美しい人
※引き続きウィリアムサイドです。
ウィリアム本人視点
* * *
学園にとても勉強のできる人がいるという事は知っていた。
見た感想は背筋がしゃきんとしている人だという事くらいしか思い出せない。
こんなことならもっと見ておけばよかった。
彼女が王子の手駒として働かされていることは知っていた。
けれどそれも気にしてはいなかった。
気が付いている貴族はほとんどいなかったし、王家に非公式に使われている人間は彼女以外にも間々いる。
最初は任務から帰還し、宮殿で報告をした後のことだった。
パキンという独特な結界を張る時特有の魔力の波動を感じた。
宮殿は多くの場所で決まった魔法以外使えないよう、宮廷魔術師が魔道具を使って管理している。
多くは安全上の理由だが国力を誇示するためでもある。
それの力を超えて結界がはられた感触がして見に行った。
それはとても几帳面で美しい結界だった。
理論として一番安定して正しい形はこれだというのを表したような結界。
今すぐ宮廷魔術師にスカウトできる出来栄えだった。
だから誰がこれを作ったのか気になって忍び込んだ。
「美しい」
思わず声に出していってしまったのは、そこで一人泣く少女の瞳の強さがあまりにも美しかったからだ。
明らかに疲労でボロボロになっているのは分かるのに、それでも瞳にこもる何かに無性に惹かれた。
俺のつまらなかった世界がその瞬間反転した。
したこともない告白をしてそれとなく断られてしまって。でもそんなことで諦められるとはもう思えなくなっていた。
恋愛でなんて今まで馬鹿にしていたはずなのに。
どうしても彼女を手に入れたくなってしまった。
* * *
好きな人に好かれるためにはどうすればいいのだろうか。
「とりあえず贈り物を贈ればいいだろうか?」
「隠れてって感じならいいと思いますが、不貞を疑われてあっちが困ると思いますよ」
配下の者はそう言った。
少し馬鹿にしたような言い方にムッとする。
この気持ちをなんとか彼女に伝えたいだけだというのに。
「で、あればまずは障害を排除すべき、だな」
やりたいことがあることはとてもいい。
「それでは朝一で侯爵との面会を希望してくれ」
「かしこまりました」
今度は嬉しそうに配下は言った。
そして、彼女のパサついてしまった髪の毛を思い出しながら眠りについた。