの名が消される直前、その“存在の断片”がティラの魔法で記憶譜面に焼き付けられる。
バルトの白紙化の魔法が、拒絶される。
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「なぜ、そこまで“覚えていよう”とする……?」
バルトの声が、震えた。
「忘れる方が楽だ。消す方が、痛くないのに……!」
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カイが立ち上がり、静かに告げる。
「そうやって楽な方へ逃げるのは、
結局“誰かに記憶されたい”からじゃないのか?」
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バルトは目を見開き、そして――笑った。
「……ならば、私は君たちに“最期の記録”を預けよう」
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彼の体が、白く滲むように崩れはじめる。
自らの魔法による“抹消”――術者の最後の代償だった。
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「名前を持たぬ私の墓標は、君たちの記憶に託そう。
どうか……消えたまま、終わらせないでくれ」
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彼の“存在”が消えたその瞬間、空間にひとつの譜面が落ちた。
それは――バルトが、自分の名前を捨てたときに書いた最後の旋律。
そしてそこには、かすれた文字でこう書かれていた。
『バルト・ノヴィリス』
最後の記録者。記憶に殉ずる者。
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ティラがその譜面を拾い、そっと胸に抱く。
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「名前が残るって、やっぱり……悲しいね」
彼女がそう呟くと、カイが答えた。
「でも、残らなきゃ悲しむことすらできない。
悲しみがあるから、俺たちは“誰かを覚えていられる”んだ」
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塔の上空。記憶の海が、静かに波打っていた。
彼らの記憶が、誰かの記憶になる日まで――




