表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『記憶の海、沈まぬ君へ』  作者: 梅犬丸
第三章『失われし海に死者は歌わず』
17/39

第十五話「波打ち際の魔女」

 ――静寂だった。


 風もない。波もない。

 だが、彼らの前には確かに“その影”が立っていた。


 浮律海域《ルナ=マーレ》の片隅。

 海面すれすれに立つ、ひとりの少女。


 その姿は、**ティラと“瓜二つ”**だった。



「……君が、私?」


 ティラが声を絞り出すように言う。

 少女の輪郭は、黒い譜面のような残響で揺れていた。


 否――正確には、**“記憶の残像”**だった。



「名前を、聞かないの?」


 残像の少女が囁く。


 ティラは答えない。

 答えたら、境界が曖昧になると本能で感じた。



 代わりに、カイが一歩前へ出た。


「……お前は、誰の記憶だ」



 少女は笑う。優しく、哀しげに。


「“誰の”なんて意味はない。

私は《記憶の海》に流れ着いた“滅びの記憶”。

名前はもういらない。名を持てば、また誰かを傷つけるから」



 その声に、ティラの手が震える。


「わたし……あなたと似ているって、よく言われる。

 でも、**“自分と同じ顔”が世界を滅ぼした”**なんて……そんなの、認めたくないよ……」



 記憶の波がひときわ大きく揺れる。

 そして、少女の記憶の中の情景が、ティラの脳に直接流れ込んでくる。



記憶再現フェーズ


記憶再現魔法リミネンス・シアター

効果:対象の深層記憶の再現映像を空間に投影

特性:記憶が不完全な場合、空白部分は“見た者自身の恐れ”で補完される

代償:記憶に共鳴した者は、一時的に“再演者”としてその記憶を辿る役割を負う



 広がる映像。

 そこは、灰と蒼に沈んだ、かつての天空都市《イオ=アルカ》。


 そして、その中心にいたのは――


「……これは、わたし……じゃない……のに……」


 涙を流しながら、**炎に包まれた街を歩く“自分の姿”**をティラは見た。



「……“この力は、私だけのものじゃない”……」


 記憶の中の“魔女”は、そう言い残していた。


「魔法は、誰の記憶から生まれたと思う?

誰が、最初に“言葉”を使ったと思う?」



 空が引き裂かれるように轟き、

 巨大な“魔導兵器の残骸”が空から降り注いでくる。


 それを指先一本で押し返す“魔女”――

 魔法ではなく、“記憶”そのものを力に変える存在だった。



 ティラが呻くように叫ぶ。


「それは……あたしじゃない……! でも――“私の中”に、いる……!」



ティラの魔法が発動した(覚醒/半自律)


【記憶魔法・断罪重奏カタルシス・クレド

効果:対象の記憶と自分の恐れを重ね、そこから“自我の核”を鍛造する魔法

特性:記憶に負けなければ“新たな自己魔法”を得られる

代償:失敗した場合、“自分が誰か分からなくなる”



 旋律が狂ったように鳴る。


 ティラの中で、ふたつの記憶がせめぎ合う。


 ――“魔女としての記憶”と、“ティラとしての記憶”。



「わたしは……あたしは……!」



 そのとき、カイが叫ぶ。


「迷うな! お前はお前だ。

“名を呼ばれて、笑ったお前”だけが、真実なんだ!」



 ティラの体から、光が溢れる。

 黒衣の“魔女の記憶”は光に呑まれ、海へと溶けていく。



 彼女は、地に膝をついて――泣き出した。


「怖かった……あたし、わたしが“あたしじゃない”気がして、

 でも……君たちがいてくれて、よかった……」



 カイは、そっとその背に手を添えた。


「お前が誰でも構わない。“今、こうしているお前”だけが、俺の知ってるティラだ」



 波が静かに凪いだ。

 “波打ち際の魔女”は、ただ黙って、海へと消えていった。


 まるで、ひとつの恐怖と決別するかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ