妹さん
※ナナエル視点にもどります
* * *
魔法で疲れが少しばかり取れても、仕事が減る訳ではない。
いつものように早朝目を覚まし、最低限の身支度を整えると学園に向かう。
そこで生徒会の仕事をする。
けれど、昨日の変なことがあった所為か全部放りだしてしまおうか。みたいな気分になる。
それは明確な変化だった。
静かに目立たず授業を受けてお昼休みになった。
ナナエルは毎日一人で食事をとっている。
急に仕事を押し付けられるときも多かったし、前はよく図書館に行っていたからだ。
けれど、今日は違った。
一人の令嬢にナナエルは呼びだされた。
黒い髪の毛を令嬢にしては短く切りそろえ、長いまつげが印象的なその人をナナエルはよく知っている。
昨日会ったウィリアムの妹だ。
そして、侯爵家の跡取り候補筆頭と噂されている。
纏う雰囲気はまるで違うけれど、優秀な妹と出来の悪い兄として貴族の世界では有名だった。
令嬢を一人連れている。
いいな、友達いるんだという場違いなことを考えてしまう。
疲れてるんだなとナナエルは思う。
話があるのでついてきて欲しいと言われる。
指定された場所はほぼ高位貴族しか使わない中庭の中の一つだった。
三人で中庭に付く。
「あの、何か……?」
彼女とナナエルは接点はない。
家門の派閥も違う。
「私から、すべてを奪った女を一目見ておきたいと思う事がそんなにおかしなことですか?」
きっ、とナナエルをにらみつけながら彼女は言った。
「奪う……?」
一瞬何のことかナナエルには分からなかった。
「王子殿下と懇意になりたいという事ですか?」
最初に思い浮かんだのはナナエルが王子の婚約者候補だという事だ。
「違う!!」
ナナエルを威嚇するみたいに少女は言った。
「お兄様が本気を出すことにしたのよ! 次期侯爵も宮廷魔術師団も何もかも私のものではなくなるの!!
ならせめて、私からそれを奪う人間の顔をみて一言言ってやりたいじゃない」
彼女の瞳には涙の膜がはっていてキラキラと光っていた。
まるで猫みたいだと場違いなことを思った。
お兄様は多分ウィリアムのことだろう。
昨日の話が頭に浮かんだ。