つまらなくない日
※ウィリアム勢力視点です
* * *
ウィリアムが宮殿での用事を済ませて屋敷へ帰ったのは日付が変わってから少したってのことだった。
彼の配下の者はまるで執事の様なこともこなしている器用な男だった。
「今日もつまらない一日の愚痴でも言いますか?」
毎日のルーチンになってしまった言葉を彼は言った。
ウィリアムは彼を見るとにやりと笑った。
それが今の彼にとっての満面の笑みだった。
「今日は退屈な日ではなかったぞ」
その言葉を聞いて配下の男は驚いた。
「何かウィリアム様の御心を動かしたものがありましたか?」
配下の男の声は震えていた。
「多分、恋ってやつをした」
「……っ。それで……」
「なあ、効率的な国の盗りかたを知っているか?」
まず自分の主が恋をしたと嬉しそうに話すことに驚いた。
それが今までの主曰くつまらなくて仕方がない世界が変わったと言っていることに驚いた。
好いた人がいる位で何でもできてしまうこの人の退屈は癒せないと思ったからだ。
「何故、恋をすると国をとらねばならないのですか?」
しかも言っていることが割と訳が分からない。
「その人は、王子の“婚約者候補”らしい。
王家を潰すのは一つの方法な気がしてな」
哀れな子羊、言い換えると主の思い人は、あのがり勉令嬢と呼ばれている公爵令嬢なことに気が付く。
「手っ取り早く、この国を潰すでいいと思わないか?」
「思いませんね」
止めておかないと、この人はやる。
本当にやってのけてしまうし、その力がある。
ただ、今回は少なくともそれが最善だとは思わなかった。
「公爵令嬢にはその話をしたのですか?」
「告白してふられた。
ふられたと言っても王子の婚約者候補だから無理だという理由でだ」
配下の男は天を仰いだ。
それから、これからやらねばならぬことを考えた。
「歴史研究科まで御供した甲斐がありました」
少なくともまず言えることはそれだけだ。
侯爵家の配下の家門の者も親族もうすでに次女の派閥に入っているものが多い。
それでも真に力があると己が認めたこの人についてきてよかった。
やっとやる気を出しそうな主に対してそう思った。
「王家打倒は最後の手段にとっておきましょう。
まずはあなたが公爵令嬢と添い遂げるためにふさわしい地位を得ること。これはこの侯爵家の跡取りに指名されれば充分でしょう。
次に王子の婚約者候補から彼女が外れるために各方面に圧力をかけること。
後は思いの彼女に好かれるための努力をすること」
配下の男がそういうと、ウィリアムは「最後のやつ以外は得意分野だな」と言った。
得意分野であれば最初から力を誇示していてほしかった。
配下の男はそう思ったが、口に出さないでおいた。
「ちなみに、女性に好かれるにはどうしたらいいんだ?」
「そんなこと私にきかないでください!!」
配下の男の叫び声を聞きながら、ウィリアムはこれからどうするか思案した。