傷物とはいえ自由になったことは嬉しい
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ナナエルはしかめっ面を通り越してギリギリと歯ぎしりをはじめそうな父から事の次第を聞いた。
ナナエルは正式に、出来損ないだと王家に認定されたも同然の状況に公爵家の者は皆憤っていた。
母も兄も同じように怒っていた。
けれど、ナナエルは悔しい気持ちが無いと言えば嘘になるがどこかホッとしていた。
もうあの生活に戻ることは絶対に無い。
それだけでもナナエルにとっては嬉しい事だった。
あの王子に蔑まれない。
無理にもう会わなくてもいい。
仕事を押し付けられて軟禁状態にならない。
大好きな本を読む時間も勉強する時間も奪われないというのが嬉しかった。
貴族令嬢としては良くない考え方なのかもしれないけれど、幼いころから王子に馬鹿にされ続けたナナエルはそういう風に考えるようになっていた。
「お父様、私は領地に戻った方がよろしいでしょうか?」
候補とはいえ出来損ないのレッテルをはられてしまったのだ。
社交で足を引っ張ってしまっても仕方がない。
領地に戻っておとなしく暮らすのも悪くないとナナエルは思った。
「そんな必要は無い。
汚名は必ずそそぐ。
こちらにも考えはある」
父に意思のこもった力強い声で言われた。
「それに、お花、届かなくなるのは残念でしょう?」
母がそう言った。
ナナエルが毎日あの氷の花を楽しみにしていることはお見通しらしい。
そうして、ナナエルはもう少し王都に留まることになった。
学園はどちらでもいいと言われた。
ナナエルは少し悩んだ。
学園でやる範囲はすでに全て予習している。
恐らく出来損ないの傷物令嬢として居心地は最悪だろう。
けれど、貴族として学園も出ていないのは、となるのも分かる。
留学をするという手もあるけれど、それは領地に引きこもるのとあまり変わらないし、氷の花はやはり届かなくなってしまうかもしれない。
ナナエルの兄が「転科するという方法もある。たまに、騎士科に通っていた令息が跡取りとなるのでみたいなことはあるから」と言った。
ナナエルは少し考えた。
ウィリアムはこれからもずっと歴史研究科にいるのだろうか。
彼も転科して入れ違いになってしまうだろうか。
「歴史研究科で静かに勉強するという事は、許していただけるでしょうか?」
ナナエルが父に聞くと「確認しておこう」と公爵は言った。
なお、領地にこもっても、留学しても贈り物は届くとは思います。




