表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/78

唐突な告白とお断り

「大丈夫ですか?」


そう言って、ナナエルはハンカチを差し出された。

ナナエルは何から聞けばいいか分からなかった。


何故結界の中に入れたのか、ナナエルをどうするつもりなのか。

聞きたいことは沢山あるのに唇が戦慄くだけで上手く言葉にできない。


疲れ切ってかさついた唇が震えるだけだ。



「ああ、すみませんでした。自己紹介がまだでした」


そういう事じゃない!!

ナナエルは叫びたかった。


「ウィリアム・ウォードと申します。

結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」


は?

ナナエルは思わずぽかんと彼、ウィリアムを見てしまった。

何をいいだしているのか?

冗談には思えなかった。


「無理です!」


何かを試しているのかもしれないと思ったけれどナナエルにはこの返事をすることしかできなかった。


「何故ですか?」

「私は王子殿下の婚約者候補ですので……」


理由は、他にもたくさんあった。

いきなり結婚を前提にという時点でかなりおかしい。何を言っているのか分からない。

怪しいを通り越しておかしい。


「それでは、婚約者候補から外れた際には考えていただけるという事でしょうか?」


食い気味に聞かれ、ナナエルは本当に困ってしまった。

ぼんくらだと言われていたがこんな変な人だとは聞いたことがない。

無口だとかぼんやりしているだとかそういう話だった筈だ。


「あの、私、あなたのこともよく知らないですし……」


どう考えても無理ですよね。というのを言おうとすると「そうでしたね。まずはお互いをよく知ってから。そうでしょうとも」とウィリアムは言った。

今日何度目かの、そういう事じゃないという言葉をナナエルは飲みこんだ。


「今日のことは……」


誰かに言うつもりがあるのか。ナナエルが気になっていたのはそこだった。

家族に迷惑はかけたくない。

ナナエルにもその位の貴族としての矜持はある。


「二人きりの秘密ということですね!!」


嬉しそうにウィリアムは言った。

それから何事か、魔法の呪文を唱えた。

ふわりと体が暖かくなったと思ったら、疲れが取れていることに気が付いた。


ナナエルも知らない魔法だった。

本当にこの人は、ぼんくらと呼ばれている人なのだろうか。

疑問はあった。


「それでは、あなたに結婚を承諾いただけるよう万難を排しましょう」


ウィリアムはそう言うと、うやうやしく礼を取って、一瞬でかき消えてしまった。


その後、彼がいたという痕跡は何も見つからなかったし、あたりには何もなく、誰もいなかった。

最初から何も無かったように、しん、と静まり返っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ