休息が必要
使用人たちは、ナナエルを風呂に入れ、そして、丁寧に髪の毛をとかし、それから消化の良い食べ物を部屋に用意した。
ナナエルは疲労からか、ぼんやりとした思考でされるがままになり、少しだけ食事をした。
ベッドに横になってから、ウィリアムのことを父にも母にも話してないことに気が付きベルで使用人を呼んだ。
使用人は「大丈夫ですから今はお休みください」と言った。
何か伝わっているのだろうか。それとも彼女が伝えてくれるのだろうか。
ウィリアムが少し……、いや、かなり変であったことは話の本筋ではない。
侯爵家の令息と接点を持ったこと、求婚じみたことを言われた事だけが重要だ。
それであればナナエルが直接報告しなくてもいいのかもしれない。
本来はそんなことは全くないのだけれど、疲れ切ったナナエルはその時はそう思ってしまった。
酷い顔色で眠るナナエルを見下ろして、使用人は部下に、「今の話をご主人様に」と言った。
使用人たちはナナエルを起こさぬよう、足音も立てずに屋敷のあちらこちらへ報告に向かった。
それから、ナナエルが目を覚ますまでの間、部屋の暖を取り、水差しの準備をし、静かに待機をしていた。
ナナエルがおきたのは翌朝10時過ぎになってからのことだった。
それでも目の下にはまだクマがくっきりと残っており、疲れは取り切れてない印象だった。
「お父上とお母上がお呼びですが、いかがいたしますか?」
ゆっくりと身支度をした後、学校には数日いかなくてもいいと言われ、この後の予定についてそう聞かれた。
体調がすぐれないようなら別の機会をと言われていたらしいが、ナナエルは両親に会うことにした。
婚約者候補の件が駄目になってしまっても、というか駄目になって欲しかった。
あの王子との未来を考えたくは無かった。
準備されていたのは応接室の一つで大きな窓からはあたたかな日差しが差し込み、アフタヌーンティーの様な準備がされていた。
アフタヌーンティの時間にはまだ早いけれど朝食をとっていなかったナナエルにはありがたかった。
まず少し食事をしてからという事になりゆっくりと食事をした。
流し込むように飲まない紅茶はいつぶりだろうか。
それだけで少しナナエルは泣きそうになる。
ナナエルが、ほっと、一息ついたところで公爵が話始めた。
「すまなかった。
我が娘がこんなことになってると気づけず。
もうこんなことは終わりにさせるし、落とし前はつける。
だから、ナナエルはまずゆっくりと休むんだ」
公爵はそう言った。
ナナエルははっとして父親の顔をよく見た。
それはちゃんとした婚約者になれなかったナナエルを蔑むものではなく、ただひたすら娘を心配する父親の目だった。
ナナエルは涙があふれ「お父様。お母様。」と言った後は嗚咽で上手く言葉を紡ぐことができなかった。
父と母は何も言わずナナエルのそばに歩み寄ると左右からナナエルをぎゅっと抱きしめた。