密談
※父と父とウィリアムの話です
* * *
「すべては娘の気持ちしだいですな」
ナナエルの父である公爵はもう間違えるつもりは無かった。
地位や権力のある人間に嫁ぐことで安定的な将来を娘が描けるものだと思っていたがそうはならなかった。
まずは彼女の望む彼女の幸せを優先したかった。
目の前に座る侯爵、宮廷魔術師団長とその息子はうなずく。
「ナナエル嬢の気持ちを優先するのは勿論です。
けれど、この件とは別問題として、王子の横暴は許されるものではないでしょう。
その件で是非私たちの家門は協力をしたい。そういう申し出と考えてください」
公爵家としては、王家に抗議をしなくてはならない。
抗議だけでは済まない。
婚約者候補から必ず娘を自由にしてやると公爵は決めていた。
ただ、王家との摩擦は避けられないものになるだろう。
国内の貴族のパワーバランスさえ変えるかもしれない。
公爵はそれを覚悟していた。
けれど公爵家の力がそがれる結果に娘は責任を感じるだろうとも思った。
「もしも公爵が独立するというなら我が家門は御供いたしますよ」
ウィリアムが言った。
近く代替わりが行われると最初に説明されたが、侯爵は何も訂正しない。
息子の意見に問題が無いと考えているという事なのか……。
公爵は驚いていた。
公爵という立場だ。
この令息がただのぼんくらではないという事は知っていた。
ただ、権力欲などからほど遠い精神をしているのでその評判を甘んじてうけているのだと思った。
それは違ったようだ。
娘はとんでもない大物を釣り上げてしまったのではないかと心配になる。
「くれぐれも、娘の意思というものを尊重してくださいね」
「勿論です」
侯爵がげんなりとした顔で自分の息子を見ていたのは気のせいということにした。